奈落の聖女

シマセイ

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第六十一話:岩屋の残響、目覚める古の力

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岩屋の中で、どれくらいの時間、眠っていたのだろうか。

私が目を覚ました時、外で荒れ狂っていた吹雪の音は、いくらか弱まっているように感じられた。

岩屋の中は、不思議なほど静かで、そして、昨日感じたのと同じ、穏やかで清浄な気に満ちている。

体の疲労は、まだ残っている。

けれど、心は、奇妙なほど、落ち着いていた。

私は、灯り石の光を頼りに、もう一度、壁に刻まれた線刻を、注意深く見て回った。

渦巻く星々、天を衝く山々、そして、異形の、しかし、どこか神々しい存在たち。

その全てが、何か、壮大な物語を語りかけてくるようだ。

そして、一番奥の、あの、光り輝く宝玉のような円を中心とした図。

私は、その前に、静かに座り込んだ。

そして、ゆっくりと、胸の奥の『聖なる力』に、意識を集中させる。

昨日、この線刻に触れた時、感じた、あの、古い記憶のような、不思議な感覚。

あれは、一体、何だったのだろうか……。

私が、そっと、線刻に手を触れながら、内なる光を高めていくと、奇跡のようなことが起こった。

線刻が……壁に刻まれた模様が、私の手のひらの下で、淡い、金色の光を放ち始めたのだ!

それは、私の『聖なる力』と、共鳴しているかのようだった。

岩肌に刻まれた、古代の光の線が、まるで、生きているかのように、脈打ち、そして、岩屋全体が、柔らかな、金色の光に包まれていく。

(……これは……!)

驚きと、畏怖(いふ)の念で、体が震える。

そして、その光の中で、私の頭の中に、直接、流れ込んでくるものがあった。

それは、言葉ではない。

映像でもない。

もっと、直接的で、魂に響くような、純粋な「情報」の奔流。

古代の記憶。

この山が、まだ、若かった頃の光景。

天と地が、今よりも、ずっと、近かった時代。

星の光を浴びて、この岩屋で、人々が祈りを捧げている。

彼らの姿は、ぼんやりとして、はっきりとは見えない。

でも、彼らが、私と、同じような、温かい、金色の光を、その身に宿していたことだけは、確かに、感じ取れた。

彼らは、自然を敬い、星々を読み、そして、内なる光の力で、邪悪なものを払い、傷ついたものを癒していた。

そこには、私が知っている、アストリア王国の、形式張った、権力と結びついた「聖女」の姿はなかった。

もっと、根源的で、純粋な、光の担い手としての、生き方。

そして、私を裏切った、あの儀式……。

あれは、この、古代の力の、ほんの表層をなぞっただけの、歪んだ模倣だったのかもしれない。

カイトが言った、「出来損ない」という言葉。

セレスの、嘲るような笑み。

それらが、この、圧倒的な、古の記憶の前では、ちっぽけで、取るに足らないもののように感じられた。

私の力は、出来損ないなんかじゃない。

それは、この星が生まれた時からの、古い、古い、聖なる力の、一部なのだ。

どれくらいの時間が経ったのか、わからなかった。

気がつくと、岩屋を包んでいた金色の光は、静かに消え、壁の線刻も、元の、ただの岩肌に戻っていた。

でも、私の心の中には、確かな変化が起きていた。

恐怖や、不安が、完全に消えたわけではない。

でも、それ以上に、何か、もっと、大きなものと繋がったような、深い安堵感と、そして、静かな誇りが、胸を満たしていたのだ。

(……私は、一人じゃない……)

この力と共にある限り。

そして、この力を、正しく使う限り。

吹雪は、いつの間にか、止んでいた。

岩屋の外からは、澄んだ、冬の太陽の光が、差し込んできている。

私は、立ち上がり、岩屋の入り口へと向かった。

もう、この場所に、長居する必要はない。

私が知るべきことは、知った。

あとは、進むだけだ。

岩屋から一歩、外へ出ると、雪に覆われた、純白の世界が広がっていた。

空気は、刺すように冷たいけれど、どこまでも、清浄だ。

三つ又の山は、より一層、神々しく、私を見下ろしている。

あの山は、ただの、目印ではなかった。

私にとって、ここは、力の源流に触れるための、聖地だったのかもしれない。

食料も、水も、ほとんどない。

この先の道も、まだ、険しいだろう。

でも、私の心は、かつてないほど、穏やかで、そして、力強かった。
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