70 / 96
第六十七話:銀流都市の喧騒、過去の呼び声
しおりを挟む
翠(みどり)の隠れ里で得た、束の間の安らぎと、ローワン様の温かい言葉。
それらを胸に、私は、新たな目的地である「銀流都市(ぎんりゅうとし)」へと、歩みを進めていた。
ローワン様がくれた地図は、簡素ながらも、主要な道筋と、いくつかの目印となる地形を示してくれており、以前の、あてのない旅とは比べ物にならないほど、心強かった。
街道は、翠の隠れ里周辺とは違い、比較的、人の往来があった。
小さな村々をいくつか通り過ぎ、時には、私と同じように、銀流都市を目指す旅人や、行商人の一団と、言葉を交わすこともあった。
もちろん、私は、自分の身の上を詳しく語ることはなかったけれど、彼らから聞く、様々な土地の話や、最近の出来事の噂は、私にとって、貴重な情報源となった。
そして、数日後。
ついに、私は、銀流都市の、巨大な城壁を、目の当たりにした。
水車の町など、比べ物にならないほどの、圧倒的な規模。
高く聳(そび)える城壁、その上には、いくつもの見張り台が見え、そして、中央に堂々と構える、巨大な城門。
そこからは、まるで、蟻の行列のように、多くの人々や、荷馬車が、ひっきりなしに出入りしている。
(……ここが、銀流都市……)
私は、その、都市の持つ、巨大なエネルギーに、圧倒されそうになった。
でも、同時に、胸の高鳴りも感じる。
これほど大きな都市なら、きっと、私が求める何かがあるはずだ。
情報も、仕事も、そして……あるいは。
門をくぐり、都市の中へ入ると、そこは、喧騒と、雑多な匂いと、そして、様々な人々の熱気に満ちていた。
石畳の道、何階建てにもなる高い建物、きらびやかな商店、そして、その影には、薄暗い路地裏。
富と、貧困が、隣り合わせに存在する、大都市の姿が、そこにはあった。
私は、まず、冒険者ギルドを探すことにした。
これだけ大きな都市なら、きっと、立派なギルドがあるはずだ。
そして、そこで、何か、安全に稼げる仕事を見つけなければ。
銀流都市の冒険者ギルドは、中央広場に面した、一際、大きく、そして、重厚な石造りの建物だった。
中に入ると、石楠花の町や、水車の町の連絡所とは、比べ物にならないほどの、広さと、人の多さに、改めて驚かされる。
カウンターも複数あり、多くの冒険者たちが、依頼の受付や、報告に、列を作っていた。
私は、その雰囲気に少し気圧されながらも、なんとか、一番空いているカウンターへ進み、簡単な、都市内での配達依頼を一つ、手に入れた。
報酬は、銅貨十枚。
わずかな金額だけれど、今の私には、ありがたい。
依頼をこなし、わずかな銅貨を手にした後、私は、都市の中を、あてもなく歩き回った。
この都市の空気を、肌で感じたかったのだ。
そして、何か、手がかりになるようなものが、見つからないか、と。
そんな時、ふと、ある一角で、私の足が止まった。
そこには、何人かの、立派な身なりの商人たちが、供回りの者たちを引き連れて、大きな商店へと入っていくところだった。
その商人たちの、一人が身につけていた外套(マント)に、見覚えのある紋章が刺繍されているのに、気づいたのだ。
それは……アストリア王国の、ある有力貴族の紋章。
そして、その貴族は、私の父……つまり、国王の側近であり、カイトの父親とも、親しい間柄だったはず。
(……アストリアの人間が、こんな場所に……?)
胸が、ドクン、と大きく鳴った。
その商人たちが、店の中へ消えていくのを、私は、しばらく、呆然と見送っていた。
彼らが、私のことを知っている可能性は低い。
でも、あの紋章を見ただけで、私の心には、忘れかけていた、いや、忘れようとしていた、憎悪の炎が、再び、燃え上がるのを感じた。
カイト……セレス……。
彼らは、今、アストリアで、のうのうと暮らしているのだろう。
私を、出来損ないだと、追放したことなど、もう、忘れてしまっているのかもしれない。
(……許さない……絶対に……!)
改めて、復讐の誓いを、胸に刻む。
そのためには、力が必要だ。
もっと、もっと、強い力が。
その夜、私は、都市の隅で見つけた、一番安い木賃宿の一室で、アレンさんの本を、食い入るように見つめていた。
特に、あの、山の岩屋で感じた、『聖なる力』の源流に繋がるかもしれない、光の魔法に関する記述を。
そして、私は、本の中に、今まで、見過ごしていた、小さな記述を見つけたのだ。
それは、古代の魔法体系における、「星詠み」や、「異界の門」に関する、断片的な記述だった。
『……星々の配置が、稀なる角度を成す時、世界の境界は、薄らぎ、古の道が、束の間、開かれるという……。
賢者は、その道を読み、時には、異界との交信すら、試みた……』
異界の門……。
私を、この世界へ追いやった、あの門。
もしかしたら……。
元の世界へ、帰る方法が……?
そんな、考えが、初めて、私の頭をよぎった。
復讐を果たした後、私は、どうするのだろう?
この、異世界で、生きていくのか?
それとも……。
まだ、何もわからない。
でも、もし、帰れる可能性があるのなら……。
私は、その記述が書かれたページに、そっと、指で触れた。
胸の奥の『聖なる力』が、その文字と、微かに、共鳴しているような気がした。
(……もっと、知りたい……。
この力のことも、そして、世界の秘密も……)
私は、決意を新たにした。
この銀流都市で、私は、ただ、生き延びるだけじゃない。
力をつけ、情報を集め、そして、いつか、必ず、アストリアへ……。
そのためなら、どんな危険も、厭わない。
私は、窓から見える、銀流都市の、無数の灯りを見つめた。
それらを胸に、私は、新たな目的地である「銀流都市(ぎんりゅうとし)」へと、歩みを進めていた。
ローワン様がくれた地図は、簡素ながらも、主要な道筋と、いくつかの目印となる地形を示してくれており、以前の、あてのない旅とは比べ物にならないほど、心強かった。
街道は、翠の隠れ里周辺とは違い、比較的、人の往来があった。
小さな村々をいくつか通り過ぎ、時には、私と同じように、銀流都市を目指す旅人や、行商人の一団と、言葉を交わすこともあった。
もちろん、私は、自分の身の上を詳しく語ることはなかったけれど、彼らから聞く、様々な土地の話や、最近の出来事の噂は、私にとって、貴重な情報源となった。
そして、数日後。
ついに、私は、銀流都市の、巨大な城壁を、目の当たりにした。
水車の町など、比べ物にならないほどの、圧倒的な規模。
高く聳(そび)える城壁、その上には、いくつもの見張り台が見え、そして、中央に堂々と構える、巨大な城門。
そこからは、まるで、蟻の行列のように、多くの人々や、荷馬車が、ひっきりなしに出入りしている。
(……ここが、銀流都市……)
私は、その、都市の持つ、巨大なエネルギーに、圧倒されそうになった。
でも、同時に、胸の高鳴りも感じる。
これほど大きな都市なら、きっと、私が求める何かがあるはずだ。
情報も、仕事も、そして……あるいは。
門をくぐり、都市の中へ入ると、そこは、喧騒と、雑多な匂いと、そして、様々な人々の熱気に満ちていた。
石畳の道、何階建てにもなる高い建物、きらびやかな商店、そして、その影には、薄暗い路地裏。
富と、貧困が、隣り合わせに存在する、大都市の姿が、そこにはあった。
私は、まず、冒険者ギルドを探すことにした。
これだけ大きな都市なら、きっと、立派なギルドがあるはずだ。
そして、そこで、何か、安全に稼げる仕事を見つけなければ。
銀流都市の冒険者ギルドは、中央広場に面した、一際、大きく、そして、重厚な石造りの建物だった。
中に入ると、石楠花の町や、水車の町の連絡所とは、比べ物にならないほどの、広さと、人の多さに、改めて驚かされる。
カウンターも複数あり、多くの冒険者たちが、依頼の受付や、報告に、列を作っていた。
私は、その雰囲気に少し気圧されながらも、なんとか、一番空いているカウンターへ進み、簡単な、都市内での配達依頼を一つ、手に入れた。
報酬は、銅貨十枚。
わずかな金額だけれど、今の私には、ありがたい。
依頼をこなし、わずかな銅貨を手にした後、私は、都市の中を、あてもなく歩き回った。
この都市の空気を、肌で感じたかったのだ。
そして、何か、手がかりになるようなものが、見つからないか、と。
そんな時、ふと、ある一角で、私の足が止まった。
そこには、何人かの、立派な身なりの商人たちが、供回りの者たちを引き連れて、大きな商店へと入っていくところだった。
その商人たちの、一人が身につけていた外套(マント)に、見覚えのある紋章が刺繍されているのに、気づいたのだ。
それは……アストリア王国の、ある有力貴族の紋章。
そして、その貴族は、私の父……つまり、国王の側近であり、カイトの父親とも、親しい間柄だったはず。
(……アストリアの人間が、こんな場所に……?)
胸が、ドクン、と大きく鳴った。
その商人たちが、店の中へ消えていくのを、私は、しばらく、呆然と見送っていた。
彼らが、私のことを知っている可能性は低い。
でも、あの紋章を見ただけで、私の心には、忘れかけていた、いや、忘れようとしていた、憎悪の炎が、再び、燃え上がるのを感じた。
カイト……セレス……。
彼らは、今、アストリアで、のうのうと暮らしているのだろう。
私を、出来損ないだと、追放したことなど、もう、忘れてしまっているのかもしれない。
(……許さない……絶対に……!)
改めて、復讐の誓いを、胸に刻む。
そのためには、力が必要だ。
もっと、もっと、強い力が。
その夜、私は、都市の隅で見つけた、一番安い木賃宿の一室で、アレンさんの本を、食い入るように見つめていた。
特に、あの、山の岩屋で感じた、『聖なる力』の源流に繋がるかもしれない、光の魔法に関する記述を。
そして、私は、本の中に、今まで、見過ごしていた、小さな記述を見つけたのだ。
それは、古代の魔法体系における、「星詠み」や、「異界の門」に関する、断片的な記述だった。
『……星々の配置が、稀なる角度を成す時、世界の境界は、薄らぎ、古の道が、束の間、開かれるという……。
賢者は、その道を読み、時には、異界との交信すら、試みた……』
異界の門……。
私を、この世界へ追いやった、あの門。
もしかしたら……。
元の世界へ、帰る方法が……?
そんな、考えが、初めて、私の頭をよぎった。
復讐を果たした後、私は、どうするのだろう?
この、異世界で、生きていくのか?
それとも……。
まだ、何もわからない。
でも、もし、帰れる可能性があるのなら……。
私は、その記述が書かれたページに、そっと、指で触れた。
胸の奥の『聖なる力』が、その文字と、微かに、共鳴しているような気がした。
(……もっと、知りたい……。
この力のことも、そして、世界の秘密も……)
私は、決意を新たにした。
この銀流都市で、私は、ただ、生き延びるだけじゃない。
力をつけ、情報を集め、そして、いつか、必ず、アストリアへ……。
そのためなら、どんな危険も、厭わない。
私は、窓から見える、銀流都市の、無数の灯りを見つめた。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】王子と結婚するには本人も家族も覚悟が必要です
宇水涼麻
ファンタジー
王城の素晴らしい庭園でお茶をする五人。
若い二人と壮年のおデブ紳士と気品あふれる夫妻は、若い二人の未来について話している。
若い二人のうち一人は王子、一人は男爵令嬢である。
王子に見初められた男爵令嬢はこれから王子妃になるべく勉強していくことになる。
そして、男爵一家は王子妃の家族として振る舞えるようにならなくてはならない。
これまでそのような行動をしてこなかった男爵家の人たちでもできるものなのだろうか。
国王陛下夫妻と王宮総務局が総力を挙げて協力していく。
男爵令嬢の教育はいかに!
中世ヨーロッパ風のお話です。
ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない
ゆーぞー
ファンタジー
気がつけば昔読んだ少女マンガの世界だった。マンガの通りなら決して幸せにはなれない。そんなわけにはいかない。自分が幸せになるためにやれることをやっていこう。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~
ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。
そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。
自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。
マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――
※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。
※第二章まで完結してます。現在、最終章をゆっくり更新中です。書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m
※小説家になろう様にも投稿しています。
道化たちの末路
希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。
悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで
渡里あずま
恋愛
アデライトは婚約者である王太子に無実の罪を着せられ、婚約破棄の後に断頭台へと送られた。
……だが、気づけば彼女は七歳に巻き戻っていた。そしてアデライトの傍らには、彼女以外には見えない神がいた。
「見たくなったんだ。悪を知った君が、どう生きるかを。もっとも、今後はほとんど干渉出来ないけどね」
「……十分です。神よ、感謝します。彼らを滅ぼす機会を与えてくれて」
※※※
冤罪で父と共に殺された少女が、巻き戻った先で復讐を果たす物語(大団円に非ず)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
病弱設定されているようです
との
恋愛
『あのようにご立派な家門にお産まれになられたのに⋯⋯お可哀想なご令嬢だそうですのよ』
なんて噂が流れているけれど、誰も会ったことがないミリー・ミッドランド侯爵令嬢。
ネグレクトなんて言葉はない時代に生まれ落ちて、前世の記憶を取り戻したら⋯⋯。
前世の記憶と共に無双します!
再開しました。完結まで続投です。
ーーーーーー
恋愛小説大賞27位、ありがとうございました(感謝)
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定。
完結確定、R15は念の為・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる