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第69話『偽りの恩師と真実の味』
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「さあ、心配せずともよい。
儂のところへ、来るんじゃ……」
目の前に立つ、恩師ゴードンさんの、優しい声と、温かい手招き。
アレンの心は、激しく揺さぶられていた。
頭では、グレイの言う通り、「何かがおかしい」と感じている。
だが、心は、その、あまりにも懐かしく、大好きな笑顔を、疑うことを、拒んでいた。
リナリアとルミナも、それが巧妙な幻術であることには気づいていたが、どうすることもできないでいた。
下手に魔法で攻撃すれば、アレンの心を、深く傷つけてしまうかもしれない。
アレンが、自ら、その幻を振り払うのを、信じて見守るしかなかった。
アレンは、まるで、何かに引き寄せられるように、偽りのゴードンさんに向かって、一歩、足を踏み出しかけた。
その、瞬間だった。
アレンの、服のポケットの中。
旅立つ前に、仲間たちと交換した、あの『お守りの種』が、ふわり、と、微かに、温かい光を放った。
アレンは、はっとする。
その光を通して、彼の心に、仲間たちの感情が、流れ込んできたのだ。
リナリアの、心からの「心配」。
ルミナの、鋭い「警戒」。
そして、背後で剣を構える、グレイの、燃えるような「闘志」。
温かい、仲間との、確かな繋がり。
アレンは、目の前のゴードンさんを、もう一度、見つめた。
その姿からは、仲間たちから感じるような、温かい繋がりを、全く、感じることができない。
ただ、精巧に作られた、魂のない人形が、そこに立っているかのようだった。
(……違う)
アレンは、気づいた。
(ゴードン先生なら……僕が、こんなに危ない場所にいたら、こんな風に、ただ笑って、手招きするだけじゃない。
もっと、すごく心配して、僕の名前を、大声で呼んでくれるはずだ……!)
論理ではない。
理屈でもない。
アレンの、心が、魂が、目の前の存在が「偽物」であると、確信していた。
◇
アレンは、一歩、踏みとどまると、偽りのゴードンさんに向かって、一つの質問を、投げかけた。
それは、彼と、本物のゴードンさんだけが知っている、ささやかな、食いしん坊の、大切な思い出だった。
「ねえ、ゴードン先生」
アレンは、わざと、にこりと笑って言った。
「僕、先生と一緒に、あの秘密の庭で、初めて、自分で育てたカブを食べた時のこと、忘れられません。
すごく、すごく、甘くて、でも、ちゃんと、力強い土の味がして……。
先生は、あの時の、あのカブの味、覚えてますか?」
幻術は、人の記憶を、完璧にコピーすることはできるかもしれない。
だが、その時に感じた、心の機微、魂の震え、そして、何より、「味」という、あまりにも個人的で、繊細な記憶までは、決して、再現できない。
偽りのゴードンさんは、その、あまりにも意表を突いた質問に、一瞬、その完璧な笑顔を、凍りつかせた。
そして、間を置いて、当たり障りのない、空虚な答えを、返す。
「……ああ、もちろんだとも、アレン坊。
覚えとるぞ。
あれは、実に見事な、美味いカブじゃったのう……」
その、心のこもっていない、薄っぺらな返答を聞いて、アレンは、全てを、理解した。
◇
「……君は、誰?」
アレンが、それまでの笑顔を消し、静かに、しかし、その瞳に、鋭い光を宿して、問いかける。
その瞬間、偽りのゴードンさんの姿が、テレビの砂嵐のように、ノイズが走り、激しく、歪んだ。
「ちっ……!」
森のどこかから、幻術の主である、ロキシーの、小さな舌打ちの音が、聞こえた気がした。
アレンは、怒りではなかった。
むしろ、深い、深い、悲しみの感情で、スキルを発動させた。
「僕の、大切な、大好きな、ゴードン先生の姿を使って、僕を騙そうとするなんて……。
そんなの、絶対に、許さない」
彼が生成したのは、攻撃用の種ではない。
この空間に満ちている、幻術の源である「偽りの魔力」そのものを、浄化し、霧散させる、特殊な植物。
アレンが、その種を、そっと、地面に置くと。
そこから、まるで、水面に広がる波紋のように、清らかな香りを放つ、美しい、一輪の『睡蓮』の花が、静かに、咲いた。
そして、その、泥の中に咲く、一点の汚れもない、白い花から、穏やかで、しかし、抗うことのできない、浄化の波動が、あたり一面に、広がっていく。
周囲に満ちていた、禍々しい幻術の魔力が、まるで、朝の光に照らされた、夜霧のように、すーっと、音もなく、消え去っていった。
◇
幻術が、完全に、消え去る。
偽りのゴードンさんの姿も、もう、どこにもなかった。
だが、ロキシーは、まだ、近くの闇に、その身を潜めている。
彼女は、自分の、最も得意とする、高位の幻術が、力ではなく、たった一人の少年の、「大切な思い出」と、そして、その規格外のスキルによって、完璧に破られたことに、驚愕と、そして、これまで以上の、歪んだ執着を、感じていた。
(面白い……。
面白いわ、アレン・リンク!
あなたのその、純粋で、強靭な『心』、もっと、もっと、弄んで、壊してみたくなったわ……!)
アレンは、敵の気配が、まだ、完全に消えてはいないことを、肌で感じ取り、仲間たちと共に、周囲への警戒を、さらに、強める。
物理的な戦いではない。
互いの「心」と「記憶」を、探り合う、新たな、そして、最も厄介な、心理戦。
その、静かなる戦いの火蓋は、今、切って落とされたのだった。
儂のところへ、来るんじゃ……」
目の前に立つ、恩師ゴードンさんの、優しい声と、温かい手招き。
アレンの心は、激しく揺さぶられていた。
頭では、グレイの言う通り、「何かがおかしい」と感じている。
だが、心は、その、あまりにも懐かしく、大好きな笑顔を、疑うことを、拒んでいた。
リナリアとルミナも、それが巧妙な幻術であることには気づいていたが、どうすることもできないでいた。
下手に魔法で攻撃すれば、アレンの心を、深く傷つけてしまうかもしれない。
アレンが、自ら、その幻を振り払うのを、信じて見守るしかなかった。
アレンは、まるで、何かに引き寄せられるように、偽りのゴードンさんに向かって、一歩、足を踏み出しかけた。
その、瞬間だった。
アレンの、服のポケットの中。
旅立つ前に、仲間たちと交換した、あの『お守りの種』が、ふわり、と、微かに、温かい光を放った。
アレンは、はっとする。
その光を通して、彼の心に、仲間たちの感情が、流れ込んできたのだ。
リナリアの、心からの「心配」。
ルミナの、鋭い「警戒」。
そして、背後で剣を構える、グレイの、燃えるような「闘志」。
温かい、仲間との、確かな繋がり。
アレンは、目の前のゴードンさんを、もう一度、見つめた。
その姿からは、仲間たちから感じるような、温かい繋がりを、全く、感じることができない。
ただ、精巧に作られた、魂のない人形が、そこに立っているかのようだった。
(……違う)
アレンは、気づいた。
(ゴードン先生なら……僕が、こんなに危ない場所にいたら、こんな風に、ただ笑って、手招きするだけじゃない。
もっと、すごく心配して、僕の名前を、大声で呼んでくれるはずだ……!)
論理ではない。
理屈でもない。
アレンの、心が、魂が、目の前の存在が「偽物」であると、確信していた。
◇
アレンは、一歩、踏みとどまると、偽りのゴードンさんに向かって、一つの質問を、投げかけた。
それは、彼と、本物のゴードンさんだけが知っている、ささやかな、食いしん坊の、大切な思い出だった。
「ねえ、ゴードン先生」
アレンは、わざと、にこりと笑って言った。
「僕、先生と一緒に、あの秘密の庭で、初めて、自分で育てたカブを食べた時のこと、忘れられません。
すごく、すごく、甘くて、でも、ちゃんと、力強い土の味がして……。
先生は、あの時の、あのカブの味、覚えてますか?」
幻術は、人の記憶を、完璧にコピーすることはできるかもしれない。
だが、その時に感じた、心の機微、魂の震え、そして、何より、「味」という、あまりにも個人的で、繊細な記憶までは、決して、再現できない。
偽りのゴードンさんは、その、あまりにも意表を突いた質問に、一瞬、その完璧な笑顔を、凍りつかせた。
そして、間を置いて、当たり障りのない、空虚な答えを、返す。
「……ああ、もちろんだとも、アレン坊。
覚えとるぞ。
あれは、実に見事な、美味いカブじゃったのう……」
その、心のこもっていない、薄っぺらな返答を聞いて、アレンは、全てを、理解した。
◇
「……君は、誰?」
アレンが、それまでの笑顔を消し、静かに、しかし、その瞳に、鋭い光を宿して、問いかける。
その瞬間、偽りのゴードンさんの姿が、テレビの砂嵐のように、ノイズが走り、激しく、歪んだ。
「ちっ……!」
森のどこかから、幻術の主である、ロキシーの、小さな舌打ちの音が、聞こえた気がした。
アレンは、怒りではなかった。
むしろ、深い、深い、悲しみの感情で、スキルを発動させた。
「僕の、大切な、大好きな、ゴードン先生の姿を使って、僕を騙そうとするなんて……。
そんなの、絶対に、許さない」
彼が生成したのは、攻撃用の種ではない。
この空間に満ちている、幻術の源である「偽りの魔力」そのものを、浄化し、霧散させる、特殊な植物。
アレンが、その種を、そっと、地面に置くと。
そこから、まるで、水面に広がる波紋のように、清らかな香りを放つ、美しい、一輪の『睡蓮』の花が、静かに、咲いた。
そして、その、泥の中に咲く、一点の汚れもない、白い花から、穏やかで、しかし、抗うことのできない、浄化の波動が、あたり一面に、広がっていく。
周囲に満ちていた、禍々しい幻術の魔力が、まるで、朝の光に照らされた、夜霧のように、すーっと、音もなく、消え去っていった。
◇
幻術が、完全に、消え去る。
偽りのゴードンさんの姿も、もう、どこにもなかった。
だが、ロキシーは、まだ、近くの闇に、その身を潜めている。
彼女は、自分の、最も得意とする、高位の幻術が、力ではなく、たった一人の少年の、「大切な思い出」と、そして、その規格外のスキルによって、完璧に破られたことに、驚愕と、そして、これまで以上の、歪んだ執着を、感じていた。
(面白い……。
面白いわ、アレン・リンク!
あなたのその、純粋で、強靭な『心』、もっと、もっと、弄んで、壊してみたくなったわ……!)
アレンは、敵の気配が、まだ、完全に消えてはいないことを、肌で感じ取り、仲間たちと共に、周囲への警戒を、さらに、強める。
物理的な戦いではない。
互いの「心」と「記憶」を、探り合う、新たな、そして、最も厄介な、心理戦。
その、静かなる戦いの火蓋は、今、切って落とされたのだった。
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