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8.アルフレート(グレオン視点)
59.
しおりを挟む「お前は本当に可愛いな。今日はバルコニーで日向ぼっこするぞ」
「はい」
アルの手を引いてバルコニーに向かう。今日も晴れて空気は軽く、朝から気分がいい。
だが最近のアルはどうも様子がおかしい。怯えた様子はなくなったが、必死に取り繕っているようにぎこちない笑顔を向けてくるんだ。
「アルフ、今日も天気がいいな」
「はい」
「何か望みがあるなら言ってみろ。俺ならなんでも叶えてやれるぞ」
「いえ、僕はグレオン様に必要とされているだけで幸せです」
幸せならなぜそんなに寂しそうな顔をするんだ……
俺には言えないことか?
俺に必要とされて幸せなど、言われて嬉しいに決まっているのに、アルが浮かない顔をするせいで素直に受け取ることができない。
「キスしてほしいか?」
「はい、キスしてほしいです」
なぜだ……
キスしてほしいと言われて嬉しいはずなのに、なぜ俺はこんなに満たされない気持ちなのか。
アルとのキスは好きだ。体の闇の魔力が消えていくだけでなく、鬱々とした晴れない気持ちも解れていく。愛しいアルの体温と甘い吐息なんて何ものにも変え難い幸福。
それなのになぜか満たされない。不満はないはずなのになぜこんなにモヤモヤするのか。
「ん……」
「気持ちいいか?」
「気持ちいいです。もっとしてください」
「おねだりとは珍しい。もっと言え」
「もっとしてください。大好きです」
俺が言えと言ったせいで、アルは挨拶をするように俺に好きだと言うようになった。アルに好きだと言われて、それ以上に望むものなどない。
アルは俺がほしい言葉をくれる。だが、まだアルの心は俺のそばにない気がする。
アルと日向ぼっこをしたり、庭園を眺めたりゆったりとした時間を過ごしていると、西から半数ほどの兵が帰還した。王都から向かわせた援軍が半数と、西に駐在していた者が半数。しっかりと労ってやらなければならない。
俺はアルを部屋に残して軍部に向かった。
すると俺が来るのを待ち伏せしていた会計部の部長に引き止められた。
「陛下、アル様は王子様ではないって本当ですか?」
「だったらなんだ?」
「それならぜひ軍の会計にください!」
そうなるか……
アルはたとえ王子でなくても、自分の力で居場所を得られる男だ。
「無理だ。アルは俺のだ。軍になどやらん」
「陛下にはエルヴァニアの王子様がいるでしょう? ならアル様はうちにください!」
血走った目で詰められたが、アルをやるわけにはいかん。アルは俺の妃にすると決めている。まだ明かせないが、これは決定事項だ。
「たまに貸すくらいはいいが、今はダメだ」
西を落とすために十万の兵を動かしたんだ、会計は大変だったんだろう。だが長期滞在させたわけではない。食料や武器など、追加で必要となることはなかったはずだ。
「アル様の優しい笑顔に癒されたい……」
「は? お前らなどにアルの癒しはやれん!」
俺は縋り付いてくる部長を引き剥がして帰還した兵たちのところへ向かった。
「皆、ご苦労だった。しっかり体を休めよ」
「陛下、攫われていた者たちは全員保護致しました!」
「そうか。治療が必要な者には治療を。見舞金も出す。健康な者から各自の家まで送り届けよ」
一国を滅ぼしたため、やることは山積みだ。ワイバーン便で続報が届く度に軍に呼び出され、会議を開き、忙しい日々が続いた。
「グレオン様、少しよろしいですかな?」
「いいぞ。アルのことは最優先だ」
エデラーの話では、アルの家族を見つけるのに時間がかかっていたそうだ。
理由は分からないが、アルが住んでいた田舎の小さな街から引っ越していたため、見つけるのに苦労したのだとか。
王族や貴族であればすぐに見つけられたんだろうが、平民を探すのは難しい。目撃証言を辿ろうにも、よほど特徴のある者や名が知られたものでない限り足跡を辿るのは難しい。
アルの父親は数年前に亡くなっており、母と弟が二人と妹がいることが分かった。アルの兄弟ということはケットシーの血筋かもしれない。
「グレオン様、アルフレート様を娶られますか?」
「なぜそんなことを聞く」
「アルフレート様のご家族を保護したいと思っておりますが、大義名分が欲しい」
「分かった。大義名分をやろう。俺はアルを妃とする。アルの家族を守れ」
わざわざ言質をとりにきたか。まったくエデラーは……
「情報はそれだけか?」
エデラー曰く、現在のエルヴァニア王家は怪しいらしい。ケットシーの血を継ぐにしては代替わりが早く、系譜も隠匿され、調査に時間がかかっているそうだ。
エデラーに宣言してしまったことだし、早々にアルとの婚約を発表しよう。真実は何れ明かされるだろう。
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