【完結】腹ペコ貴族のスキルは「種」でした

シマセイ

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第68話『幻惑の刺客と偽りの恩師』

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『目覚めの激辛スープ』によって、偽りの楽園から解放されたシルベ村の村人たち。

彼らは、アレンたちに心からの感謝を伝えると、自らの手で、村中に咲き乱れていた『忘却の楽園花』を、次々と引き抜き、燃やし始めた。
それは、過去の過ちと決別し、自分たちの足で、未来へと歩き出すための、力強い再生の儀式だった。

アレンは、そんな彼らの姿を、静かに見守ると、この村の未来のために、『目覚めの土の種』と、そして、「育てるのが、きっと楽しくなるから」と、色とりどりの、たくさんの野菜の種を、贈り物としてプレゼントした。

その一部始終を、遠く離れた丘の上から、魔族の斥候が、魔法の水晶を通して、戦慄と共に、監視していた。

「……報告。
シルベ村、陥落。
『リリウム・オブリビオン』による精神支配、完全に破られました。
あの少年……アレン・リンクは、もはや、ただの『豊穣の力』を持つだけの人間ではありません。
人の『心』そのものに、直接、干渉する力を持っています。
これは、あまりにも……あまりにも、危険すぎます……!」

その緊急報告は、すぐに、魔大陸の、魔王の元へと届けられた。



魔王城、玉座の間。
魔王ゾルディアスは、シルベ村での、アレンの常識外れの「戦術」の報告を受け、その美しい顔に、初めて、予測不能なものと対峙したかのような、わずかな戸惑いの色を浮かべていた。

「……力には、力で。
支配には、恐怖で。
それが、これまでの世界の理だったはずだ。
だが、あの少年は、食で、楽しさで、そして、涙で、人の心を、いとも容易く、取り戻してみせる……」

玉座の間に集う、魔王軍の幹部たちが、口々に叫ぶ。

「魔王様!
もはや、小細工は通用しません!」
「今度こそ、我が精鋭部隊を送り込み、あの少年ごと、全てを、力で蹂躙すべきです!」

しかし、ゾルディアスは、その声に、静かに首を横に振った。

「待て。
あの少年の力の根源は、『心』にある。
力で、憎しみで、押さえつければ、かえって、我々の想像を超える、より強い光の力を、生み出しかねん」

ゾルディアスは、アレンという存在を、危険視すると同時に、その未知なる力に、これまで以上に、強い興味と、そして、歪んだ執着を、見せていた。

「ならば、こちらも、やり方を変えるまで」

彼は、玉座の間の影の中から、一人の女魔族を、呼び寄せた。
妖艶な、しかし、その瞳の奥に、底知れない狡猾さを宿した、美しい魔族。
四天王が一人、『幻惑』のロキシー。

「ロキシーよ、お前に行ってもらう」

ゾルディアスは、その女魔族に、新たな作戦を命じた。

「力で戦うな。
彼の『心』に、直接、働きかけるのだ。
彼の記憶を探り、彼が、最も信頼し、心を許している、愛すべき者の姿を借りて、その純粋な心を、内側から、ゆっくりと、絶望の色に染め上げてこい」



アレンたちのキャラバンは、次の目的地である、ドワーフたちが住む、巨大な地下都市の入り口に位置する、鉱山町を目指していた。
しかし、その旅路は、これまでとは、明らかに、様子が違っていた。

「またか!」

グレイの剣が閃き、一行に襲いかかってきた、巨大な魔物の首を刎ねる。
この数日間、一行は、これまでにないほど、巧妙に、そして、執拗に、魔物の襲撃を受け続けていた。
それは、まるで、一行の進軍を、意図的に遅らせ、消耗させようとしているかのようだった。

「おかしい……。
ただの魔物ではない。
明らかに、誰かに、統率されている動きだ」

グレイは、背後に潜む、指揮官の存在を、確かに感じ取っていた。

その夜。
一行が、森の中で、警戒しながら野営をしていると。

不意に、アレンは、自分の名前を呼ぶ、懐かしい声を、聞いた。

「アレン……」

「え?」

アレンが、声のした方を見ると、そこに立っていたのは、信じられない人物だった。
アストライア王国の、あの秘密の庭にいるはずの、庭師の、ゴードンさん。

「ゴードン先生!?
どうして、こんなところに!?」

アレンは、驚きと、喜びで、思わず、駆け寄ろうとする。
だが、その瞬間。

「待て、アレン!」

見張りをしていたグレイが、鋭く、制止の声を上げた。

「……様子が、おかしい」

言われて、アレンは、目の前にいる、ゴードンさんの姿を、改めて、見つめた。
どこか、その輪郭が、夜の闇の中で、陽炎のように、わずかに、揺らめいている。

そして、何より、決定的だったのは、その表情。
ゴードンさんが、アレンに向ける、その優しい笑顔の、その口元が。
彼が、決して、決して、浮かべることのない、冷たく、歪んだ、不気味な笑みの形に、見えたのだ。



それは、幻惑のロキシーが見せている、あまりにも巧妙で、悪質な、幻術だった。
彼女は、アレンの記憶の中から、彼が最も信頼し、心を許している、恩師の姿を、寸分違わず、抜き出したのだ。

「久しぶりじゃな、アレン坊」

偽りのゴードンさんが、その優しい声で、アレンに語りかける。

「さあ、心配せずともよい。
儂のところへ、来るんじゃ……」

そして、アレンに向かって、その温かいはずの手を、ゆっくりと、差し伸べた。
アレンは、その、あまりにもリアルな幻を前に、戸惑い、立ち尽くすことしか、できなかった。

物理的な攻撃ではない。
人の「信頼」や「愛情」、「記憶」といった、心の、最も、柔らかく、無防備な部分を、的確に攻撃してくる、新たな、そして、最も厄介な、敵の出現。

アレンは、この、甘い、心の罠を、果たして、見破ることができるのだろうか。
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