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6.打ち明けるとき(グレオン視点)
47.
しおりを挟むアルのおかげで闇魔法を使った弊害ともいえる、俺を飲み込もうとする闇の魔力の脅威からは脱した。
俺を受け入れ救ってくれたアルに俺を知ってほしいと思った。
このことはエデラーと前宰相と俺の三人しか知らない。エデラーは口は硬いし、前宰相はあの件で引退して田舎に退いた。もう表には出てこない。
父がいつから闇に囚われ制御できなくなったのかは分からない。
殴られた頃には、もう正気を失うことが日常的にあったのかもしれない。
俺が王太子となった十三の頃には、既に父の周りには黒い靄が常にあった気がする。
あれは珍しく晴れた日だった。晴れたといっても雲一つない晴天ではなく、青空が見えるという程度だ。
晴れ間は見えるのに蒸し暑くて、雨が降りそうに重い空気だったことを覚えている。
あの日とうとう父は自我を失って、唯一大切にしていた母を手にかけた。
きっかけがなんだったのかは、もう今となっては分からない。
宰相とエデラーは、そろそろ皇帝を代替わりさせたいと準備を進めていた。俺はそれを知っていたが止めることはしなかった。だが進んで協力することもなかった。まだ俺には皇帝の椅子に座る覚悟ができていなかったんだ。
「陛下が自我を失う頻度が増えているように思います」
「私もそれは感じている。先日の魔獣討伐では魔獣だけでなく兵も手にかけたとか」
「俺もそれは気になっているが、父上が退任をすんなり受け入れるとは思えない」
俺はまたいつもの話かと思いながら、宰相とエデラーと共に、当時皇帝だった父の近頃の言動は怪しいものが多いと話していた。すると母の悲鳴が聞こえた。
「なんだ?」
「妃殿下の声では?」
「母上だと? まさか……」
急いで父の部屋に行き、ノックもせず俺たちは部屋に突入した。床に倒れる母に駆け寄ろうとすると、血がベッタリついた剣を父に向けられ、俺は闇魔法を使って父を拘束した。
その間にエデラーと宰相に母の様子を確認してもらう。
「殺す……許さない……頭が……もう遅い……」
父は拘束されながら、意味不明な発言を繰り返している。本当にもう闇に飲まれてしまったのか?
「グレオン殿下、妃殿下はもう……」
宰相の震える声と、受け入れたくない現実。父は母を手にかけたのか?
俺は怒りに任せて父を殴り飛ばし、父は我に返ったように見えた。父は倒れる母のそばまで行き、母の亡き骸を抱きしめ泣いたんだ。
父はいつも俺に「皇帝は恐ろしい存在でなくてはならない」と言っていた。そんな父が泣く姿など見たことがなく、呆気に取られていた俺たちだったが、父は正気に戻ったわけではなかった。
真っ赤な目が怪しく光り、みるみるうちに闇の魔力を引き寄せていく。
魔力は膨大に膨れ上がり、俺たちに向けて魔法を発動しようとしたんだ。
こんなものをここで発動したらどうなるかも分からなくなったんだな。俺たちのことも認識できなくなった父をこのまま生かしてはおけない。
俺は、膨れ上がる魔力と共に父を剣で貫いた。
「……すまない」
それが父の最後の言葉だった。何に対しての謝罪かは分からない。正気だったのかも分からない。光を放っていた目から光が消えていくのと同時に、父の命の灯火も消えた。
「アル……俺は父親を殺した。怖いか?」
「いいえ。とても……悲しいです」
俺の話を静かに聞いていたアルの大きな瞳から、涙が零れ落ちた。
俺は泣けない。「皇帝は恐ろしい存在でなくてはならない」父が繰り返し俺に言った言葉に、まだ囚われたままだ。
アルは俺の代わりに泣いてくれた。それだけで十分だ。
「父だけでなく祖父も闇に飲まれて死んだ。俺もそうなるかもしれない。それでもそばにいてくれるか?」
「はい」
アルは俺を慰めるように、柔らかい手のひらで俺の頬を包んだ。
希望は捨てない。この小さく温かい手は、俺の光だ。
「陛下」
「グレオンだ」
「グレオン様、僕は……」
「どうした? 言ってみろ」
アルは何かを言いかけて、だが言わなかった。言えと詰め寄ったが、悲しそうな顔で静かに首を振った。
何を抱えているのかは知らないが、長い間王家に発現していなかった光魔法の適性がありながら、我が国に送られたことと何か関係があるんだろうか?
そのうち打ち明けてくれる日がくるだろう。
この時の俺は、呑気にそんなことを考え、アルの温かい体を抱きしめて眠りについた。
アルが一人苦しんでいることを、俺は知らなかった。
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