【完結】王子様の身代わりになった僕は最恐と恐れられる皇帝を肉球で癒す

cyan

文字の大きさ
49 / 72
7.裁きのとき

49.

しおりを挟む
 
「グレオン様、僕は……」
「どうした? 言ってみろ」

 皇帝からお父さんのことを聞いた日、僕は思わず自分の正体を明かしそうになった。
 僕は王子様じゃない。真実を明かしてくれた皇帝に、嘘をついたままは嫌だと思ったんだ。──でも言えなかった。国のこと、残してきた家族のことを思うと、言えなかった。

 僕は皇帝のそばに置いてもらえるような立場ではない。地位もそうだけど、僕は皇帝を騙している。
 そんな僕がそばにいてはいけないと思った。

 だから僕は皇帝のそばにいることを止めた。
 あたかも皇帝のためみたいにいいことを言って、僕は逃げたんだ。

 相変わらず皇帝は僕に優しい。会議などがあると皇帝はでかけて、僕はエデラーさんと勉強しながら部屋で過ごす。

「アル様、どうかされましたか?」
「いえ、僕がいない方がきっと上手くいきます」
「悩みごとがあるのでしたら、思い切って明かしてみませんか?」

 エデラーさんが言うとおり、小さな悩みならそれでいいんだろう。いくらエデラーさんが優しくても、僕が王子様の身代わりであることは言えない。
 僕は小さく首を振った。

 僕が皇帝のそばにいるときは、よく肩の辺りにいた黒い靄も、僕が離れてからは見かけなくなった。
 森に行った日、闇魔法を使った後は黒い靄がすぐに寄ってきたけど、その日を境に見かけることが少なくなった。

 夕食をいただき、ソファに隣り合って座る。
 キスの練習も止めようと思ったんだけど、止める理由が思い浮かばなかった。
 本当にそうだろうか?
 僕は皇帝とキスしたいのかもしれない。

「ほら、今日も練習の時間だぞ」
「はい」

 皇帝の頬にそっと手を添えて、唇を重ねる。舌を潜り込ませて、ツルツルして少し冷たい皇帝の舌に触れると、いつもすぐに引き返したくなる。
 怖いからじゃない。気持ちいいからだ。気持ちいいから逃げたくなるなんて変だと自分でも思うけど、欲望のままに求めてしまうのが怖いのかもしれない。

 キスの練習が終わると、皇帝はいつものように僕の手をフニフニと触りながら、僕が今日勉強したことを知りたがる。

「今日は何の勉強をしたんだ?」
「東の国との戦争の歴史を少し。領土を取ったり取られたりを繰り返していることは聞いていましたが、地図で範囲を確認したり、魔力が多い土地が関係していることを聞きました」
「そうか」

 僕がどんな勉強をしたなんて話、全然面白くないと思うのに、皇帝は毎日僕にこの質問をする。
 皇帝の眉間の皺は伸びているから、機嫌はいいんだろう。
 眉間に皺を寄せて部屋に帰ってくることもあるけど、僕が離れてからの方が皇帝は機嫌がいいような気がする。

「アル、今日も抱いていいか?」
「はい」

 皇帝は僕を抱いたとき、頭痛も頭の中の闇も吸い取られるように消えると言った。光魔法が関係しているのかもしれないとも言っていた。
 役に立てるならと思って、僕は皇帝の誘いを断らない。

 初めて抱かれた日、痛くて苦しくて怖かった。そのときは食べられるのかと思っていたから怖かったんだけど、あの日が嘘みたいに、皇帝に抱かれるのは気持ちいい。

 少し冷たい手で、すごく優しく触れてくれる。
 そんなことあるわけないのに、僕が特別になったみたいに感じて、とても幸せだ。

 まだ世間のことをよく知らないまま父を失って、母が病で床に伏して、僕がなんとかしなきゃいけないってずっと頑張ってきた。でも不安で誰かに縋りたかった。誰かに優しくしてほしかった。抱きしめてほしかった。

 光魔法の適性がある僕じゃダメですか?
 やっぱりケットシーの血が流れていないとダメなの?
 そんな答えの分かりきった問いを、僕は飲み込んだまま、今日も皇帝と肌を重ねる。

「アル、俺のことを愛せ」
「はい」

 皇帝の真っ赤な瞳は僕を見つめているはずなのに、本当の僕を知らない。
 ケットシーの血を継ぐ王子だと思っているからそんなことを言うんだ。

 ケットシーが猫の妖精だと知ってから、僕の心はずっとザワザワしている。越えられるわけない壁は厚みも高さも増して僕の前に立ちはだかっている。
 愛したいけどダメなんだ。僕ではダメなんだ。

「グレオン様、愛しています」
 今日も僕は皇帝の真っ赤な瞳を真っ直ぐに見て嘘を重ねる。
 僕は嘘つきなんて大嫌いだけど、嘘をつくのが得意になってしまった。

 
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない

muku
BL
 猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。  竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。  猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。  どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。  勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

もふもふ聖獣様に拾われた不遇オメガは、空に浮かぶ島で運命の番として極上の溺愛を注がれる

水凪しおん
BL
「オメガがいるから、村に災いが降りかかったのだ」 理不尽な理由で村人たちから忌み嫌われ、深い雪の森へと生贄として捨てられた十九歳の青年、ルカ。 凍える寒さの中、絶望に目を閉じた彼の前に現れたのは、見上げるほど巨大で美しい「白銀の狼」だった。 伝説の聖獣である狼に拾われたルカが目を覚ましたのは、下界の汚れから切り離された雲海に浮かぶ美しい島。 狼は人間の姿——流れるような銀髪と黄金の瞳を持つ壮麗なアルファの偉丈夫、レオンへと変化し、ルカにこう告げる。 「君は、俺の運命の番だ」 これまで虐げられ、自分を穢れた存在だと思い込んでいたルカは、レオンの甘く深いアルファの香りと、恐ろしいほどの優しさに戸惑うばかり。 温かい食事、美しい庭園、そして決して自分を傷つけない大きな手。 極上の溺愛に包まれるうち、ルカの心に固く巻きついていた冷たい恐怖の糸は、少しずつほどけていく。 そして、ルカを捨てた村人たちが強欲にも島へ足を踏み入れたとき、ルカは自らの意志とオメガとしての本当の力に目覚める——。 これは、孤独だった不遇のオメガが、伝説の聖獣の番として永遠の幸せと自分の居場所を見つけるまでの、心温まる溺愛ファンタジー。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

処理中です...