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第七十五話:スラムの囁き、地下への活路
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銀流都市(ぎんりゅうとし)の、名もなき廃屋。
それが、サイラスの追手から逃れた私の、一時的な隠れ家だった。
夜明けと共に叩き起こされた、あの戦闘と追跡劇。
体力も、魔力も、そして、私のなけなしの『聖光(せいこう)の聖力』も、ほとんど使い果たしてしまっていた。
ドアに、ありったけのガラクタでバリケードを作り、私は、床に倒れ込むようにして、荒い息を繰り返す。
(……どうして、あんなに早く……?)
私が南門へ向かうことを、彼らは、どうやって察知したのだろう。
まさか、ギルドの中にまで、彼らの息がかかっている……?
それとも、この都市全体に、私を捕らえるための網が、すでに張り巡らされているというのか。
レイラさんの警告が、現実のものとして、重くのしかかってくる。
『その力を、利用しようとする者。封じようとする者……』
私は、サイラスたちにとって、それほどまでに「価値のある」存在なのだろうか。
この、忌まわしい、自分でも持て余しているような力が、それほどの……。
どれくらい、そうしていただろう。
少しだけ体力が回復すると、私は、この廃屋に長居するのは危険だと判断した。
いつ、追っ手が見回りに来るかわからない。
私は、レイラさんにもらった外套(マント)のフードを再び目深にかぶり、顔を汚れた布で半分隠し、できるだけ、みすぼらしい格好を装って、廃屋から抜け出した。
向かったのは、この都市の、さらに奥深く……スラム街と呼ばれる、貧しい人々が暮らす地区だ。
入り組んだ路地、今にも崩れそうな家々、そして、淀んだ空気と、異臭。
でも、その混沌とした風景が、今の私には、むしろ、好都合だった。
ここなら、追っ手の目も、届きにくいかもしれない。
私は、スラムの子供たちが、残飯を漁っているような、薄暗いゴミ捨て場の近くで、物陰に隠れながら、耳を澄ませた。
彼らの、何気ない会話の中に、何か、手がかりがないだろうか、と。
すると、痩せた、目の鋭い少年たちが、何やら、ひそひそと話しているのが聞こえてきた。
「……おい、聞いたか?
『コレクター』の連中が、また、何か探してるらしいぜ」
「コレクター?
ああ、あの、気味の悪い連中か。
今度は、何を集めてるってんだ?」
「……なんでも、『光る娘』を探してるって話だ。
見つけたら、銀貨で買い取ってくれるってよ」
光る娘……!
私の心臓が、ドクン、と大きく跳ねた。
それは、間違いなく、私のことだ。
サイラスの組織は、『コレクター』と呼ばれているのか……。
そして、彼らは、スラムの子供たちにまで、情報網を広げている。
もう、この都市の、どこにも、安全な場所などないのかもしれない。
(……どうすれば……)
地上を逃げ回っても、いずれ、捕まってしまう。
門は、厳しく見張られているだろう。
何か、別の方法で、この都市から脱出しなければ……。
その時、ふと、アレンさんの本にあった、ある記述を思い出した。
古代の大都市には、しばしば、地下に広がる、広大な下水道や、忘れられた地下道が存在した、と。
それは、まさに、「裏の道」。
危険に満ちているけれど、追っ手の目を逃れるには、格好のルートかもしれない。
この銀流都市にも、もし、そんな「地下都市(アンダーシティ)」のようなものが、存在するのなら……。
私は、僅かな希望を胸に、スラム街の、さらに奥深く、最も古く、打ち捨てられたような地区へと、足を踏み入れた。
崩れかけた寺院の跡地。
涸(か)れた井戸。
人の気配が、全くしない、寂れた一角。
そこで、私は、一つの、不自然な窪(くぼ)みを見つけた。
それは、大きな石版のようなもので、半分、塞がれているが、その下には、明らかに、人工的な穴が続いているように見える。
錆びついた、鉄の格子が、その入り口を、かろうじて塞いでいた。
(……ここだ……!)
私は、周囲に、誰もいないことを確認すると、その鉄格子に、手をかけた。
力を込めると、ギィィ……という、耳障りな音を立てて、鉄格子は、わずかに動いた。
もっとだ……!
私は、残っていた『聖なる力』を、腕に集中させる。
そして、渾身の力で、鉄格子を引き上げた!
ゴトン!
鉄格子が外れ、私の目の前に、暗く、冷たい、地下へと続く穴が、口を開けた。
中からは、カビ臭い、そして、何か、得体のしれない獣の匂いが混じった、淀んだ空気が、吹き上げてくる。
ここへ、入る……?
正直、恐ろしい。
何が潜んでいるか、わからない。
でも……。
地上には、サイラスという、明確な「狩人」がいる。
どちらが、より、危険か……。
私は、一瞬だけ、空を見上げた。
スラム街の、汚れた空。
でも、その向こうには、きっと、星々が輝いているはずだ。
レイラさんの言葉を思い出す。
『星の道』……。
私は、いつか、必ず、そこへ辿り着く。
そのためには、ここで、終わるわけにはいかない。
私は、覚悟を決めた。
そして、懐から、アレンさんに借りたままの『灯り石』を取り出し、それに、マナを込める。
ぼんやりとした光が、闇への入り口を、わずかに照らし出した。
私は、意を決して、その、暗く、冷たい穴の中へと、一歩、足を踏み入れた。
地上での追跡劇は、一旦、幕を閉じる。
そして、私の、新たな、そして、さらに過酷な戦いが、この、光の届かない、地下の世界で、始まろうとしていた。
それが、サイラスの追手から逃れた私の、一時的な隠れ家だった。
夜明けと共に叩き起こされた、あの戦闘と追跡劇。
体力も、魔力も、そして、私のなけなしの『聖光(せいこう)の聖力』も、ほとんど使い果たしてしまっていた。
ドアに、ありったけのガラクタでバリケードを作り、私は、床に倒れ込むようにして、荒い息を繰り返す。
(……どうして、あんなに早く……?)
私が南門へ向かうことを、彼らは、どうやって察知したのだろう。
まさか、ギルドの中にまで、彼らの息がかかっている……?
それとも、この都市全体に、私を捕らえるための網が、すでに張り巡らされているというのか。
レイラさんの警告が、現実のものとして、重くのしかかってくる。
『その力を、利用しようとする者。封じようとする者……』
私は、サイラスたちにとって、それほどまでに「価値のある」存在なのだろうか。
この、忌まわしい、自分でも持て余しているような力が、それほどの……。
どれくらい、そうしていただろう。
少しだけ体力が回復すると、私は、この廃屋に長居するのは危険だと判断した。
いつ、追っ手が見回りに来るかわからない。
私は、レイラさんにもらった外套(マント)のフードを再び目深にかぶり、顔を汚れた布で半分隠し、できるだけ、みすぼらしい格好を装って、廃屋から抜け出した。
向かったのは、この都市の、さらに奥深く……スラム街と呼ばれる、貧しい人々が暮らす地区だ。
入り組んだ路地、今にも崩れそうな家々、そして、淀んだ空気と、異臭。
でも、その混沌とした風景が、今の私には、むしろ、好都合だった。
ここなら、追っ手の目も、届きにくいかもしれない。
私は、スラムの子供たちが、残飯を漁っているような、薄暗いゴミ捨て場の近くで、物陰に隠れながら、耳を澄ませた。
彼らの、何気ない会話の中に、何か、手がかりがないだろうか、と。
すると、痩せた、目の鋭い少年たちが、何やら、ひそひそと話しているのが聞こえてきた。
「……おい、聞いたか?
『コレクター』の連中が、また、何か探してるらしいぜ」
「コレクター?
ああ、あの、気味の悪い連中か。
今度は、何を集めてるってんだ?」
「……なんでも、『光る娘』を探してるって話だ。
見つけたら、銀貨で買い取ってくれるってよ」
光る娘……!
私の心臓が、ドクン、と大きく跳ねた。
それは、間違いなく、私のことだ。
サイラスの組織は、『コレクター』と呼ばれているのか……。
そして、彼らは、スラムの子供たちにまで、情報網を広げている。
もう、この都市の、どこにも、安全な場所などないのかもしれない。
(……どうすれば……)
地上を逃げ回っても、いずれ、捕まってしまう。
門は、厳しく見張られているだろう。
何か、別の方法で、この都市から脱出しなければ……。
その時、ふと、アレンさんの本にあった、ある記述を思い出した。
古代の大都市には、しばしば、地下に広がる、広大な下水道や、忘れられた地下道が存在した、と。
それは、まさに、「裏の道」。
危険に満ちているけれど、追っ手の目を逃れるには、格好のルートかもしれない。
この銀流都市にも、もし、そんな「地下都市(アンダーシティ)」のようなものが、存在するのなら……。
私は、僅かな希望を胸に、スラム街の、さらに奥深く、最も古く、打ち捨てられたような地区へと、足を踏み入れた。
崩れかけた寺院の跡地。
涸(か)れた井戸。
人の気配が、全くしない、寂れた一角。
そこで、私は、一つの、不自然な窪(くぼ)みを見つけた。
それは、大きな石版のようなもので、半分、塞がれているが、その下には、明らかに、人工的な穴が続いているように見える。
錆びついた、鉄の格子が、その入り口を、かろうじて塞いでいた。
(……ここだ……!)
私は、周囲に、誰もいないことを確認すると、その鉄格子に、手をかけた。
力を込めると、ギィィ……という、耳障りな音を立てて、鉄格子は、わずかに動いた。
もっとだ……!
私は、残っていた『聖なる力』を、腕に集中させる。
そして、渾身の力で、鉄格子を引き上げた!
ゴトン!
鉄格子が外れ、私の目の前に、暗く、冷たい、地下へと続く穴が、口を開けた。
中からは、カビ臭い、そして、何か、得体のしれない獣の匂いが混じった、淀んだ空気が、吹き上げてくる。
ここへ、入る……?
正直、恐ろしい。
何が潜んでいるか、わからない。
でも……。
地上には、サイラスという、明確な「狩人」がいる。
どちらが、より、危険か……。
私は、一瞬だけ、空を見上げた。
スラム街の、汚れた空。
でも、その向こうには、きっと、星々が輝いているはずだ。
レイラさんの言葉を思い出す。
『星の道』……。
私は、いつか、必ず、そこへ辿り着く。
そのためには、ここで、終わるわけにはいかない。
私は、覚悟を決めた。
そして、懐から、アレンさんに借りたままの『灯り石』を取り出し、それに、マナを込める。
ぼんやりとした光が、闇への入り口を、わずかに照らし出した。
私は、意を決して、その、暗く、冷たい穴の中へと、一歩、足を踏み入れた。
地上での追跡劇は、一旦、幕を閉じる。
そして、私の、新たな、そして、さらに過酷な戦いが、この、光の届かない、地下の世界で、始まろうとしていた。
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