【完結】王子様の身代わりになった僕は最恐と恐れられる皇帝を肉球で癒す

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8.アルフレート(グレオン視点)

58.※

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 アルとの穏やかな生活を取り戻しつ、俺の気持ちにも余裕が出てきたある日、緊急だと呼び出され軍の会議に参加することになった。
 西のヴェスト公国がまた竜人族の若者を何人か攫ったとの報告。

「どういうことだ! どこから入り込まれた?」
「我が国に金に目が眩んだ者がいたようです」

 詳しく聞いてみると、農作物の収穫が落ちている村から、税の代わりにと竜人族を差し出させ、ヴェストへ流した貴族がいたようだ。

「そいつは捕まえたんだろうな?」
「奥方と子息も含め国境から出るところを捕らえております」
「拷問にかけ情報を全て吐かせろ」
「畏まりました」

 同胞をヴェストへ流したベンデルーモ子爵の領地は国境に隣接しているわけではない。一体どこで通じて、なぜ金で動いたのかが分からない。
 我が国は農作物が無くとも、豊富な肉や魚があり飢えることなどない。鉱山をいくつも持っており、ヴェストに比べ裕福なはずだ。

 会議の途中で兵が報告を持ってやってきた。だが、なかなか口を開かなかった。

「なんだ、言え!」
「中庭でエルヴァニアの王子をめぐり騒動があった日に、大勢の前で子息が侮辱されたことを恨んでいたそうです」

 橋の建設だかでアルが計算し直したとかいうやつか。俺は詳しくは知らないが、恨むなら自分の能力を恨め。

「エルヴァニアの王子の情報をヴェストに渡したとも申しておりました」
「は?」
 なかなか口を開かなかった理由はこっちか。
 他にも吐かせた情報を聞くと、他の領地からも高額の働き口があるなどと言って騙して連れ去り、竜人族をヴェストに流していたことが分かった。

「分かった、俺が出る。ヴェストを蹂躙せよ。攫われた我が国の同胞の保護を優先、数日で落とす。竜人族の兵も含めすぐに十万用意しろ!」
 隊長たちが慌ただしく駆け出した。

「ベンデルーモの一族は凱旋の際に見えるよう城の城壁にでも吊っておけ。罪状は人身売買だ」
 国を落とすと決めたのはアルの情報を売ったことだけが理由ではない。守らなければならない民を騙し他国に売るなど許し難い。

 俺もすぐに軍部で支度を整えると、供回りだけ連れてスレイプニルに跨った。
「エデラーにヴェストを落とすため数日留守にすると伝えておいてくれ」

 アルを一人にするのは心配だが、遅れれば危険は広がる。アルが狙われるなどあってはならない。攫われた者たちも心配だ。
 八本足の馬の魔獣スレイプニルであれば、昼夜問わず駆けることができる。そして馬より圧倒的に速い。

 前線基地に着くとすぐに隊長たちを集め情報共有をする。
 攫われた同胞の保護を最優先とし、ヴェストを落とすことを伝えた。皆、ベンデルーモにもヴェストにも憤慨しており、反対する者はいなかった。

 俺は援軍を待つことなくすぐに先発隊を率いて首都を目指した。城を落とすと、あとは兵たちに任せて帰ることにした。
 住民を失った城は今、真っ黒な闇の魔力で覆われている。

 一人でグリフォンを地面に縫い付けておくより簡単だったが、魔法を使う範囲が広かったせいでかなり魔力を消耗した。
 スレイプニルは無理やり言うことを聞かせて走らせているが、俺自身が闇に支配されそうだ。

 もう限界だ。いつから寝ていないのか、考えることもできないほどに頭の中が闇で覆い尽くされている。なんとかギリギリのところで正気を保っているが、正気だと思っているのは俺だけかもしれない。

 バンッ
 部屋に入るとアルの腕を掴んで風呂に向かう。数日風呂にも入っていなかった。闇魔法を使ったせいで体が凍るように冷たい。

「俺に抱かれたいと言え。好きだと愛していると言え」
「陛下、好きです、愛しています。抱いてください」
「グレオンだ。俺の名前を忘れたか?」
「ごめんなさい。グレオン様、好きです、愛しています。抱いてください」

 嘘でもいい。アルの口から聞きたかった。だが、怯えた様子で紡がれた言葉など虚しいだけだった。
 せめて優しくしよう。
 温かいアルに触れていると、少しずつ暗闇に光が差していく。だがまだ足りない。

 アル……その涙はなんだ?
 悲しみの涙など見たくない。アルの頬を伝う涙に俺は手を止めた。

「なぜ泣く? 俺に抱かれるのが嫌なのか?」
 俺がそんなに嫌か?
 優しくしているつもりだ。守っているつもりだ。だが足りないのか?

「泣いていません。抱かれるのは嫌じゃないです」
「早くお前の心を寄越せ。俺ならお前の望みを叶えてやれる」
「望み……」
 望みがあるのか?
 アルの望みはなんだ?

「俺はお前を大切にしている。お前のことを守ってやることもできる。他に何をすればお前は俺を好きになる?」
「グレオン様、好きです、愛しています」
「違う。それは俺に言わされているだけだろ」

 口先だけの愛しているなどもう聞きたくない。頭が割れそうに痛い。だがアルは抱かれるのは嫌ではないと言った。

「とりあえず抱かせろ」
「はい」

 温かいアルのおかげで体が少し温まってきた。
 さっきまであんなにイライラと闇に支配されそうな気分だったのが嘘のように引いていく。

「んっ……」
「可愛いな。他の誰のものにもなるなよ」
「はい」

「もっと声を聞かせてくれ」
「グレオン様……あっ、気持ちいい……んっ……」

 抱かれるのは嫌ではないと言うくせに、心はまだ俺に向いていない。恋愛とはこんなにも難しいものなのか……
 力を持ってしても手に入らないものがあるなんて知らなかった。

 やっと落ち着いた。今は間違いなく正気だ。ひと月もすれば兵たちが王都に戻ってくるだろう。そうなれば忙しくなる。
 しばらくはアルとゆっくり過ごしたい。
 柔らかい手のひらをプニプニと触りながら、アルを抱きしめる。

「アルフ、お前の攻略は国取りより難しいな。早く俺のものになれ」
「僕はグレオン様のものです」
「そうか。では計画を進めるとしよう。お前は一生俺のそばにいろ」
「はい」

 俺の妃になってくれるということでいいのか?
 エデラーからの報告が届き次第、婚約発表しよう。

 
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