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第27話→sideR
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一瞬頭が真っ白になって、俺は床へと倒れた士龍に向かって駆け出す。
「をい!士龍ちゃん。おい!大丈夫か!嘘だろ!」
珍しく取り乱して、俺は奴の体をグイッと掴む。
こんなの、ねえだろ!?
「動かすな」
空気を切り裂くようなピリッとした低い声がかけられる。
「テメエらも、すぐハジキ出すんじゃねェ。高校生のガキ相手にワシがどーこーなると思ったのか?堅気には手ェだすないっとるだろ」
叱責する声が聞こえるが、俺はそれどころじゃない。
助けてくれると手を差し伸べてくれた奴が倒れたのだ。
「っ、峰ちん、大丈夫、……肩をちっと掠めただけだ」
むくりと奴は身を起こして、かわした風情で肩を軽く払う。
「それにしたって、キタラちゃん、いきなり飛び出したらダメだろ」
庇って体の下にひいた、長谷川弟の頭を撫でていつものように諭すと余裕そうに笑う。
掠っただけとか言ってるが、シャツの隙間からわずかに血の色が見える。
どんだけ痩せ我慢してんだ。アホ。
「間違って殺したらどうすんだ」
「若頭。そん時は、まあ口封じをしてですね」
言い訳をする男を、若頭と呼ばれた男が容赦なく殴りつける。
「シロさんゴメンナサイ。パーパがいたから、つい」
ちらっと長谷川弟は、デカイ図体の見るからに大ボスである若頭を見上げる。
「それにしてもなあ、おい、北羅、どうしてこんな危ねーとこに来たんだ?まだ、オマエは学校の時間だろう?勉強はもういーんか?またかーちゃんに怒られんぞ」
見下ろす相手は、長谷川弟を認めて少し慌てたような表情をする。
威圧感が急激になくなっている。
「学校の先輩を助けにきたんだよ。えっと、こっちはお世話になってるシロ先輩だよ。パーパ」
まさか、愛人とかのパパじゃねーよな。
だとしたら、父親なのか。
そういや、ハセガワのオヤジはヤクザというのはもっぱらの噂だった。
オヤジさんはどう格好をとっていいのか分からなくなった様子だったが、
「オイ、応接室を空けてこい。それと、主治医も呼べ」
と、構成員に命じると、こちらにこいとばかりに顎をしゃくった。
士龍の肩を担ぐように無言で富田は体を支えて歩き出した。
「弾は残ってないし、掠ったってのもあながち嘘じゃないが、肉を貫通してるだけだからな」
じいさんの医者が士龍を手当しながら、我慢するなとか、無茶するなとか説教をしている。
「うちの北羅を庇ってくれて有難う」
「当たり前す、キタラは俺のトコの大事な仲間なんで。おじさんはキタラのおとうちゃん?」
士龍の無茶苦茶失礼な聞き方に、流石に肝が冷える。
「まだまだ子供だと思ってたが、こんなとこまでくるようになったんだな」
子供の成長を見守る父親そのものである。
「で、こんな所まできてしたい話というのは何でえ?」
一転して、話を聞いてくれるような雰囲気になった。
これなら、ハルカを助けられるかもしれない。
「ミネ ハルカと名乗っている奴を、返してほしい。駅前の店にいると聞いた」
俺は思い切って話を切り出した。
若頭は、俺の言葉に顎先に指を当てて少し眉を寄せる。
「ハルカ?…………ああ。アレかァ。まあ、アレは殆ど元金は回収しているからなァ」
「パーパ、お願いだよ!」
長谷川弟は甘えるように、若頭の腕をギュッと掴んでオネダリする。
「勿論、タダでとは…………」
「そうだな。周りへの示しというものもあるからな。アイツが普通の生活が送れるかわからんが、オマエが面倒をみるってのか」
少し含みがあるような調子で、若頭は俺の顔を覗き込む。
普通の生活?
少し不安に思うが俺に別の選択肢はない。
「元より、ハルカを取り戻せるなら命を賭けるつもりできました」
俺の言葉にふと笑うと、机の中から印刷された紙を取り出して俺に渡す。
「30万この口座に振り込んでおけ。利子として受取っとくわ。あと、500は稼がせるつもりだったんだが、出血サービスだ。ソッチの奴は出血しとるし、詫び含めてな」
「ありがとうございます」
口座の書かれた紙をじっとは眺める。
「名前は?」
ああ、振り込んでもわからねえしな。
「峰頼人です」
「ミネね。ああ、ハルカの兄弟か」
「いや、兄弟じゃねえです。ハルカのは偽名です」
俺の言葉にお前は本名なんだなと、苦笑されてぽんと頭を叩かれる。
「偽名くらい使えや。あんままっ正直だと、足元掬われるぞ」
腹を揺らして笑う様子は、組の若頭という感じはしなかった。多分息子がいるので、父親モードになって瑠のだろう。
「店にはワシが電話しとくから、引き取りにいくといい。キタラは飯食うて帰るか?」
「ん。今日の当番はセイハ兄だから、パーパと帰る。あ、駅前のラーメン屋さんの餃子食べたい」
すっかり和んでしまっていて、俺は緊張の糸がほぐれたが、後からあやをつけられたら困るので、手にしてある紙に書かれた口座へ、スマホですぐに振込みをすませる。
「いま、送金しました。これで、ハルカは自由ですね」
俺の言葉に、行動が早いのは嫌いじゃないなと呟いて、若頭は頷いた。
「をい!士龍ちゃん。おい!大丈夫か!嘘だろ!」
珍しく取り乱して、俺は奴の体をグイッと掴む。
こんなの、ねえだろ!?
「動かすな」
空気を切り裂くようなピリッとした低い声がかけられる。
「テメエらも、すぐハジキ出すんじゃねェ。高校生のガキ相手にワシがどーこーなると思ったのか?堅気には手ェだすないっとるだろ」
叱責する声が聞こえるが、俺はそれどころじゃない。
助けてくれると手を差し伸べてくれた奴が倒れたのだ。
「っ、峰ちん、大丈夫、……肩をちっと掠めただけだ」
むくりと奴は身を起こして、かわした風情で肩を軽く払う。
「それにしたって、キタラちゃん、いきなり飛び出したらダメだろ」
庇って体の下にひいた、長谷川弟の頭を撫でていつものように諭すと余裕そうに笑う。
掠っただけとか言ってるが、シャツの隙間からわずかに血の色が見える。
どんだけ痩せ我慢してんだ。アホ。
「間違って殺したらどうすんだ」
「若頭。そん時は、まあ口封じをしてですね」
言い訳をする男を、若頭と呼ばれた男が容赦なく殴りつける。
「シロさんゴメンナサイ。パーパがいたから、つい」
ちらっと長谷川弟は、デカイ図体の見るからに大ボスである若頭を見上げる。
「それにしてもなあ、おい、北羅、どうしてこんな危ねーとこに来たんだ?まだ、オマエは学校の時間だろう?勉強はもういーんか?またかーちゃんに怒られんぞ」
見下ろす相手は、長谷川弟を認めて少し慌てたような表情をする。
威圧感が急激になくなっている。
「学校の先輩を助けにきたんだよ。えっと、こっちはお世話になってるシロ先輩だよ。パーパ」
まさか、愛人とかのパパじゃねーよな。
だとしたら、父親なのか。
そういや、ハセガワのオヤジはヤクザというのはもっぱらの噂だった。
オヤジさんはどう格好をとっていいのか分からなくなった様子だったが、
「オイ、応接室を空けてこい。それと、主治医も呼べ」
と、構成員に命じると、こちらにこいとばかりに顎をしゃくった。
士龍の肩を担ぐように無言で富田は体を支えて歩き出した。
「弾は残ってないし、掠ったってのもあながち嘘じゃないが、肉を貫通してるだけだからな」
じいさんの医者が士龍を手当しながら、我慢するなとか、無茶するなとか説教をしている。
「うちの北羅を庇ってくれて有難う」
「当たり前す、キタラは俺のトコの大事な仲間なんで。おじさんはキタラのおとうちゃん?」
士龍の無茶苦茶失礼な聞き方に、流石に肝が冷える。
「まだまだ子供だと思ってたが、こんなとこまでくるようになったんだな」
子供の成長を見守る父親そのものである。
「で、こんな所まできてしたい話というのは何でえ?」
一転して、話を聞いてくれるような雰囲気になった。
これなら、ハルカを助けられるかもしれない。
「ミネ ハルカと名乗っている奴を、返してほしい。駅前の店にいると聞いた」
俺は思い切って話を切り出した。
若頭は、俺の言葉に顎先に指を当てて少し眉を寄せる。
「ハルカ?…………ああ。アレかァ。まあ、アレは殆ど元金は回収しているからなァ」
「パーパ、お願いだよ!」
長谷川弟は甘えるように、若頭の腕をギュッと掴んでオネダリする。
「勿論、タダでとは…………」
「そうだな。周りへの示しというものもあるからな。アイツが普通の生活が送れるかわからんが、オマエが面倒をみるってのか」
少し含みがあるような調子で、若頭は俺の顔を覗き込む。
普通の生活?
少し不安に思うが俺に別の選択肢はない。
「元より、ハルカを取り戻せるなら命を賭けるつもりできました」
俺の言葉にふと笑うと、机の中から印刷された紙を取り出して俺に渡す。
「30万この口座に振り込んでおけ。利子として受取っとくわ。あと、500は稼がせるつもりだったんだが、出血サービスだ。ソッチの奴は出血しとるし、詫び含めてな」
「ありがとうございます」
口座の書かれた紙をじっとは眺める。
「名前は?」
ああ、振り込んでもわからねえしな。
「峰頼人です」
「ミネね。ああ、ハルカの兄弟か」
「いや、兄弟じゃねえです。ハルカのは偽名です」
俺の言葉にお前は本名なんだなと、苦笑されてぽんと頭を叩かれる。
「偽名くらい使えや。あんままっ正直だと、足元掬われるぞ」
腹を揺らして笑う様子は、組の若頭という感じはしなかった。多分息子がいるので、父親モードになって瑠のだろう。
「店にはワシが電話しとくから、引き取りにいくといい。キタラは飯食うて帰るか?」
「ん。今日の当番はセイハ兄だから、パーパと帰る。あ、駅前のラーメン屋さんの餃子食べたい」
すっかり和んでしまっていて、俺は緊張の糸がほぐれたが、後からあやをつけられたら困るので、手にしてある紙に書かれた口座へ、スマホですぐに振込みをすませる。
「いま、送金しました。これで、ハルカは自由ですね」
俺の言葉に、行動が早いのは嫌いじゃないなと呟いて、若頭は頷いた。
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