俺たちの××

怜悧(サトシ)

文字の大きさ
54 / 353
二学期編

尾鰭と端鰭 →side T

しおりを挟む
「ちょっと、トウル。話があるんだけど」

「…………ァア?」
いつものように、机の上で突っ伏して寝ていると頭の上を鞄で叩かれる。
不機嫌に相手を睨み上げると、俺の元カノの金森波砂なずなが綺麗な顔を曇らせてポニーテールを揺らして立っていた。

波砂とは3年くらい付き合っていた。
つい半年くらい前に別れたのだが、別に嫌いになったわけではないので、たまに普通に話はする。
波砂は、康史の親戚で性別以外の容姿は、本当に康史にそっくりだった。
康史に似ているから付き合ったのか、もともと好みがそうだったのか、今ではどっちなのかよくわからない。

「なんだ、ナズか…………話ィ?すぐ終わるなら、ココで話せよ」

ものすごい強い視線を感じて、前のほうの席を見やると康史が、こっちをすごい目で見ていた。

新学期が始まってからというもの、周りは受験勉強ムードで休み時間も静かなので、声が響いて目立つ。

「んー、ここじゃ少し…………話しにくいわ?ちょっとだけだから、人のいないとこいかない?」

何事にも動じない、オンナにしては度胸の座った波砂の性格は、気が楽ですごく気に入っていた。
喧嘩沙汰ばかり起こす俺にはついていけないと、別れてしまったのだが、別にお互い嫌いになったわけではなかった。
俺は、頷いて仕方なく腰をあげた。
波砂は、早く来てねと言いながら教室を出ていくので、寝ぼけ眼を擦りつつ波砂を追いかけた。

屋上に階段をあがっていくと、雨が降りそうな曇り空で、なんだか俺の心も重くどんよりとしてくる。
こういうオンナからの呼び出しっていうのは、あまり慣れない。

ケンカの呼び出しは日常茶飯事なのだが、女の子の呼び出しは本当にどうしていいのかわからなくなる。
屋上へ出ると、波砂の立っているフェンス脇まで歩いていき、手持ち無沙汰にポケットに隠し持っていたタバコを銜えてフェンスによりかかった。

「で……?……何ョ、話って」

なんだかいつもの波砂らしくない様子だ。
躊躇いがちで話を切り出さない様子に、ライターでタバコに火をつけながら、焦れて俺は先に聞き出す。

「トウル。あのね、ねえ、噂でヤッちゃんと付き合ってるって聞いたんだけど……」

いきなり目の前に爆弾が飛んできたような衝撃に、俺はものの見事にタバコを噎せて咳き込んだ。

って、ナニ……。

そのウワサって。

「……ッ…ゲホゲホっ、ちょっ、待てや……ナズ…、ソレ、ドコで聞いたンだ?」
多分、図星をつかれて俺はいま正常な判断ができていない。
流すにしても、シラを切るのにしても、この反応はダメだろ。
誤魔化しきれずに、視線をさまよわせて挙動不審を露呈する。
「だって、小西弓華が、ヤッちゃんに告って、トウルと付き合ってるからって断られたって泣いてたって広まってて……。しかも、トウルがヤッちゃんを無理矢理襲ったって。ヤッちゃんがトオルが怖いから別れられないって、皆そういってて。私はトウルがそんなことする性格じゃないのわかるけど……、女の子たちの中には征伐隊を組織するとか言ってる子もいて……」

俺は、あまりの動揺にぽろっと唇から火のついたタバコを落としてしまった。
襲ったってなあ、逆逆。
逆なんだが……。まあ、逆と言ったところで、俺が信用されるわけがない。

最近なんだか女子の視線が痛いなと思ってはいたが、元々嫌われ者のヤンキーなのでそんなに変化を感じてはいなかった。

原因はそこだったのである。

「本当なの?」

波砂の問いかけに俺は完全にどう答えていいかわからず、迷いながら思わず頷いてしまった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...