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5.訪れる変化
41.
しおりを挟む一時間くらいずっと必死に黒いのを引き剥がしていたと思う。一旦引き剥がしても、元に戻ろうとするのがいるから本当に厄介だった。
「アル、ありがとう」
僅かに残った黒いのを自らの手で払いながら、皇帝はゆっくりと起き上がった。そしてみんながいるのにぎゅっと僕を抱きしめてくれた。
「俺は大丈夫だから、もう泣くな」
「泣いてません。これは汗です」
みんなの前で泣いたなんて恥ずかしくて、下手な言い訳をしてしまったけど、みんなにはバレバレだったかもしれない……
「アルが魔力を剥がしてくれたおかげで、いつもより早く動けるようになった。頭痛は酷いが、いつもほど破壊衝動もない」
「もう帰りましょう」
「そうだな。あとはみんなに任せて帰るか」
「はい」
帰ろうってことになったけど、馬が怯えて乗せてくれなかった。闇の魔力がまとわりついている時は、動物が怖がるのだとか。
「アル、なんで魔獣が来ると分かった?」
「魔獣かどうかは分かりませんでしたが、すごく嫌な感じがしました」
「そうか、ケットシーの血筋が関係しているのかもな。猫の妖精だろ?」
「……はい」
知らなかった。ケットシーって猫の妖精なの?
シャム猫とかトラ猫とか、猫の中の種類なのかと思ってた。そっか、それじゃあどうやったって僕が代わりになれるわけないんだ。だから今まで必死に守ってくれたんだ。
知りたくなかったな……
みんなはグリフォンの検分をすると、また森に魔獣討伐に戻っていった。
「それでアル、体はなんともないか?」
「はい。盾の人が守ってくれたから大丈夫です」
「そうではない。濃い闇の魔力に触れてもなんともないか?」
「はい。なんともないです」
闇の魔力について教えてもらった。皇帝が倒れているのに誰も助けてくれなかったのは、濃い闇の魔力に触れると、普通の人は倒れてしまうそうだ。
いつもは膝をつく程度で、自分で引き剥がしているんだけど、今日は強敵が相手で闇魔法を使いすぎたのだとか。
「軍やお城で見かける黒い靄も闇魔法を使った時に出るのですか?」
「あれは分からないんだよな。俺以外にも帝国では闇魔法を使える者がいるが、軍では訓練で使ったとしても、城では使うことはないはずだ」
「そうですか。黒い靄も触ったら普通の人は倒れてしまうのですか?」
「倒れはしない。あの程度であれば、触れても頭痛やイライラ、破壊衝動くらいだ」
会議の時にたまに皇帝の肩の辺りにいるけど、会議中なんて闇魔法を使うことはない。
あの黒い靄がどうやって発生するのかは分からないけど、イライラや破壊衝動ってのが少し気になった。あいつは嫌な人や、怒っている人の近くによくいる気がするんだ。僕の気のせいかもしれないけど……
「アル、闇魔法は強力な魔法だ。俺はいつか……いや、なんでもない」
「あんなに大きな魔獣を押さえつけておけるんですから、強力な魔法ということは分かります」
言いかけてやめてしまった言葉は気になるけど、追求するのはやめておこう。
今は疲れた体を休めてほしい。
「手、触りますか?」
「それより、こっちに来い」
「はい」
皇帝は僕の手を取って天幕の裏まで行くと、僕を抱きしめてキスをした。
「んっ……」
「今日はまだ練習してなかったろ?」
そうだけど、みんながいるのに……見つかったらどうするの?
そんなのお構いなしに、皇帝は僕の口の中に舌を潜り込ませてきた。
ダメだよ、そんな激しくしたら立っていられなくなる……
頑張って皇帝の舌の動きに合わせてみようとするけど、僕の拙い動きでは無理だった。力が抜けて崩れ落ちそうになる僕の腰を引き寄せて、皇帝は僕の体を支えてくれた。
「アル、これからも俺をキスで救ってくれ」
「はい」
はいと言ったものの、僕は猫の妖精の血は引いていないから無理だと思うんだ……
でも、皇帝が望んでくれるなら、僕の光魔法の適性が少しでも皇帝の助けになるなら、僕は迷わない。皇帝のことを救いたい。いつかバレてしまうその日までは、頑張って尽くします。
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