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7.裁きのとき
49.
しおりを挟む「グレオン様、僕は……」
「どうした? 言ってみろ」
皇帝からお父さんのことを聞いた日、僕は思わず自分の正体を明かしそうになった。
僕は王子様じゃない。真実を明かしてくれた皇帝に、嘘をついたままは嫌だと思ったんだ。──でも言えなかった。国のこと、残してきた家族のことを思うと、言えなかった。
僕は皇帝のそばに置いてもらえるような立場ではない。地位もそうだけど、僕は皇帝を騙している。
そんな僕がそばにいてはいけないと思った。
だから僕は皇帝のそばにいることを止めた。
あたかも皇帝のためみたいにいいことを言って、僕は逃げたんだ。
相変わらず皇帝は僕に優しい。会議などがあると皇帝はでかけて、僕はエデラーさんと勉強しながら部屋で過ごす。
「アル様、どうかされましたか?」
「いえ、僕がいない方がきっと上手くいきます」
「悩みごとがあるのでしたら、思い切って明かしてみませんか?」
エデラーさんが言うとおり、小さな悩みならそれでいいんだろう。いくらエデラーさんが優しくても、僕が王子様の身代わりであることは言えない。
僕は小さく首を振った。
僕が皇帝のそばにいるときは、よく肩の辺りにいた黒い靄も、僕が離れてからは見かけなくなった。
森に行った日、闇魔法を使った後は黒い靄がすぐに寄ってきたけど、その日を境に見かけることが少なくなった。
夕食をいただき、ソファに隣り合って座る。
キスの練習も止めようと思ったんだけど、止める理由が思い浮かばなかった。
本当にそうだろうか?
僕は皇帝とキスしたいのかもしれない。
「ほら、今日も練習の時間だぞ」
「はい」
皇帝の頬にそっと手を添えて、唇を重ねる。舌を潜り込ませて、ツルツルして少し冷たい皇帝の舌に触れると、いつもすぐに引き返したくなる。
怖いからじゃない。気持ちいいからだ。気持ちいいから逃げたくなるなんて変だと自分でも思うけど、欲望のままに求めてしまうのが怖いのかもしれない。
キスの練習が終わると、皇帝はいつものように僕の手をフニフニと触りながら、僕が今日勉強したことを知りたがる。
「今日は何の勉強をしたんだ?」
「東の国との戦争の歴史を少し。領土を取ったり取られたりを繰り返していることは聞いていましたが、地図で範囲を確認したり、魔力が多い土地が関係していることを聞きました」
「そうか」
僕がどんな勉強をしたなんて話、全然面白くないと思うのに、皇帝は毎日僕にこの質問をする。
皇帝の眉間の皺は伸びているから、機嫌はいいんだろう。
眉間に皺を寄せて部屋に帰ってくることもあるけど、僕が離れてからの方が皇帝は機嫌がいいような気がする。
「アル、今日も抱いていいか?」
「はい」
皇帝は僕を抱いたとき、頭痛も頭の中の闇も吸い取られるように消えると言った。光魔法が関係しているのかもしれないとも言っていた。
役に立てるならと思って、僕は皇帝の誘いを断らない。
初めて抱かれた日、痛くて苦しくて怖かった。そのときは食べられるのかと思っていたから怖かったんだけど、あの日が嘘みたいに、皇帝に抱かれるのは気持ちいい。
少し冷たい手で、すごく優しく触れてくれる。
そんなことあるわけないのに、僕が特別になったみたいに感じて、とても幸せだ。
まだ世間のことをよく知らないまま父を失って、母が病で床に伏して、僕がなんとかしなきゃいけないってずっと頑張ってきた。でも不安で誰かに縋りたかった。誰かに優しくしてほしかった。抱きしめてほしかった。
光魔法の適性がある僕じゃダメですか?
やっぱりケットシーの血が流れていないとダメなの?
そんな答えの分かりきった問いを、僕は飲み込んだまま、今日も皇帝と肌を重ねる。
「アル、俺のことを愛せ」
「はい」
皇帝の真っ赤な瞳は僕を見つめているはずなのに、本当の僕を知らない。
ケットシーの血を継ぐ王子だと思っているからそんなことを言うんだ。
ケットシーが猫の妖精だと知ってから、僕の心はずっとザワザワしている。越えられるわけない壁は厚みも高さも増して僕の前に立ちはだかっている。
愛したいけどダメなんだ。僕ではダメなんだ。
「グレオン様、愛しています」
今日も僕は皇帝の真っ赤な瞳を真っ直ぐに見て嘘を重ねる。
僕は嘘つきなんて大嫌いだけど、嘘をつくのが得意になってしまった。
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