【完結】王子様の身代わりになった僕は最恐と恐れられる皇帝を肉球で癒す

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3.静かに過ぎる日常

25.

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「アル、この書類の計算が合っているか見てくれるか?」
「はい」
 とうとう僕に仕事が回された。緊張しながら陛下から書類の束を受け取る。これ全部?
 たくさんあるけど頑張ってやろう。
 エデラーさんに色々な計算方法を教えてもらったから、きっとできるはずだ。

 あれ? こんなに簡単な計算なのに間違いが多い。
 エデラーさんには本当に色々な計算を教えてもらったけど、皇帝から受け取った書類では、難しい計算方法は必要なかった。

 数は多いから頑張って解いて、間違っている箇所を修正して皇帝に渡す。間違いがないよう二度計算したから大丈夫なはずだ。
「もうできたのか?」
「はい、時間がかかってしまい申し訳ございません」
「計算が得意だと言うだけのことはある」
 それって褒めてくれているのかな?

 皇帝に「大切にする」と言われてから、僕は本当に大切にされていると感じる。最恐と言われているのに、僕に対しては怖い顔を見せない。
 たまに大臣や軍の人が報告を持ってくると、眉間に皺を寄せて怖い顔になることがあるけど、彼らが部屋を出ていくと、寄せられていた眉は元に戻る。
 夜になるといつも緊張するけど、初日以来、皇帝は僕のことを犯さない。その理由は分からないけど、僕の体がイマイチだったんだろう。僕には経験がないから仕方ない。こんなことは、どこかで練習するわけにもいかないし、このまま体は求められないといいな。

 しばらくすると軍や国の経理の計算を手伝うようになった。
 ヴェルナー帝国には五十万人の兵がいる。数万と聞いていたけど桁が違った。それだけの大きな軍を抱えていると、お金もたくさんかかるんだ。各地の戦争に派遣している兵の食糧や装備、武器、薬品なども帝都や他の街から必要量を送らなければならない。
 軍には戦場で働いている人だけでなく、国境を守る人や、街の治安維持をする人、お城を守る人、たくさんの人がいる。
 帝都のお城に隣接された軍の建物にも、常時十万人を超える人がいて、その人たちは訓練をしたり、たまに戦場の人と入れ替わったりしている。

 軍の建物にも連れて行ってもらった。設備を維持するだけで大変そうな、とても大きな施設があって、僕は見ていないけど、その奥には訓練場や寮もあるそうだ。

 軍には戦わない人もいる。書類を整理したり、情報を伝達するだけの人、薬師など医療に携わる人、それと会計を任されている人。
 僕はその中の会計を任されている部署の人に挨拶をしに行ったんだ。
 軍の建物の中で会計の部署の人は二十人程度で、みんな駆け回っていた。戦地に送る物資の調達が大変なのだとか。

「は? もう今年はこれ以上出せない? じゃあどこから仕入れるんだよ!」
「そんなこと私に言われても困る。どこでもいいからかき集めてください」
「なあ、ここさあ、こんなに要るのか? 計算おかしいだろ」
「知らないよ、おかしいと思うなら自分で計算やり直して」
 怒号というほどではないけど、みんなちょっとイライラしながら駆け回っている。
 しかし皇帝の姿が彼らの目に入ると、みんな手を止めてビシッと姿勢を正して敬礼した。

「作業を続けろ」
 僕は皇帝と共に部長と呼ばれる人のところに連れて行かれて、挨拶をした。
 人手が足りないというわけではないけど、各所から上がってくる会計の報告書に計算間違いが多いのだとか。それを計算し直したりすると、時間がいくらあっても足りないと愚痴を聞かされた。
 この人は皇帝を前にしても、好きなことを言う。顔色を伺う余裕も暇もないそうだ。

 たまにふわっと黒い靄が通り過ぎることがある。軍の施設では他よりもよく見かける気がする。気のせいかと思っていたんだけど、皇帝がその靄を手で払うのを僕は見た。
 あれって手で払えるんだ?
 あれは一体なんなんだろう?
 帝国の軍事機密だったら教えてもらえないだろうし、なんとなくよくない気配がするから聞きにくい。
 何度か聞いてみようと思ったことはあるけど、いざとなると怖くて聞けないままだ。

 僕の近くに漂ってきたら、皇帝みたいに手で払ってみようと思う。
 黒い靄を見つけて、近づいてみたらなぜか黒い靄が消えてしまった。次に見つけた時は、僕を避けるように逃げていって消えた。
 よし、今度は見つけたら逃がさないぞ。

 僕は靄を見つけて駆け出すと、手でエイッと払ってみた。できたのかはよく分からない。ただ消えたのか、僕が払ったからどこかへいったのか。
 気になって何度もやってみるけど、僕が手で払うと消えてしまうように見えるんだ。

「アル、何をしている?」
「えっと……なんでもありません」
 黒い靄みたいなのが何なのか分からないし、何をしていると聞かれても、僕は一体何をしているのか説明できない。
 興味本位で近づいて遊んでいるみたいなものだ。

「まあいいが、危ないことはするなよ」
「はい」

 
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