【完結】王子様の身代わりになった僕は最恐と恐れられる皇帝を肉球で癒す

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4.帝国の闇と手記(グレオン視点)

33.

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「アル、俺はちょっと出てくる」
「はい、いってらっしゃい」
 アルとエデラーを残し俺は部屋を後にした。

 キスで救われたという手記の一文がずっと気になっている。アルとキスをした後は空が晴れることが多い。空が晴れるからキスをしたくなるのか、それともアルとのキスが関係しているのか。
 前者であれば、アルとずっとキスしていれば日照り不足が解消されるのか?
 そんなバカな話はない。くだらないことを考えるべきではない。俺はバカな考えを払拭するために頭をぶんぶんと振った。

 禁書庫に行くか……
 フランなんとかという王子を愛した皇帝の手記を読みたくなった。癖の強い手記だが、彼は愛し愛されている。泣く子も黙る恐ろしい皇帝は同じはずなのに、俺と何が違うのかが知りたい。


 =====
 七の月 晴れた日

 フランフレートは可愛い。死ぬほど可愛い。目覚めてから寝るまでずっと可愛い。
 私は可愛くて悶え死にそうだ。

 特に警戒した時の猫パンチ。フランは決して弱者ではない。
 だがそれでも私が守ることに意味がある。闇の皇帝として光を守る。それが私の使命だ。
 =====


 勝手に悶え死ねばいい。少し気分が悪くなってきた……
 甘ったるい香りまでしてきて、俺は胸焼けしたようにみぞおちの辺りをさすった。

 猫パンチか……
 見たことはないが、アルもそんなことができるんだろうか?
 大切にするだけではダメか。守らなければならないんだな。しかし何から守るというのだ?
 城や軍で俺のものに手を出すような奴はいないだろうし、アルが強者であれば戦ってみたいと思う奴もいるだろうが……
 我が国では弱者をいたぶる奴より、強者へ挑む奴の方が余程多い。
 残念ながらアルの猫パンチとやらを見ることはないだろう。

 これ以上この皇帝の手記を読む気力はなくなった。
 おそらくこのフランなんとかという王子も光魔法の適性があった。だから「光を守る」などと書かれているんだろう。
 だが、光魔法についての具体的な記述はなかった。

 祖父の手記はどうだ?
 エルヴァニアから迎えた王女は帝国に来て三年ほどで亡くなっているから、あまり関わりはなかったかもしれない。だが少しくらいは何か手掛かりがあるはずだ。
 俺は祖父の手記を開いた。

 祖父の手記は読んだことがない。読むまでもなく父に先代のことを聞けばよかったからだ。


 =====
 三の月 雨の日

 エルヴァニアから王女がやってきた。小さく子どものようだが成人はしているそうだ。

 エルヴァニアの王族を迎えれば、光の効果で日照り不足が解消されると聞いていたが、効果は確認できない。
 今にも私は闇に飲まれそうだというのに、光の効果は感じられない。効果が出るまで私の身が持つか分からない。
 =====


 ふぅ、普通の温度の手記で安心した。
 だが今まで知らなかったことが書いてあった。エルヴァニアから王族を迎えると日照り不足が解消するというのはなんだ?
 そのような効果があるのか?

 アルとのキスは関係なく、アルが我が国に来たおかげで最近は晴れ間がのぞくことが多くなったんだろう。
 だが、光の効果が感じられないのは謎だ。そこから王女が亡くなるまでの三年、手記の天気を確認したが、晴天に恵まれた日はほとんどなかった。
 効果が出るまでに時間がかかる可能性もあるが、そこは分からない。

 王女は光魔法の適性を持っていなかったんだろう。だが光魔法を浴びていれば効果があるのではなかったか? やはりそれは嘘だったということかもしれない。

 ふとアルが言っていたことが気になった。
 ──光魔法の適性はあるが教えてくれる人がいなかった。
 教えてくれる人がいないとはどういうことだ?
 アルに聞いてみよう。それがいい。

 俺は大きな収穫のないまま部屋に戻ることになった。
「アル」
「陛下、おかえりなさい」
 アルが迎えてくれると、それだけで鬱々とした気持ちが晴れていく。
 エデラーとの勉強は終わったようで、エデラーは部屋にいなかった。アルの手には『竜に乗った少年』の本が握られている。またその本を読んでいたのか。

 アルが『竜に乗った少年』の本が好きだと言うから、本の置き場所を変えた。背の低いアルでも届く場所に置いてやることにしたんだ。
 その他にも、アルが帝国の歴史や地理を勉強しているため、本棚の本の配置はかなり変わった。

「話をしよう」
「はい」
 アルの手を握りソファの隣に座る。アルの手はけしからん。また俺を虜にする。

「前に光魔法の適性があるが、教えてくれる人がいなかったと言ったな。それはどういうことだ?」
「光魔法を使える人がいなかったので教えてもらえませんでした」
 いないとはどういうことだ?

「王族には使える者がいるのではないか?」
「王族に発現しなくなってしばらく経つと聞きました」
 そういうことか。それで祖父の代に送られてきた王女では役に立たなかったんだな。早くに亡くなったせいかと思っていたが、それ以前の問題だったか。
 それより前に送られてきた者もそうかもしれない。

 なるほど……?
 ……だが、なんだこの違和感は。何かが引っ掛かる。
 エルヴァニアは光魔法を秘匿し独占していると言える。それなのに久しぶりに王族から光魔法の適性者が出たのに、簡単にアルを手放し、帝国に送ってきたのか?

 長年適性者が出ていなかったことで、光魔法の重要性が薄れたということも考えられるが、どこか腑に落ちない。
 違和感があるが、我が国としてはありがたいことだ。返せと言ってきても絶対にアルは返さないぞ。

「アル、キスしていいか?」
「はい」
 アルの華奢な体を持ち上げ、俺の膝の上に乗せる。温かいアルを抱きしめるだけで幸せな気持ちになる。今日も頭が軽い。
 フランなんとかという王子を愛した皇帝のようになってしまいそうだ。

 軽く唇を重ね、そしてぎゅっと抱きしめる。アルの耳がピクピク動いているのが可愛い。

「抱きたいが、まだ俺のことが怖いか?」
 アルは一瞬ビクッと身を硬くし、「いいえ」と答えた。
 まだ怖いんだろう。初めにあんな無茶な抱き方をしたせいだ……

「アル、あんな抱き方をしてすまなかった。もっと優しくするべきだった。いつか俺を受け入れてくれるとありがたい」
「はい」
 その返事は本心か?
 俺が怖くて「はい」と言うしかなかったのか?
 誰に嫌われても構わないと思っていたが、アルに嫌われるのは怖い。
 どうやったらアルの心が手に入るんだろう?

 
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