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5.訪れる変化
39.
しおりを挟む「アル、これを着てみろ」
「はい」
皇帝に渡されたのは、革の胸当てと手と脚のプロテクターだった。胴体と腕と足を守る防具だ。
森って、まさか何かと戦うために行くの?
「心配しなくても俺が守ってやる。俺は帝国で一番強いからな」
「森へは戦いに行くのですか?」
「俺たちは見ているだけだ。森の魔獣を少し間引いておかないと、人里に出てきたら被害が出るからな」
それは必要なことなんだろう。エルヴァニアでも森の動物の間引きというのは行われていた。魔獣ではなく、猪や鹿だったけど、増えすぎると人里に下りてきて農作物を荒らしたりするからだ。
それが魔獣という攻撃性の高い生き物の場合はもっと大変な被害が出るんだろう。
僕も帝国で暮らしていくのなら一度は見ておかなければならない。魔獣というものも、僕は話には聞いたことがあるけど見たことはない。
軍で使っているワイバーンやスレイプニルを一度くらい見せてもらえばよかった。
少しだけ不安な気持ちになりながら、角がある皇帝の黒馬に一緒に乗せてもらった。この馬は僕が知っている馬より大きい。だけどとても大人しい。
周りには多くの軍人が同行している。
馬に乗っている人や、徒歩の人、荷馬車に乗っている人もいる。全部で百人くらいだろうか。帝都の南の森に行くのは百人くらいだけど、同じ時期に一斉に森での間引きが行われるそうだ。他では、もっと多くの人が動いている地域もある。森が大きければそれだけ人も必要になる。軍の会計部長がそんな話をしていた。
皇帝はみんなの前だからか、眉間に皺を寄せたまま怖い顔で手綱を握っている。
みんな先日の中庭の件があるからか、僕とは目を合わさない。なるべく視界に入れないようにしているように見える。
森に入って少ししたところに簡単な天幕を設営すると、みんなは体を動かし始めた。皇帝は胸の高い位置で腕を組んで森の奥をじっと眺めている。
青空が広がっているのに高い木が光を遮って、森の空気は少し冷たい。僕が知っている森より随分と静かだ。虫の鳴き声は聞こえるけど、高い声で鳴く鳥はいない。魔獣がいると逃げてしまうのかもしれない。
準備運動を終えたみんなが、金属鎧をしっかりと装着し、武器を持って集まっている。
少しでも動けばガチャガチャと金属が当たる音がするのに、皇帝が前に立つとその音が消えた。
「事前調査では小型も含めると三百以上! 大型を少なくとも十、中型と小型を百も狩れば帰れるぞ!」
皇帝が声を張り上げると、みんな気合が入った表情になった。そして号令と共に何人かのグループに分かれて森の奥へと入っていった。
「俺たちはここで討伐された魔獣を検分するだけだ。次々と運ばれてくるからしっかり数を数えるぞ」
「はい」
本当に戦わないんだ。僕は数を数えるだけと聞いてホッとした。
この拠点にも二十人くらいが残っている。怪我人の手当てをする人、僕たちと一緒に数を数える人、この拠点を守る人だ。
一時間もすると、みんなが魔獣を持って続々と拠点に戻ってきた。
魔獣って大きくて怖いものだと思っていたけど、みんなが持ってきたのは片手で持てるくらいの大きさの角が生えたウサギと銀色の狼だった。
「アル、あれは小型だ。狼は毛皮が使えるし、牙は武器になる。ウサギは食べられるんだぞ」
「そうなんですね」
僕は数を数える人と一緒に持ち込まれる魔獣を検分していく。
今のところ大型が見つかったという報告はない。大型は少数では戦えないから、見つけたら狼煙をあげて援軍を呼ぶそうだ。
「アル、見てみろ、あれが狼煙だ。もうすぐ大型も見られるぞ」
僕は皇帝が指差す先を見つめた。細い煙が上がっていて、あれなら森にいても見つけられそうだと思った。
大きい魔獣はそんなに見たい気はしないけど、倒されているのなら危なくはない。どれくらい大きいんだろう? ちょっと怖いな。
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