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7.裁きのとき
51.※
しおりを挟む震えるまま、僕は皇帝に腕を掴まれて謁見室を退室した。謁見が終わるまでの間、どんな会話があったのか全く頭に入ってこなかった。
「アル、あいつが言ったことは本当か?」
「はい」
「分かった、投獄する」
「はい」
僕は罪人として軍人に左右を固められて連れて行かれた。
お城の地下には、暗くて冷たく、ジメジメした牢があった。牢はいくつかあるみたいに見えたけど、他には誰もいない。
魔導灯もなく、簡素なオイルランプの火がゆらゆらと揺れている。
ランプに照らされ壁に映る自分の影は、まるで猫の化け物みたいだ。嘘を重ねた僕にぴったりの姿だと思った。
鼻をつまむほどの強烈な匂いではないけど、僅かな腐敗臭が漂ってくる。
殺されるまでの間、僕はここで過ごすんだろう。
魔導灯って明るいんだな。オイルランプでは手元を照らすのが精一杯だ。部屋全体を照らしたりはできない。
でもそれがかえってよかった。何も見ないで済むから。
今が朝か昼かも分からない、光を失った地下牢。定期的にパンとスープが提供された。
ナイフとフォークなんてもちろんない。木のトレイに木のボウルに入ったスープとパンが乗っているだけ。
こんな時でもお腹は空くんだ。
もうパンを小さく千切って食べなくていい。僕はパンに齧り付いた。
湿度のせいでずっと耳の先の毛は丸まっていて、すごく不快だけどどうしようもない。
お風呂なんて嫌いだったのに、お風呂に入りたいなんて思ってる。
何日経ったか分からない。眠くなったら寝て、食事が届けばいただいた。
そんな日々を繰り返していると、ガチャガチャとたくさんの軍人が歩く音がして、いよいよ処刑される時がきたのだと思った。
僕は膝を抱えたまま地面に座っていて、目の前に人が立ったのが分かった。顔を上げてみると先頭には皇帝がいた。
久しぶりに見た皇帝は眉間に深い皺を作って、僕を見下ろしている。暗いから、黒い靄の存在は分からなかった。
「おい、出ろ」
「はい」
沈黙のまま連れてこられたのは、皇帝の部屋だった。部屋の中は黒い靄が立ち込めていて、皇帝の周りは特に靄が濃い。いつからこんな状態の部屋で過ごしていたんだろう?
これから殺されるというのに、皇帝の体が心配になった。頭痛は大丈夫だろうか?
また夢で魘されているんじゃないか。ちゃんと眠れているのか。
そんなこと余計なお世話なのに、気になってしまった。
部屋にアルバン様の姿はない。どこにいるのか分からないけど、もしかしてこの部屋で暮らしていないんだろうか?
「あいつが来る前に何か言おうとしていたな」
「もういいんです。どうぞ殺してください」
「王子ではないと言おうとした。違うか?」
「もういいんです」
今さらそれを言ったところでどうなるんだ。そうだと言えば許してくれるの?
国に帰してくれるの?
「そんなことは聞いていない。答えろ」
怖い顔で詰め寄られると言わないわけにはいかなくなった。でもなんで皇帝はそんなことを気にするんだろう……
「そうです。言えば僕の気持ちは楽になるけど、国がどうなるか、国に残してきた家族がどうなるかと考えて、言えませんでした。僕は平民です。ケットシーの血も引いていません。ただの猫人族です。
申し訳ありませんでした」
床に頭を擦り付けて謝ったとしても許してもらえるとは思っていない。だけど、謝りたかった。
処刑されることに変わりはなくても、僕に優しくしてくれた皇帝には謝りたかった。
「手」
「はい」
皇帝は僕が手を差し出すと、前と変わらないように僕の手をとってフニフニと触っている。
そして僕の手に頬を寄せた。
「キスの練習をサボったな?」
「はい、すみません」
サボったなんて言われても、僕は牢にいたんだからどうしようもない。
「今から練習しろ」
「僕は陛下とキスできるような身分ではありません」
「俺に逆らうのか?」
「逆らいません」
なんで皇帝がそんなことを言うのか分からない。だけど、前にキスをすると頭痛が引いていくと言っていた気がする。
そっか、僕はそのために部屋に連れてこられたのか。
顔を寄せてゆっくりと唇を重ねると、いつもより冷たかった。
さっき手を握った時から思っていた。皇帝の手が冷たい。頬も冷たく感じた。気のせいかと思ったけど、舌に触れると間違いないと感じる。
「アルフレート……」
僕は初めて皇帝に名前を呼ばれてビクッとしてしまった。
「お前の名前、アルフレートだろ? これからはアルフと呼ぶ」
「はい」
これからってことは、僕は殺されないみたいだ。光魔法の適性があるからだろうか?
何がなんでも生き延びたいわけじゃない。だけど、家族が無事であることだけは確認したいと思っていた。
皇帝を騙していた僕がそんな要望は言えないけど……
「お前いつから風呂に入ってない? 臭いな」
「ごめんなさい……」
僕はすぐにお風呂に連れていかれた。
お風呂は嫌いだけど、ずっと体を拭くこともできなかった。
体をゴシゴシ洗う。お尻はどうしようかと迷って、皇帝をチラッと見る。
「俺は欲求不満だ。洗ってやるから来い」
「はい」
お尻に指を突っ込まれて、中を洗われるのは初めての日以来だ。
「あっ……やだ……」
洗うだけだと思ったのに、指を入れたまま僕の前を包み込んで扱いてきた。
「気持ちいいか?」
「気持ちいい……だめ、出ちゃう……」
必死に抜け出そうと足掻いてみたけど、皇帝の力に敵うわけなかった。力が抜けて立っていられなくなって、皇帝にしがみつく。
「好きなだけ出せ」
「ああっ……ンッ」
お風呂の床に吐き出された白濁。気持ちいいけど、胸が苦しい。なんでこんなこと……
「お前は可愛いな」
なんでそんなこと言うんだろう。僕はずっと皇帝を騙していたのに。
皇帝は僕を殺すのではなく、性欲処理と闇の魔力の対策の道具として使うことを選んだみたいだ。
それなのに、今までと変わらないように優しく僕を抱いて、僕を抱き枕にして寝た。
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