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第二十三話(最終話):そして、新しい物語の始まり
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オルダスとの死闘から、数ヶ月の時が流れた。
帝都を覆っていた、あの、息苦しいほどの緊張感は、嘘のように消え去り、街には、穏やかで、活気に満ちた日常が、戻ってきていた。
盟約の日のクーデターは、「宰相の反乱」として、公式に記録された。
そして、その混乱を、若き皇太子が見事に収拾したのだ、と。
父帝から、正式に、その座を譲位されたジュリアンは、新しい皇帝として、多忙な日々を送っていた。
長年、国中に根を張っていた、オルダスの腐敗を、一掃するための、大規模な改革。
それは、まさに、茨の道だった。
私もまた、偽りの侍女「ティナ」や、書記官の服を脱ぎ、今は、亡国シルフィードの王女、そして、次期皇后セレスティナとして、宮殿の一室で、穏やかな、しかし、やはり、忙しい日々を過ごしていた。
「……また、難しい顔をしていますね、陛下」
その日、私は、淹れたてのハーブティーを、トレイに載せ、皇帝の執務室を訪れた。
部屋の主となったジュリアンは、山と積まれた、書類の山に、うもれていた。
「セレスティナか。……見てくれ、この書類の山を。オルダスを倒すより、こっちの方が、よほど、骨が折れる」
彼は、大げさに、ため息をついてみせる。
その、少しだけ、子供っぽい仕草に、私は、思わず、笑みをこぼした。
「お疲れでしょう。少し、休憩になさってください」
「君の顔を見ることが、何よりの、休憩だよ」
彼は、そう言うと、私の手を取り、自分の隣の椅子へと、座らせた。
その、穏やかで、甘い時間。
私たちが、命を懸けて、手に入れた、宝物のような、日常だった。
そんな、ある日の午後。
私宛に、一通の手紙が、届けられた。
差出人の名前に、私の心臓が、小さく、跳ねる。
それは、レオンハルトからの、手紙だった。
オルダスの反乱の後、彼は、ジュリアンの、最大限の温情により、反逆罪を、免れた。
だが、彼は、自らの意思で、騎士の称号を、返上した。
そして……。
私は、震える指で、手紙の封を切った。
そこには、彼の、不器用だが、誠実な文字が、並んでいた。
『セレスティナ様。
お元気でお過ごしでしょうか。
俺は今、シルフィードの地にいます。
騎士としてではなく、ただの、一人の男として、この地の、瓦礫を、片付け、新しい家を、建てる手伝いをしています。
汗を流し、土に汚れる、この毎日が、俺にとっての、唯一の、贖罪です。
皇帝陛下と、どうぞ、お幸せに。
あの御方なら、あなたを、そして、この世界を、きっと、守ってくださるでしょう』
手紙は、それで、終わっていた。
私の頬を、一筋の、温かい涙が、伝う。
それは、悲しみの涙ではなかった。
彼が、ようやく、自分の足で、新しい道を、歩き始めたことへの、安堵の涙だった。
「……そうか。彼も、前を、向いたのだな」
いつの間にか、私の後ろに立っていたジュリアンが、そっと、私の肩を、抱いた。
彼の、温もりに、身を委ねる。
私たちの未来は、二人の、個人的なものだけではない。
二つの国の、未来でもあった。
シルフィードの、生き残った、長老たちが、近々、この帝都を訪れ、新しい、友好条約を結ぶことになっている。
それは、支配や、従属ではない。
対等な、パートナーとしての、条約だ。
「帝国の技術と、シルフィードの、自然を敬う、魔法の知識。その二つが、手を取り合えば、きっと、これまでにない、素晴らしい国が、生まれるはずです」
「ああ。君という、最高の、皇后がいればな」
ジュリアンは、悪戯っぽく笑うと、私の、白銀の髪に、そっと、口づけた。
それは、もはや、戦いの傷跡ではない。
二人の命が、一つに、結ばれている、愛の証。
私は、彼の胸に、顔をうずめた。
左手の、契約の指輪が、夕日を浴びて、優しく、輝いている。
それは、もはや、奇跡を起こすための、道具ではない。
ただ、静かに、二人の、未来を、見守る、約束の証。
かつての戦いの記憶は、白銀の髪に、そして、指輪の輝きに、そっと、刻まれて。
けれど、二人の前には、穏やかで、どこまでも続く、光に満ちた未来が、広がっていた。
-完-
帝都を覆っていた、あの、息苦しいほどの緊張感は、嘘のように消え去り、街には、穏やかで、活気に満ちた日常が、戻ってきていた。
盟約の日のクーデターは、「宰相の反乱」として、公式に記録された。
そして、その混乱を、若き皇太子が見事に収拾したのだ、と。
父帝から、正式に、その座を譲位されたジュリアンは、新しい皇帝として、多忙な日々を送っていた。
長年、国中に根を張っていた、オルダスの腐敗を、一掃するための、大規模な改革。
それは、まさに、茨の道だった。
私もまた、偽りの侍女「ティナ」や、書記官の服を脱ぎ、今は、亡国シルフィードの王女、そして、次期皇后セレスティナとして、宮殿の一室で、穏やかな、しかし、やはり、忙しい日々を過ごしていた。
「……また、難しい顔をしていますね、陛下」
その日、私は、淹れたてのハーブティーを、トレイに載せ、皇帝の執務室を訪れた。
部屋の主となったジュリアンは、山と積まれた、書類の山に、うもれていた。
「セレスティナか。……見てくれ、この書類の山を。オルダスを倒すより、こっちの方が、よほど、骨が折れる」
彼は、大げさに、ため息をついてみせる。
その、少しだけ、子供っぽい仕草に、私は、思わず、笑みをこぼした。
「お疲れでしょう。少し、休憩になさってください」
「君の顔を見ることが、何よりの、休憩だよ」
彼は、そう言うと、私の手を取り、自分の隣の椅子へと、座らせた。
その、穏やかで、甘い時間。
私たちが、命を懸けて、手に入れた、宝物のような、日常だった。
そんな、ある日の午後。
私宛に、一通の手紙が、届けられた。
差出人の名前に、私の心臓が、小さく、跳ねる。
それは、レオンハルトからの、手紙だった。
オルダスの反乱の後、彼は、ジュリアンの、最大限の温情により、反逆罪を、免れた。
だが、彼は、自らの意思で、騎士の称号を、返上した。
そして……。
私は、震える指で、手紙の封を切った。
そこには、彼の、不器用だが、誠実な文字が、並んでいた。
『セレスティナ様。
お元気でお過ごしでしょうか。
俺は今、シルフィードの地にいます。
騎士としてではなく、ただの、一人の男として、この地の、瓦礫を、片付け、新しい家を、建てる手伝いをしています。
汗を流し、土に汚れる、この毎日が、俺にとっての、唯一の、贖罪です。
皇帝陛下と、どうぞ、お幸せに。
あの御方なら、あなたを、そして、この世界を、きっと、守ってくださるでしょう』
手紙は、それで、終わっていた。
私の頬を、一筋の、温かい涙が、伝う。
それは、悲しみの涙ではなかった。
彼が、ようやく、自分の足で、新しい道を、歩き始めたことへの、安堵の涙だった。
「……そうか。彼も、前を、向いたのだな」
いつの間にか、私の後ろに立っていたジュリアンが、そっと、私の肩を、抱いた。
彼の、温もりに、身を委ねる。
私たちの未来は、二人の、個人的なものだけではない。
二つの国の、未来でもあった。
シルフィードの、生き残った、長老たちが、近々、この帝都を訪れ、新しい、友好条約を結ぶことになっている。
それは、支配や、従属ではない。
対等な、パートナーとしての、条約だ。
「帝国の技術と、シルフィードの、自然を敬う、魔法の知識。その二つが、手を取り合えば、きっと、これまでにない、素晴らしい国が、生まれるはずです」
「ああ。君という、最高の、皇后がいればな」
ジュリアンは、悪戯っぽく笑うと、私の、白銀の髪に、そっと、口づけた。
それは、もはや、戦いの傷跡ではない。
二人の命が、一つに、結ばれている、愛の証。
私は、彼の胸に、顔をうずめた。
左手の、契約の指輪が、夕日を浴びて、優しく、輝いている。
それは、もはや、奇跡を起こすための、道具ではない。
ただ、静かに、二人の、未来を、見守る、約束の証。
かつての戦いの記憶は、白銀の髪に、そして、指輪の輝きに、そっと、刻まれて。
けれど、二人の前には、穏やかで、どこまでも続く、光に満ちた未来が、広がっていた。
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