【完結】王子様の身代わりになった僕は最恐と恐れられる皇帝を肉球で癒す

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1.身代わり生活の始まり

14.

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 翌日から僕は、エデラーさんに計算やこの国のことを教えてもらうことになった。

「アル様はエルヴァニアにいた頃から、このように勤勉だったのですか? だとすると、王家はアル様を手放すのは惜しかったでしょうね。まさか後から『やっぱり返せ』などと言ってこないですよね?」
 エデラーさんは優しく微笑みながら怖いことを言った。

 アルバン様って本当はどういう人だったんだろう?
 なぜアルバン様が帝国に行くことになったんだろう?
 エデラーさんが言うとおり、勉強熱心で人柄もいいなら、王家は出したがなかっただろう。
 僕を身代わりにしたのはそのせい?
 だとしても、なんの説明もなく人を騙す人をいい人なんて思えない。

 僕は、心が狭いのかもしれない。身代わりにされたことは、もうどうしようもないことだと受け入れているけど、彼を許せるかどうかは別問題だ。

「アル様? どうかされましたか?」
 僕がエデラーさんの質問に応えられないでいると、心配そうに顔を覗き込まれた。

「いえ、少し懐かしく思っていただけです。兄が優秀なので、国のことは兄に任せておけば心配ありません」
「そうですか。アル様が優秀だと仰る方であれば、安心ですね」

 本当は知らない。アルバン様は僕と話したがらなかったし、アルバン様は第二王子だと聞いているけど、僕は第一王子に会ったことがない。会ったことないどころか名前すら知らないんだ。
 ここはもう、笑って誤魔化すしかない。エデラーさんを真似て、頑張って微笑んでみる。上手くできたかな?

「アル、無理して笑うな。国が恋しいのか? 残念だがお前は俺と一緒にいる運命だ。諦めろ」
 皇帝は耳がいいんだっけ……
 話を全部聞かれた上に、僕の笑顔は下手だったみたいだ。無理に笑顔なんて作るんじゃなかった。恥ずかしい……

「陛下、諦めるなんてとんでもない。僕は望んで帝国に来たのです」
 これは本当だ。王子の身代わりをさせられるとは思っていなかったけど、僕は一生帝国でアルバン様の従者として生きていくと決めて国を出た。
 国へは二度と帰れないことを知った上で帝国に来たんだ。僕は殺されたとしても、家族が幸せになればそれでいい。

「アル、大切にしてやる。お前の帰るところはここだ」
「はい」
 大切にしてくれるの?
 皇帝は僕の手が好きだからかな?
 父さん譲りのこの柔らかい手のひらと指が、僕とエルヴァニアを救ってくれたよ。
 これって喜んでいいことだよね?

「グレオン様、よかったですね。大切な方ができて」
 エデラーさんが皇帝に向けて微笑んでいるけど、皇帝がよかったの? 僕じゃなくて?

 元から皇帝はエルヴァニアから迎えた王族を害すつもりなんてなかったのか……
 恐ろしい噂ばかり聞いていたから怖かったけど、アルバン様も最初から知っていたら恐れることなんてなかったのに。
 そこまで考えて、僕は救われたのではないことに気づいた。

 皇帝は僕ではなく、エルヴァニア王国の王子を大切にすると言ったんだ。僕は現在進行形で皇帝を騙しているのだから、やっぱり命の危機があることに変わりはない。

 僕は王子ではなく平民なんだから、お城にいることも、皇帝のそばにいることも、本来ならあり得ない。僕は身代わりなんだ。きっとバレたら殺される。大切に扱われるべき存在ではない。
 最初からそんなこと分かっていたのに、なぜ救われたなんて勘違いしてしまったのか……

「アル様、お勉強を始めましょうか」
「はい」
 僕も役に立つことができたら、ここにいていいって言ってもらえるんだろうか?
 それはないか……
 引き続き、バレないよう気を引き締めていこう。それが唯一僕にできることだ。

「おや? 昨日の計算問題をお一人で進めたのですか?」
「はい。一人になる時間があったので、その時に解けそうなところだけ……」
「偉いですね。こんな生徒ばかりなら、私も教えるのが楽しかったでしょう」

 そんなことを言われても、なんと答えていいのか分からなくて困る。
 僕は問題用紙に視線を落としたまま黙っていた。

「ではこの解いていただいた問題のところから解説しましょう」
「はい。お願いします」

 途中で薬師が部屋を訪ねてきたけど、昨日の緑の縁の眼鏡のおじさんではなかった。まさか本当に戦場に送られたの?
 怖くて聞けないし、忘れることにしよう。僕は身代わりだとバレるまでは大切にしてもらえるんだから、余計なことは言わない。
 引き続き皇帝の機嫌は損ねない方がいい。

 今日の薬師は真っ白なシャツを着た真面目そうな男の人だ。今日は空が曇っているけど、皇帝は頭が痛いのかな?
 少し気になってしまう。

「アル様、少し休憩にしましょう」
「あ……はい」
 たぶんエデラーさんにはバレてる。僕の注意が皇帝と薬師に向いていたことが。

「すみません」
「なんのことですかな?」
 分かっているはずなのに、気づかないふりをしてくれた。何でだろう?

 皇帝は今日も眉間に深い皺が刻まれている。だけど薬はいらないと薬師を下がらせた。
 頭痛くないのかな?

「今日もグレオン様は機嫌がいいですね。やはりアル様を迎えたのは正解でした」
 そんなこと言われても困る。僕は偽物で、王子ではないんだから……

 
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