28 / 64
第28話→sideH
しおりを挟む
犬や猫の方が、きっと俺よりはマシな生活をしているに違いない。
俺はずっと張形のついた拘束具を取り付け、排泄の自由すら奪われて、電話越しの水上に許可が必要で日に日に俺の感覚を麻痺させていった。
「ハルカ、アンタもう1週間も水上に買われてないけど大丈夫かしら?」
我慢ができない時はこちらから、水上に買ってくださいと電話してすがらないといけない。
他の人に売ることができないので、串崎も水上から売り上げがあがらないのは困るのだろう。
「ハッ、わざわざ買ってくださいなんていうかよ」
とは言っても、我慢出来なくなるまでいつも10日とかからない。
「ハルカさ、いつもそれで最後に泣き入れるじゃないの。つらいのはアンタなのよ」
串崎はふうとハンサムな顔を緩めて俺を諭す。
「俺だって、そんでも水上には感謝してんだよ。わけのわからない奴に売られまくったら、ぶっ壊れてたかもしれねーしさ。だから、どーしようもなく理性ぶっとぶまで我慢してーんだ」
多分、俺の考えは串崎にはわからないだろう。
調教とかしまくって、プライドとか全部なくした奴らを売るのが仕事なんだから、どうせなくなるもんなら、早く捨てて楽になれよと言いたいのかもしれない。
「馬鹿な子ね。まったく。だから、ひねくれものの水上が気に入っているのかもしれないけど」
「調教が完了したヤツらはさ、幸せなんかな」
抱かれることが、普通になっていて快感とか尽くすこととか、全部それが生きがいみたいになるのは、怖いことだが、どこかでその方が楽だと思っている。
俺みたいなクズにはうってつけの最後だ。
「そうね。幸せになるように祈りながらあたし達は調教しているのだけどね、あら、電話だわ」
串崎は電話に出ると、俺をちらちらと見ながら話す。
なんだろうか。
水上からの呼び出しかな。
さすがに1週間我慢したし、あっちが折れてくれたかな。
電話を切ると、ふうっと串崎は息をついた。
「トラさんからだったわ。あなたの借金、肩代わりする相手が見つかったから、着いたら一緒に帰らせろって」
「なんだ、それ。俺は買われたってことか?」
俺はわけがわからず、拘束具を外していく串崎を眺めていた。
全ての拘束を外されて、やって来た時に着ていた服を着せられる。
2ヶ月にも及ぶ調教をされてきて、いきなり解放とか言われても、何だか全く実感もないし脳みそがついていけてない。
「なあ。水上との契約は、どうするんだ?」
「トラさんが、違約金とか諸々全部面倒みるって話だし、わさわざトラさんには逆らいたくはないわ」
まだ頭がまったく整理できていないが、拘束をはずされても股間はイキっている。
今回はさすがに我慢しすぎたか。
「大体、一体誰が迎えにきたっていうんだ。俺には帰る場所なんかねーし」
「……私は知らないわよ。トラさんが言うには、峰って名乗ってるそうよ。同じ苗字だし、あなたの兄弟なんじゃないの?」
「…………みね、ってソイツはいったのか」
まさか、ライがきたというのか。
あれ程、裏の仕事をしたら縁を切るといっていたのに、忠告も聞かずに裏の世界に足を突っ込んだ俺を迎えにきたというのか。
縁を切られたと、勝手に思っていただけなのか。
「貴方にも、そういう兄弟がいるんじゃないの。誰もいないなんて感傷ね。まあ、男に抱かれる体にしちゃったけど、よっぽど困ったら遊びにきてもいいわよ」
串崎は、面白がるように呆気にとられてしまった俺を見下ろす。
できるわけねえ。
いまさら…………。
ライにどんな顔をして会えばいいんだ。
こんな、姿を晒して、アイツの側になんかいれない。
俺は冷や汗が額に浮かんで落ちるのを感じる。
この姿を見せるくらいなら…………さっさと死ねばよかったんだ。何でグズグズしてたんだ。
いつだって、俺はライの大将だったし、ライは俺に従う特攻隊長だった。
そういう間柄だ。絶対に弱味なんてみせられないのに。
「こんな、俺じゃ、会えない。会いたくねェ!!」
「って言われてもね。あら、迎えに来ちゃったみたいよ。ちゃんと引渡しておけってトラさんに頼まれちゃったし。危ない、逃げないでよ」
串崎は逃げ出そうとする俺の様子を見ると、カチャリと手錠をかけて近くの椅子の背に引っ掛けられる。
串崎はフウテン野郎の言いなりだし、このままじゃ逃げるのもままならないし。
どうすりゃいいんだよ。舌を噛み切るか。
死ぬとか、平気でできねえ。そこまで、肝が据えられねえ。
奥歯をグッと噛み締めて、天井を見上げる。
万事休すだな。
「……ッハル、カ!?ハルカ!?」
部屋に入ってきた様子が分かり、身構えると何ヶ月ぶりかに聞くライの切羽詰まったような声が響く。
頬が少しこけていて、かなり疲れた様子でやつれたようなそんな風情がある。
いつだって不敵にみえていた人を小馬鹿にした調子もない。
「ライ、…………なんで、だ?」
見ないで欲しい。ライにはいつでも強い俺でいたい。だから、俺は、あの時ライの家を出たのに。
「帰ろう。ハルカ。話はついたからさ」
ライは近寄ってきて、椅子に掛かった手錠を外して俺の腕をとる。
帰るって、どこにだよ。
帰る場所なんて、どこにもないだろ。
…………俺には。もう、なにもない、だろ。
俺はずっと張形のついた拘束具を取り付け、排泄の自由すら奪われて、電話越しの水上に許可が必要で日に日に俺の感覚を麻痺させていった。
「ハルカ、アンタもう1週間も水上に買われてないけど大丈夫かしら?」
我慢ができない時はこちらから、水上に買ってくださいと電話してすがらないといけない。
他の人に売ることができないので、串崎も水上から売り上げがあがらないのは困るのだろう。
「ハッ、わざわざ買ってくださいなんていうかよ」
とは言っても、我慢出来なくなるまでいつも10日とかからない。
「ハルカさ、いつもそれで最後に泣き入れるじゃないの。つらいのはアンタなのよ」
串崎はふうとハンサムな顔を緩めて俺を諭す。
「俺だって、そんでも水上には感謝してんだよ。わけのわからない奴に売られまくったら、ぶっ壊れてたかもしれねーしさ。だから、どーしようもなく理性ぶっとぶまで我慢してーんだ」
多分、俺の考えは串崎にはわからないだろう。
調教とかしまくって、プライドとか全部なくした奴らを売るのが仕事なんだから、どうせなくなるもんなら、早く捨てて楽になれよと言いたいのかもしれない。
「馬鹿な子ね。まったく。だから、ひねくれものの水上が気に入っているのかもしれないけど」
「調教が完了したヤツらはさ、幸せなんかな」
抱かれることが、普通になっていて快感とか尽くすこととか、全部それが生きがいみたいになるのは、怖いことだが、どこかでその方が楽だと思っている。
俺みたいなクズにはうってつけの最後だ。
「そうね。幸せになるように祈りながらあたし達は調教しているのだけどね、あら、電話だわ」
串崎は電話に出ると、俺をちらちらと見ながら話す。
なんだろうか。
水上からの呼び出しかな。
さすがに1週間我慢したし、あっちが折れてくれたかな。
電話を切ると、ふうっと串崎は息をついた。
「トラさんからだったわ。あなたの借金、肩代わりする相手が見つかったから、着いたら一緒に帰らせろって」
「なんだ、それ。俺は買われたってことか?」
俺はわけがわからず、拘束具を外していく串崎を眺めていた。
全ての拘束を外されて、やって来た時に着ていた服を着せられる。
2ヶ月にも及ぶ調教をされてきて、いきなり解放とか言われても、何だか全く実感もないし脳みそがついていけてない。
「なあ。水上との契約は、どうするんだ?」
「トラさんが、違約金とか諸々全部面倒みるって話だし、わさわざトラさんには逆らいたくはないわ」
まだ頭がまったく整理できていないが、拘束をはずされても股間はイキっている。
今回はさすがに我慢しすぎたか。
「大体、一体誰が迎えにきたっていうんだ。俺には帰る場所なんかねーし」
「……私は知らないわよ。トラさんが言うには、峰って名乗ってるそうよ。同じ苗字だし、あなたの兄弟なんじゃないの?」
「…………みね、ってソイツはいったのか」
まさか、ライがきたというのか。
あれ程、裏の仕事をしたら縁を切るといっていたのに、忠告も聞かずに裏の世界に足を突っ込んだ俺を迎えにきたというのか。
縁を切られたと、勝手に思っていただけなのか。
「貴方にも、そういう兄弟がいるんじゃないの。誰もいないなんて感傷ね。まあ、男に抱かれる体にしちゃったけど、よっぽど困ったら遊びにきてもいいわよ」
串崎は、面白がるように呆気にとられてしまった俺を見下ろす。
できるわけねえ。
いまさら…………。
ライにどんな顔をして会えばいいんだ。
こんな、姿を晒して、アイツの側になんかいれない。
俺は冷や汗が額に浮かんで落ちるのを感じる。
この姿を見せるくらいなら…………さっさと死ねばよかったんだ。何でグズグズしてたんだ。
いつだって、俺はライの大将だったし、ライは俺に従う特攻隊長だった。
そういう間柄だ。絶対に弱味なんてみせられないのに。
「こんな、俺じゃ、会えない。会いたくねェ!!」
「って言われてもね。あら、迎えに来ちゃったみたいよ。ちゃんと引渡しておけってトラさんに頼まれちゃったし。危ない、逃げないでよ」
串崎は逃げ出そうとする俺の様子を見ると、カチャリと手錠をかけて近くの椅子の背に引っ掛けられる。
串崎はフウテン野郎の言いなりだし、このままじゃ逃げるのもままならないし。
どうすりゃいいんだよ。舌を噛み切るか。
死ぬとか、平気でできねえ。そこまで、肝が据えられねえ。
奥歯をグッと噛み締めて、天井を見上げる。
万事休すだな。
「……ッハル、カ!?ハルカ!?」
部屋に入ってきた様子が分かり、身構えると何ヶ月ぶりかに聞くライの切羽詰まったような声が響く。
頬が少しこけていて、かなり疲れた様子でやつれたようなそんな風情がある。
いつだって不敵にみえていた人を小馬鹿にした調子もない。
「ライ、…………なんで、だ?」
見ないで欲しい。ライにはいつでも強い俺でいたい。だから、俺は、あの時ライの家を出たのに。
「帰ろう。ハルカ。話はついたからさ」
ライは近寄ってきて、椅子に掛かった手錠を外して俺の腕をとる。
帰るって、どこにだよ。
帰る場所なんて、どこにもないだろ。
…………俺には。もう、なにもない、だろ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる