【完結】王子様の身代わりになった僕は最恐と恐れられる皇帝を肉球で癒す

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7.裁きのとき

52.

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 眠れるわけないと思ったのに、皇帝の体温が気持ちよくて眠ってしまった。
 牢から部屋に連れてこられたときは冷たかった皇帝の体も、肌を重ねたらいつもの温度に戻った。
 僕より少し冷たくて、ささくれ立った心が落ち着いていくのを感じたと思ったら、もう朝になっていたんだ。

「おはようございます、陛下」
「おはよう」
 天蓋をかき分けてベッドから出ると、部屋を埋め尽くしていた黒い靄はもう僅かしか残っていなかった。

「やはりお前がいい。お前がいないと俺は上手く眠ることもできない。部屋の魔力もほとんど消えているな」

 僕は何て答えたらいいのか分からなかった。黒い靄がほとんど消えた理由は分からないけど、消えてくれてよかった。僕は平気だけど、あの靄に触れると頭が痛くなったり破壊衝動が起きたりすると言っていたし、ない方がいいに決まってる。

 僕は牢からは出されたけど、皇帝の部屋に閉じ込められることになった。
「部屋からは出るな。お前の安全のためだ」
「はい」

 皇帝は僕の光魔法の適性を有効利用しようと決めたけど、他の人にとって僕は皇帝を騙した悪人だ。殺してやろうと思っている人がいてもおかしくはない。
 僕は黙って皇帝に従った。

 皇帝は牢から出た日から毎日僕を抱く。キスの練習も毎日だ。僕はずっと皇帝のことを騙していたのに、一度も咎められていない。それがかえって怖かった。

 それと、気になっていることがある。
 聞くとしたら、一番穏やかな顔になる、行為が終わった後だと思った。

「あの……アルバン様のことも抱いたんですか?」
「なぜそんことが気になる?」
「いえ、余計なことを言ってごめんなさい」
 穏やかな顔だから大丈夫かと思ったけど、皇帝の機嫌が悪くなったのを感じて、慌てて謝った。

「あんな奴、抱く価値もない」
 僕はホッとした。皇帝が他の人に優しく触れて、抱きしめてキスをしたなんて想像したくなかった。

「なんだ? 嬉しそうだな」
「そんなことはありません」
「お前、もしかして嫉妬か?」
「そんなこと……」
 嫉妬なんて……これは嫉妬なんだろうか? でもなんで僕が嫉妬なんか……

「ふっ、悪くない反応だな」
 そうなんだろうか?

 僕は皇帝に体を求められている。それ以外には何を求められているのか分からない。光魔法が使えたらよかったのに……
 魔法が使えるのなら使ってみたかったけど、どうやら光魔法の使用はエルヴァニアが独占しているらしい。でもエルヴァニアにはもう使える人がいないんじゃなかったっけ?

 以前と変わらないように訪れる穏やかな朝。今日も青空が広がっている。僕は窓辺から外の景色を眺める。
 オイルランプの灯りしかない地下牢よりはいいけど、皇帝は部屋に誰も入れないし、部屋を出ていることが多い。僕はいつも部屋に一人だ。
『竜に乗った少年』の本をもう何度繰り返し読んだか分からない。

 あの青い空に飛び立って、遠い国へ行けたらいいのに……
 なぜか分からないけど、今は毎日苦しい。皇帝は相変わらず優しくしてくれるけど何かが違う。自分でも分からないんだ、なぜこんなに苦しいのか。

 あれ?
 どこかに行っているのかな?
 夜になって窓の外が真っ暗になっても皇帝は部屋に戻らなかった。
 エデラーさんが来て、夕食の用意とお風呂の用意をメイドがしてくれる時にはそばにいてくれた。

「陛下はどこかにお出かけですか?」
「ええ、数日で戻りますのでご心配には及びませんよ」
 エデラーさんは柔らかい笑顔を向けて答えてくれたけど、どこに行ったのかは教えてくれなかった。

 エデラーさんも、僕が身代わりだってことを知っているはずなのに、今までと変わらず接してくれる。だけど、忙しいみたいで前のように勉強を教えてくれることはなくなってしまった。
 もしかしてアルバン様にこの国のことを教えているんだろうか?
 同じように優しく丁寧に教えて……

 アルバン様は王子様で、僕はアルバン様を従者として支えるために帝国に来た。
 エデラーさんがアルバン様に教えるのは当然なんだけど、僕の居場所が消えていくみたいで怖かった。

 バンッ
 勢いよく扉が開いて皇帝が帰ってきた。数日という話だったけど、結構長いこと不在にしていたと思う。

 声をかけるのも憚られるほどに不機嫌で、皇帝の周りには濃い黒い魔力がベッタリと纏わりついている。
 何があったのか分からないけど、きっと嫌なことがあったんだろう。もしかしたら闇魔法を使ったのかもしれない。真っ赤な目が少し光っているように見える。

 僕のそばまでくると、腕を掴まれてお風呂に連れていかれた。昼間からするんだろうか?
 無言で雑に体もお尻も洗われて、すぐにベッドに連れていかれた。

「俺に抱かれたいと言え。好きだと愛していると言え」
「陛下、好きです、愛しています。抱いてください」
「グレオンだ。俺の名前を忘れたか?」
「ごめんなさい。グレオン様、好きです、愛しています。抱いてください」

 こんな無理やりみたいに言わされて、それでもいいんだろうか?
 僕が王子様だったら──心を込めて愛してると言いたかった。

 僕は平民だから皇帝の隣に立てるわけない。そんなこと最初から分かってた。皇帝が優しいから僕が特別なのかと勘違いしてしまった。そんなわけないのに……
 丁寧に触れてくれる指先が苦しい。
 道具なら、優しくしないで。

「なぜ泣く? 俺に抱かれるのが嫌なのか?」
 皇帝が手を止めて僕の顔を覗き込んだ。泣いてなんかいない。でも頬に触れたら濡れていた。僕は泣いたの?

「泣いていません。抱かれるのは嫌じゃないです」
「早くお前の心を寄越せ。俺ならお前の望みを叶えてやれる」
「望み……」

 僕の望みは、家族が無事に過ごせることだけど、そんなの皇帝にお願いするわけにはいかない。でももし叶えてくれるなら、僕は心だってなんだってあげる。

「俺はお前を大切にしている。お前のことを守ってやることもできる。他に何をすればお前は俺を好きになる?」
「グレオン様、好きです、愛しています」
「違う。それは俺に言わされているだけだろ」

 違うと言われても、僕はどうすればいいのか分からない。

「とりあえず抱かせろ」
「はい」

 部屋に戻ってきたときの皇帝はとても不機嫌で怖かったけど、僕を抱くと収まるらしい。
 目の光も収まって黒い靄ももうない。眉間の皺も伸びて、僕の手をフニフニと触っている。

「アルフ、お前の攻略は国取りより難しいな。早く俺のものになれ」
「僕はグレオン様のものです」
「そうか。では計画を進めるとしよう。お前は一生俺のそばにいろ」
「はい」

 計画というのがなんなのかは分からないけど、僕は死ぬまで皇帝のそばにいることになった。


 
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