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1.身代わり生活の始まり
4.
しおりを挟むカチャッと扉が開く音が聞こえて人の気配がした。慌てて振り向くと、そこに立っているのはさっき見た皇帝。僕は恐ろしくなって、その場に跪いた。
豪華な部屋だと思っていたけど、ここは皇帝の部屋だったんだ……
「アルバンだったか? アルでいいだろう」
「はい」
アルバンは王子様の名前で、僕はアルフレートだけど、そんなことは言えないから、僕は皇帝の言葉を肯定した。
だけどアルと呼ばれるなら、僕は普段からアルと呼ばれていたから違和感なく過ごせそうだ。
「この上着は肩が窮屈だ」
謁見の時にはみんなが正装しないといけないと聞いた。皇帝が着ているたくさん刺繍が施され、飾りもたくさんついている上着は重くて窮屈そうだ。僕が着ている王子様に着せられた衣装もちょっと窮屈だけど、苦しいってほどではない。
皇帝ともなると、安全のために服の中に硬い鉄板とか防具を仕込んでいるんだろう。
「脱ぎますか?」
「手伝え」
「はい」
上着を脱ぐのを手伝ってあげたら、ジッと顔を見られた。
なんだろう? 早くも偽物とバレてしまったんだろうか? 目を逸らすわけにもいかず、僕は固まったまま時が過ぎるのを待った。
ものすごく怖い。背中を冷たい汗がツーッと伝っていく。
「噂どおり目の色が左右違うんだな」
「あ、はい」
青っぽい色と少し赤みが強い色、僕の目はオッドアイだ。王族はオッドアイの人が多かった。僕よりもっとはっきりと色の違いが分かる感じだったけど、この目のこともあって、僕は王子様の身代わりに選ばれたのかもしれない。
「お前は俺の所有物になった。分かるか?」
「はい」
「俺以外の言うことは聞くな」
「はい」
「よし、では今夜が楽しみだな」
今夜? 僕は首を捻って考えたけど、分からなかった。歓迎の宴でも開いてくれるんだろうか? 謁見室に通された時のみんなの反応からして、それはなさそうだ。
じゃあなんだろう?
「ここにいろ」
「はい」
「俺はあっちの机で仕事をする」
「分かりました」
僕は大人しくソファに座ったまま動かなかった。少しでも機嫌を損ねる行動をとったら、殺されるかもしれない。
迂闊な発言から、僕が王子でないことがバレてしまうのも怖かった。
しばらくすると、皇帝は書類が積み上がった机の向こうから僕に視線を向けた。
「ここにいろと言ったが、動くなと言ったつもりはなかった」
「そうですか……」
「退屈だったろ? 部屋の中なら動いてもいいぞ」
「ありがとうございます」
部屋の中なら動いてもいいと言われても、人の部屋の中をジロジロ見ていいとは思えない。彫刻が綺麗な金色の額縁に入った絵も、高そうな花瓶も、宝石の塊みたいなものも、僕にとってはよく分からない。
見たところで、ふーん、という感じだ。
僕はなるべく皇帝の視界に入らないように、少し離れてゆっくり音を立てずに歩いた。
本棚か。歴史の本や、地形の本、周りの国の地図などもあったけど、僕が興味を惹かれるものはない。
高いところに、『竜に乗った少年』という本が見えた。竜になんて乗れるの?
竜人族はいるけど、竜という存在自体が伝説だから、創作された物語かもしれない。だけど他の本よりはずっと面白そうだ。
僕は手を伸ばしたけど、届かなかった。背伸びをしてもダメだ。読んでみたかったけど……諦めるしかない。
「その本が読みたいのか?」
急に背後から声をかけられて、僕はビクッとしてしまった。さっきまで机で書類に囲まれて何か書いていたのに、いきなり後ろに立つなんてびっくりするに決まってる。
「えっと、はい」
「これは面白いぞ」
「それは楽しみです」
皇帝は竜に乗った少年の本を手渡してくれた。
「ありがとうございます」
僕より頭一つ分くらい背が高い皇帝を見上げると、ニヤッと微笑まれてちょっと怖かった。
僕はその後はソファに座って『竜に乗った少年』を読んだ。
少年は両親を病で亡くし一人ぼっちになった。それで一人で森に入って遊んでいた時に、竜の子どもが罠にかかっているのを見つけた。
本来なら鹿や猪を捕えるための罠だ。その罠に子どもの竜はかかってしまった。
少年が助けてあげると、竜は飛び立っていったんだけど、三年後、竜は成長して少年の前に現れた。
そして少年を乗せて空高く飛び立った。
各地を回って、竜と共に戦ったり、いろんな景色を見たり、困っている人を助けたりした。
しばらくすると少年は村が恋しくなって帰ることにしたんだけど、村に災いを招くと言いがかかりをつけられて村を追い出されてしまう。
竜は悲しみに暮れる少年に寄り添った。
少年は竜に家族の話をした。とても優しい母と、強くて格好いい父、いつか家族が欲しいと涙を流す少年に、竜は決意を固めた。
人の姿になって家族になることを。
一度も中断することなく、最後まで本を読み切ってしまった。皇帝が面白いと言っていたけど、本当に面白かった。
もう一度読みたくなって、初めのページから読み直していると、皇帝が僕の隣に座った。
「面白かったか?」
「はい、とてもおもしろかったです。今はもう一度最初から読み返しているところです」
「ふっ、そんなに気に入ったか」
鼻で笑われてしまったけど、眉間に皺が寄っていない皇帝の顔が見れたからよかった。
皇帝はずっと怒ってるわけじゃないみたいだ。本を取ってくれたし、怖い人じゃないのかな?
陛下のために尽くせって言われたけど、僕にできることなんてあるんだろうか?
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