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第四話:ミモザ村に咲く笑顔、そして領主来訪の報せ
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フィリアがミモザ村に身を寄せてから、季節は春から初夏へと移り変わっていた。
厳しい追放の旅で負った心の傷はまだ癒えぬものの、村での規則正しい生活と、村人たちの素朴な優しさに触れるうちに、彼女の表情には徐々に穏やかな光が戻り始めていた。
フィリアは、もはや単なる「訳ありの旅人」ではなかった。
彼女の持つ豊富な知識、意外なほどの体力、そして何よりも、困難な状況でも決して諦めない気丈な性格は、ミモザ村にとってなくてはならない力となっていた。
ある時、村で飼育している鶏たちが、次々と原因不明の病にかかり、元気をなくしてしまうという出来事があった。
村人たちは、以前にも同じような病で多くの鶏を失った経験から、またかと肩を落とし、なす術もなく途方に暮れていた。
しかし、フィリアは諦めなかった。
彼女は、かつて王宮の書庫で読んだ、家畜の病に関する古い書物の記述を思い出し、病気の鶏の様子を注意深く観察した。
そして、鶏たちが共通して啄んでいた、鶏舎の隅に生えた特定の野草に原因があるのではないかと突き止めたのだ。
その野草は、少量ならば薬効もあるが、特定の条件下で毒性を持ち、家禽類には特に強い影響を与えるという、非常に珍しい性質を持っていた。
フィリアは村人たちにそのことを説明し、鶏舎から問題の野草を徹底的に除去させ、さらに解毒作用のある別のハーブを鶏の餌に混ぜて与えるよう指示した。
初めは半信半疑だった村人たちも、フィリアの的確な指示と、彼女の瞳に宿る確信に満ちた光に、一縷の望みを託した。
数日後、フィリアの処置は見事に功を奏し、病気だった鶏たちは徐々に元気を取り戻し、村は大きな損失を免れたのだ。
「フィリア、お前さんは本当に大したもんだ!」
「まるで、魔法使いみたいだねぇ!」
村人たちは、口々にフィリアを称賛し、彼女への信頼を一層深めた。
また別の日には、長らく日照りが続き、村の畑を潤す小川の水位が危険なほど下がってしまうという危機が訪れた。
このままでは、秋の収穫が絶望的になると、村全体が暗い雰囲気に包まれた。
そんな時、フィリアは村の古老であるマーサから、村の成り立ちや古い言い伝えについて詳しく話を聞き、さらに村の周辺の地形を数日かけて丹念に調査した。
そして、古い地図にも載っていない、森の奥深くに存在するはずの、かつては豊かだったという古い水源の跡地を探し当てることを提案したのだ。
村の若い男たちは、フィリアの示す僅かな手がかりを頼りに、半信半疑ながらも森の奥へと分け入った。
そして、数日間の探索の末、彼らはついに、苔むした岩の間からこんこんと湧き出る、清らかな泉を発見したのだった。
その泉から村へと新たな水路を引くのは容易なことではなかったが、フィリアの知恵と、村人たちの団結によって、ミモザ村は深刻な水不足の危機を乗り越えることができた。
これらの出来事を通じて、フィリアはミモザ村の人々にとって、もはやなくてはならない存在となっていた。
彼女は、畑仕事や家畜の世話といった日常的な労働だけでなく、村の子供たちへの教育、病人の簡単な看護、そして時には村の寄り合いで的確な助言を与えるなど、その多才ぶりを遺憾なく発揮した。
フィリア自身も、村人たちから寄せられる信頼と感謝の言葉に、これまでの人生では感じたことのない、確かな充足感と生きる喜びを感じていた。
王宮での華やかだが虚飾に満ちた生活よりも、この質素だが温かい繋がりの中で、自分の力で誰かの役に立てるということの方が、ずっと尊く、価値のあることのように思えた。
もちろん、夜一人になると、故郷を追われた日の屈辱や、裏切った者たちへの怒りが蘇り、眠れぬ夜を過ごすこともあった。
しかし、翌朝、ミモザ村の子供たちの屈託のない笑顔や、村人たちの「フィリア、おはよう!」という元気な声に迎えられると、彼女の心は再び前を向く力を得るのだった。
そんな穏やかで充実した日々が続いていたある夏の終わり。
ミモザ村に、数ヶ月に一度訪れる行商人が、一つの大きな報せをもたらした。
「聞いたかい?近々、このグリューネヴァルト辺境伯領を治めておられる、若き領主、レオンハルト様が、領内の村々を視察に回られるそうだぜ。」
グリューネヴァルト辺境伯。
エルドラード王国の隣国、アストリア王国に属しながらも、広大な自治権を持つこの辺境の地を、若くして治めているという辣腕の領主。
その名は、フィリアもエルドラード王国の王宮にいた頃から、何度か耳にしたことがあった。
確か、勇猛果敢で知略に長け、民からの信望も厚い人物だと。
滅多にない領主の来訪の報せに、ミモザ村の村人たちは色めき立った。
「辺境伯様が、こんな小さな村にまでいらっしゃるのか!」
「これは、村の窮状を直接訴える良い機会かもしれんぞ。」
「いやいや、我々のような貧しい村が、辺境伯様をお迎えするなど、恐れ多いことだ。」
期待と緊張、そしてわずかな不安が入り混じった声が、村のあちこちで交わされる。
フィリアもまた、その報せに複雑な思いを抱いた。
辺境伯レオンハルト。
彼もまた、アストリア王国の貴族。
そして、アストリア王国といえば、かつての婚約者アルフレッド王子の国でもある。
(もし、私の素性が知れたら……)
一抹の不安が胸をよぎるが、フィリアはすぐにその思いを打ち消した。
今の自分は、エルドラード王国の王女フィリアではない。
ただの、ミモザ村で暮らす、フィリアという一人の女だ。
何も恐れることはない。
それよりも、村人たちが領主の視察に過度な期待を寄せたり、あるいは萎縮してしまったりしないよう、自分にできることがあれば手助けしたいと、フィリアは思った。
「マーサさん、辺境伯様をお迎えするにあたって、何か私たちにできることはありますか?」
フィリアは、村のまとめ役であるマーサに尋ねた。
マーサは、皺の刻まれた顔に穏やかな笑みを浮かべ、フィリアの肩を優しく叩いた。
「フィリア、お前さんはいつも通りにしておればいいさ。この村が、お前さんのおかげでどれだけ良くなったか、辺境伯様もきっと分かってくださるだろうよ。」
その言葉は、フィリアにとって何よりの励ましとなった。
ミモザ村の短い夏が終わりを告げ、豊かな実りの秋が近づいていた。
そして、辺境伯レオンハルトの来訪の日もまた、刻一刻と迫ってきている。
その出会いが、フィリアの運命を再び大きく揺り動かすことになるなど、彼女はまだ知る由もなかった。
厳しい追放の旅で負った心の傷はまだ癒えぬものの、村での規則正しい生活と、村人たちの素朴な優しさに触れるうちに、彼女の表情には徐々に穏やかな光が戻り始めていた。
フィリアは、もはや単なる「訳ありの旅人」ではなかった。
彼女の持つ豊富な知識、意外なほどの体力、そして何よりも、困難な状況でも決して諦めない気丈な性格は、ミモザ村にとってなくてはならない力となっていた。
ある時、村で飼育している鶏たちが、次々と原因不明の病にかかり、元気をなくしてしまうという出来事があった。
村人たちは、以前にも同じような病で多くの鶏を失った経験から、またかと肩を落とし、なす術もなく途方に暮れていた。
しかし、フィリアは諦めなかった。
彼女は、かつて王宮の書庫で読んだ、家畜の病に関する古い書物の記述を思い出し、病気の鶏の様子を注意深く観察した。
そして、鶏たちが共通して啄んでいた、鶏舎の隅に生えた特定の野草に原因があるのではないかと突き止めたのだ。
その野草は、少量ならば薬効もあるが、特定の条件下で毒性を持ち、家禽類には特に強い影響を与えるという、非常に珍しい性質を持っていた。
フィリアは村人たちにそのことを説明し、鶏舎から問題の野草を徹底的に除去させ、さらに解毒作用のある別のハーブを鶏の餌に混ぜて与えるよう指示した。
初めは半信半疑だった村人たちも、フィリアの的確な指示と、彼女の瞳に宿る確信に満ちた光に、一縷の望みを託した。
数日後、フィリアの処置は見事に功を奏し、病気だった鶏たちは徐々に元気を取り戻し、村は大きな損失を免れたのだ。
「フィリア、お前さんは本当に大したもんだ!」
「まるで、魔法使いみたいだねぇ!」
村人たちは、口々にフィリアを称賛し、彼女への信頼を一層深めた。
また別の日には、長らく日照りが続き、村の畑を潤す小川の水位が危険なほど下がってしまうという危機が訪れた。
このままでは、秋の収穫が絶望的になると、村全体が暗い雰囲気に包まれた。
そんな時、フィリアは村の古老であるマーサから、村の成り立ちや古い言い伝えについて詳しく話を聞き、さらに村の周辺の地形を数日かけて丹念に調査した。
そして、古い地図にも載っていない、森の奥深くに存在するはずの、かつては豊かだったという古い水源の跡地を探し当てることを提案したのだ。
村の若い男たちは、フィリアの示す僅かな手がかりを頼りに、半信半疑ながらも森の奥へと分け入った。
そして、数日間の探索の末、彼らはついに、苔むした岩の間からこんこんと湧き出る、清らかな泉を発見したのだった。
その泉から村へと新たな水路を引くのは容易なことではなかったが、フィリアの知恵と、村人たちの団結によって、ミモザ村は深刻な水不足の危機を乗り越えることができた。
これらの出来事を通じて、フィリアはミモザ村の人々にとって、もはやなくてはならない存在となっていた。
彼女は、畑仕事や家畜の世話といった日常的な労働だけでなく、村の子供たちへの教育、病人の簡単な看護、そして時には村の寄り合いで的確な助言を与えるなど、その多才ぶりを遺憾なく発揮した。
フィリア自身も、村人たちから寄せられる信頼と感謝の言葉に、これまでの人生では感じたことのない、確かな充足感と生きる喜びを感じていた。
王宮での華やかだが虚飾に満ちた生活よりも、この質素だが温かい繋がりの中で、自分の力で誰かの役に立てるということの方が、ずっと尊く、価値のあることのように思えた。
もちろん、夜一人になると、故郷を追われた日の屈辱や、裏切った者たちへの怒りが蘇り、眠れぬ夜を過ごすこともあった。
しかし、翌朝、ミモザ村の子供たちの屈託のない笑顔や、村人たちの「フィリア、おはよう!」という元気な声に迎えられると、彼女の心は再び前を向く力を得るのだった。
そんな穏やかで充実した日々が続いていたある夏の終わり。
ミモザ村に、数ヶ月に一度訪れる行商人が、一つの大きな報せをもたらした。
「聞いたかい?近々、このグリューネヴァルト辺境伯領を治めておられる、若き領主、レオンハルト様が、領内の村々を視察に回られるそうだぜ。」
グリューネヴァルト辺境伯。
エルドラード王国の隣国、アストリア王国に属しながらも、広大な自治権を持つこの辺境の地を、若くして治めているという辣腕の領主。
その名は、フィリアもエルドラード王国の王宮にいた頃から、何度か耳にしたことがあった。
確か、勇猛果敢で知略に長け、民からの信望も厚い人物だと。
滅多にない領主の来訪の報せに、ミモザ村の村人たちは色めき立った。
「辺境伯様が、こんな小さな村にまでいらっしゃるのか!」
「これは、村の窮状を直接訴える良い機会かもしれんぞ。」
「いやいや、我々のような貧しい村が、辺境伯様をお迎えするなど、恐れ多いことだ。」
期待と緊張、そしてわずかな不安が入り混じった声が、村のあちこちで交わされる。
フィリアもまた、その報せに複雑な思いを抱いた。
辺境伯レオンハルト。
彼もまた、アストリア王国の貴族。
そして、アストリア王国といえば、かつての婚約者アルフレッド王子の国でもある。
(もし、私の素性が知れたら……)
一抹の不安が胸をよぎるが、フィリアはすぐにその思いを打ち消した。
今の自分は、エルドラード王国の王女フィリアではない。
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何も恐れることはない。
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マーサは、皺の刻まれた顔に穏やかな笑みを浮かべ、フィリアの肩を優しく叩いた。
「フィリア、お前さんはいつも通りにしておればいいさ。この村が、お前さんのおかげでどれだけ良くなったか、辺境伯様もきっと分かってくださるだろうよ。」
その言葉は、フィリアにとって何よりの励ましとなった。
ミモザ村の短い夏が終わりを告げ、豊かな実りの秋が近づいていた。
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