54 / 72
8.アルフレート(グレオン視点)
54.
しおりを挟む「アル、エルヴァニアのことが気になるか?」
「はい。気になります」
「王から文が届いた」
そう伝えると、アルは明らかに動揺を見せた。何かを隠していることは分かっていたが、この怯えようはまさか王から酷い扱いを受けていたのか?
「文にはなんと?」
「宝石を融通してほしいと書かれていた」
「宝石……穀物などではなく?」
先程まで怯えた様子を見せていたのに、今は意味が分からないといった様子で首を傾げている。
そうだよな。国の各地で飢餓が発生しているのに宝石が欲しいなど理解できないよな。
そんな話をした数日後、軍部で会議をしているときに緊急事態だと文官が駆け込んできた。
「アルバン・エルヴァニアを名乗る者が訪ねてきております。エルヴァニアの王家の紋章が入った馬車で来ております」
「は? アルは俺の部屋にいるぞ」
「真意は分かりかねますが、自分が本物のアルバンであり、彼は偽物だと言っておりまして……」
とにかく王家の馬車で来たということなら会うだけ会ってみようと思った。アルに会いに来た兄弟という可能性が高いだろう。
そう思い俺はアルを着替えさせ、共に謁見室へ向かった。
目の前には膝をつき頭を下げる猫がいる。アルを迎えた日のことを思いだした。酷く怯えた様子で、俺を見上げた弱々しい存在。頭を下げていると似ているとも言える。髪は銀ではなく白に近いか。
顔を上げさせると似てはいなかった。鮮やかな赤い瞳と真っ青な瞳はアルとは違う。
「皇帝陛下、発言の許可をいただけますか?」
大人しく俺に従うアルとは違い、俺と近い傲慢な匂いを感じた。
「よかろう、言ってみろ」
「アルフレート、お前の役目は終わりだ。これからは身代わりのお前ではなく、王子である私が皇帝を支えていくから安心しろ」
アルフレート?
チラッと隣に立っているアルに視線を向けると、俯いたまま真っ青な顔でカタカタと震えていた。アルが俺に隠していたのはこのことだったか……
もっと早くにアルの出自を調べるべきだった。身代わりか……
正直俺はアルが王族かどうかなどどうでもよかった。しかし兵がいる前で『身代わり』という発言をされたのは痛い。
カタカタと震えて動けそうにないアルの腕を掴んで謁見室から引き上げると、一応アルにも確認してみる。
「アル、あいつが言ったことは本当か?」
「はい」
「分かった、投獄する」
「はい」
アル、許せ。
あの傲慢そうな王子をどうにかし、アルを迎える正当な理由を用意し、すぐに迎えに行く。
エデラーは数日前からエルヴァニアに調査に向かっている。他にアルを任せられる者はいない。身代わりということが明かされた今、牢が一番安全だ。食事も全て俺が確認すればいい。
アルを牢へ送り、アルバンに興味本位で会いにいった。
「我が国に何をしにきた? 盟約を破り偽りの王子を送り込んだことはどう説明する?」
「あいつは私の準備が整うまでの繋ぎだ。帝国は宝石も肉も食料も豊富だとか。王族である私が皇帝の隣に立つに相応しい」
俺に相応しいか。それならどれほど相応しいのか確かめさせてもらおうか。
「お前は光魔法が使えるか?」
「そんなものは必要ない。私には高貴なケットシーの血が流れているからな」
俺の質問は『はい』か『いいえ』で答えられる単純な質問だった。光魔法が必要かどうかは俺が決めることだ。俺は早々にアルバンに見切りをつけた。
我が国に来た目的が分からない。様子を見るために使用人の部屋を一部屋与えた。アルとは違い、部屋に入れたいと思わなかったんだから仕方ない。
どうしたものかと考えを巡らせながら部屋で執務を続けていると、ドンドンと品のないノックの音が響き、勝手に扉が開いた。そして許可なく入ってきたのはアルバンだった。
こいつは本当に王族か? マナーも知らない王族とは呆れる。
「おい、誰が入室の許可をした?」
「私に用意された部屋が間違っているようだ。取り替えてくれ。この部屋はなかなかいいな、この宝石など私に相応しい。私はこの部屋にする」
こいつは俺の言葉が理解できないのか? 部屋に無遠慮に足を踏み入れ、飾ってあった紫水晶の塊に勝手に触れた。
「俺の部屋に立ち入る許可は出していない。すぐに出ていけ」
「どれ、私が執務を手伝ってやろう」
こいつは頭の上にでかい耳をつけているのに、耳が聞こえないのかと思うほど会話が成り立たなかった。イライラが募り、体の中を闇の魔力が巡り出す。
「立場を分かってないなら教えてやろうか? お前のことなど俺が一捻りで潰せる。余計なことをしたら捻り潰すぞ!」
「そんな脅しには乗らない。私はエルヴァニアの王子なんだからそんなことできるわけがない。そんなことをすれば獣人たちが敵討ちとして、この国を襲うぞ」
どこからその自信が出てくるのか、エルヴァニアは自国さえ守れない弱小国家のため我が軍が守ってやっているというのに。
「そうか、それは楽しみだな。俺は戦争が得意だ。盟約など煩わしいと思っていたところだ。お前を殺し、十万の兵を差し向けてエルヴァニアを蹂躙といこうか」
「十万……」
俺の言葉は一応通じているようだ。血の気が引いた様子でアルバンは後退りをした。
「なんだ? 十万の兵くらい直ぐにでも出立できるぞ。我が国の軍部は五十万の兵を抱えている。獣人の国など俺にとってはどうでもいいんだ」
死にたくないと喚くアルバンがウザくなって、使用人の部屋に押し込めて扉を闇魔法で固めた。
こいつは一体何をしに来たんだ?
564
あなたにおすすめの小説
猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない
muku
BL
猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。
竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。
猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。
どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。
勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。
異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした
うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。
獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。
怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。
「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」
戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。
獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。
第一章 完結
第二章 完結
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
もふもふ聖獣様に拾われた不遇オメガは、空に浮かぶ島で運命の番として極上の溺愛を注がれる
水凪しおん
BL
「オメガがいるから、村に災いが降りかかったのだ」
理不尽な理由で村人たちから忌み嫌われ、深い雪の森へと生贄として捨てられた十九歳の青年、ルカ。
凍える寒さの中、絶望に目を閉じた彼の前に現れたのは、見上げるほど巨大で美しい「白銀の狼」だった。
伝説の聖獣である狼に拾われたルカが目を覚ましたのは、下界の汚れから切り離された雲海に浮かぶ美しい島。
狼は人間の姿——流れるような銀髪と黄金の瞳を持つ壮麗なアルファの偉丈夫、レオンへと変化し、ルカにこう告げる。
「君は、俺の運命の番だ」
これまで虐げられ、自分を穢れた存在だと思い込んでいたルカは、レオンの甘く深いアルファの香りと、恐ろしいほどの優しさに戸惑うばかり。
温かい食事、美しい庭園、そして決して自分を傷つけない大きな手。
極上の溺愛に包まれるうち、ルカの心に固く巻きついていた冷たい恐怖の糸は、少しずつほどけていく。
そして、ルカを捨てた村人たちが強欲にも島へ足を踏み入れたとき、ルカは自らの意志とオメガとしての本当の力に目覚める——。
これは、孤独だった不遇のオメガが、伝説の聖獣の番として永遠の幸せと自分の居場所を見つけるまでの、心温まる溺愛ファンタジー。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる