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2.猫の王子(グレオン視点)
17.
しおりを挟む謁見室を出ると俺を待ち構えていたように一人の大臣が前に立ちはだかった。俺の行手を遮るのであれば、それ相応の理由があるんだろうな? 少し睨みを効かせると大臣は目を逸らし、懐からハンカチを出して額に浮かんだ汗を拭った。
「陛下、僭越ながら……彼のような者をお迎えになるのですか?」
いつでも余計なことを言う者はいるものだ。
「ほう、お前は俺がやることに口を出す気か? 数千年に渡り続いた我が国の伝統を壊すに値する理由をお前が持っているなら聞いてやろう。今すぐに述べよ」
「それは……」
こいつは娘を俺の嫁にしたいんだったか? そんな奴がゴロゴロいるせいで、もう娘がいる大臣は全てそうなのだと思えてくる。煩わしいことだ。自分の嫁くらい誰の世話も受けず自分で探すというのに。
こいつにとってエルヴァニアから送られた王子が邪魔なんだろう。くだらない理由で俺の時間を奪うようなら容赦はしない。
「なんだ? 俺の時間を奪ってまで伝えたいことがあるのだろう? 俺を待たせる気か?」
「ですが……あのような弱き者をそばに置くなど……」
俺の質問を理解していないらしい。それとも俺の質問には答える気がないということか。俺は会話の受け答えができない相手が一番嫌いだ。こいつは邪魔だな。
「よく進言してくれたな、大臣」
彼はほっとした表情を浮かべた。俺が会話が成り立たない奴の進言を受けるわけがない。俺を引き止めるに値する理由を説明できるのであれば聞いてやるが、もうこいつに対する期待はない。
「よし、褒美を取らす。お前の娘の嫁入り先は第七部隊隊長のフォルトナーだ。喜べ。お前と息子二人を含め一族ですぐに東へ発ち、フォルトナーの前線部隊を支えよ。活躍を期待しているぞ」
近くに控えていた文官に視線を送ると、既に沙汰を記した文書を作成していた。
「陛下、こちらにサインを」
「お前は仕事が早くて助かる」
俺は手早くサインをすると、文書を複写して一部持ち、唖然とする目の前の男に一部を握らせた。
俺が使う闇魔法は文書の複写にも使える。使えるからといって多用することはないが、このように時間を取られたくない場合には有効だ。
「時間の無駄は嫌いだ、すぐ動け!」
俺が少し強い口調で告げると、大臣は転びそうになりながら俺の前から一目散に逃げていった。
ここで反発してくるような者であれば、その気概を買ってやらんでもないが、言いなりか。
あいつが弱き者と蔑んだ猫王子と、果たしてどちらが弱いのか。
無駄な時間を取られてイライラしながら部屋に戻ると、さっき謁見室で見た小さな猫の王子が俺の部屋にいた。
俺が扉を開けると、ゆっくりとこちらを向いて、慌てた様子でその場に跪いた。
さっきは距離があったし、丸まるようにしていたから小さく見えたのだと思ったが、彼は本当に小さかった。
「アルバンだったか? アルでいいだろう」
「はい」
王族のこいつは名前を短縮して呼んだり、敬称をつけずに呼んだら怒ったりするのかと思ったが、そんなことはなかった。まだこいつがどんな人物か分からず、少し試してみることにした。
「この上着は肩が窮屈だ」
「脱ぎますか?」
「手伝え」
「はい」
人の着替えを手伝うなどとんでもないと断ってくるのかと思ったが、そんなことはなく本当に手伝ってくれた。立ち上がると小ささが際立つ。俺の肩ほどの高さで子どもみたいだ。
獣人というのはこんなにも小さく弱いのか。それは国を守るのも大変だろう。
そういえばケットシーの血を引く者は左右の目の色が違うと聞いた。
よく見てみると、少し吊り上がってぱっちりと大きな目は、左右で色が違った。右は青っぽく、左は赤みが強い。俺のように血のような濃い赤ではなく、ピンクに近い薄い赤だ。どちらも透き通るほどに透明で、美しいと思った。
「噂どおり目の色が左右違うんだな」
「あ、はい」
彼はさすが王族というべきか、俺と目を合わせても他の者のように目をすぐに逸らしたりはしなかった。王族としての誇りか、ケットシーの血を継ぐ者としての誇りか、どちらにせよ思ったよりは悪くないと感じた。
「お前は俺の所有物になった。分かるか?」
「はい」
「俺以外の言うことは聞くな」
「はい」
「よし、では今夜が楽しみだな」
戦えない弱い者など、愛玩にする以外に使い道はない。彼は意味が分かっていないのか、不思議そうに首を傾げた。無知なのか、阿呆なのかは分からないが、これから見極めていけばいい。
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