131 / 167
第百三十一話:世代の交代
しおりを挟む
「……なっ!?」
兄が初めて驚愕の表情を見せる。観客席がどよめいた。
ガイウスはその屈辱に顔を怒りで歪ませた。
「……面白い。少しは楽しめるようになったようだなルキウス!」
彼は本気になった。アークライト家に伝わる秘剣、その一つ『覇王斬』が僕へと放たれる。
凄まじい闘気をまとった魔剣の一閃。それは全てを断ち切る絶対的な破壊の一撃。
だが僕はその剣の弱点を知っていた。
「その技は振り下ろす直前、僅かに右肩が下がる」
僕はそのコンマ数秒の隙を見逃さない。
僕は彼の懐へと踏み込み、僕の木剣を彼の魔剣の腹に滑らせた。
力と力の衝突ではない。
僕はただ彼の力の流れを受け流し、そして僅かにその方向を変えただけ。
ガイウスの放った必殺の一撃は僕の体を掠めることなく、アリーナの硬い石畳を深々と抉った。
兄の攻撃が終わるたびに僕はその剣技の欠点を静かに指摘していく。
「その突きは速いが故に直線的すぎる」
「その薙ぎ払いは左足に体重が乗りすぎだ」
僕のその言葉は、兄のプライドをさらに深く傷つけた。
そして観客席の者たちは気づき始めていた。
この決闘がただの兄弟喧喧嘩ではないということに。
これは一方的な「指導」なのだ。
出来損ないの弟が天才の兄を一方的に教え諭しているのだ。
「……黙れ……黙れぇっ!」
ついにガイウスの理性が切れた。
彼は技も何もなくただやけくそにその魔剣を振り回す。
僕の待ち望んでいた隙だった。
彼が渾身の力で剣を振り下ろしたその瞬間、僕は彼の懐へと深く踏み込んだ。
そして僕の木剣に『振動剣』の力を一瞬だけ宿らせる。
その振動する木剣で彼の魔剣の平らな部分を軽く叩いた。
キィンという甲高い音。
超高速の振動が魔剣を伝い彼の腕を痺れさせる。
そして同時に僕のもう一方の手が彼の右手首を正確に打ち据えた。
カラン、という虚しい音を立てて、アークライト家に伝わる伝説の魔剣が地面に転がった。
兄ガイウスは武器を失い呆然と立ち尽くしている。
僕はそんな彼の喉元に、僕のただの木剣の切っ先を突きつけた。
「……そこまで!」
審判の声が響き渡る。
僕の完全な勝利だった。
アリーナは水を打ったように静まり返っていた。
誰もが目の前の光景を信じられずにいた。
僕は兄から木剣を離すと深く、そして敬意を込めて一礼した。
その僕の姿を玉座の上から見ていた老王アルフォンス三世が、ゆっくりと立ち上がった。
そしてその口元に深い満足の笑みを浮かべると、高らかに宣言した。
「——見事であった北の辺境伯! 貴様の『盾』の価値、しかと見届けた! アークライト侯爵との契約、このアルフォンス三世が王の名において承認する!」
その言葉と共に僕の運命は完全に決定した。
僕はもはや誰にも縛られることのない、ノーランドの真の支配者となったのだ。
父のその苦虫を噛み潰したような顔、そしてセバスの僅かに誇らしげな表情を目に焼き付けながら、僕はアリーナを後にした。
その僕を、一人の人物が待ち構えていた。
ソフィア・フォン・ヴァレリウスだった。
彼女は、もはや僕を探るような視線では見ていない。
その紫色の瞳には、純粋な畏怖とそして、知的な興奮が浮かんでいた。
「……アルクライト君。……いいえ、辺境伯閣下。素晴らしい、戦いでしたわ」
「ただの、兄弟喧嘩だよ」
「ご謙遜を。あれは戦いですらない。一方的な、ショーでしたわ。あなたは、アークライト流剣術の全てを知り尽くしている。まるで、あなたがその剣術を作り出したかのように。……わたくしの、あなたに対する仮説は、全て間違っておりました。あなたは幸運でも、異端児でもない。あなたは……」
彼女はそこで言葉を切った。
「あなたは、何なの?」
その純粋な問いに、僕は静かに微笑んだ。
「さあね。ただの、北の、田舎領主だよ」
僕は、それだけを言い残し彼女の横を通り過ぎた。
僕の王都での戦いは終わった。
父を屈服させ兄を超越した。
そして、王に僕の価値を認めさせた。
僕は望む全てを手に入れた。
後は僕の王国へと戻り、僕の本当の物語を始めるだけだ。
兄が初めて驚愕の表情を見せる。観客席がどよめいた。
ガイウスはその屈辱に顔を怒りで歪ませた。
「……面白い。少しは楽しめるようになったようだなルキウス!」
彼は本気になった。アークライト家に伝わる秘剣、その一つ『覇王斬』が僕へと放たれる。
凄まじい闘気をまとった魔剣の一閃。それは全てを断ち切る絶対的な破壊の一撃。
だが僕はその剣の弱点を知っていた。
「その技は振り下ろす直前、僅かに右肩が下がる」
僕はそのコンマ数秒の隙を見逃さない。
僕は彼の懐へと踏み込み、僕の木剣を彼の魔剣の腹に滑らせた。
力と力の衝突ではない。
僕はただ彼の力の流れを受け流し、そして僅かにその方向を変えただけ。
ガイウスの放った必殺の一撃は僕の体を掠めることなく、アリーナの硬い石畳を深々と抉った。
兄の攻撃が終わるたびに僕はその剣技の欠点を静かに指摘していく。
「その突きは速いが故に直線的すぎる」
「その薙ぎ払いは左足に体重が乗りすぎだ」
僕のその言葉は、兄のプライドをさらに深く傷つけた。
そして観客席の者たちは気づき始めていた。
この決闘がただの兄弟喧喧嘩ではないということに。
これは一方的な「指導」なのだ。
出来損ないの弟が天才の兄を一方的に教え諭しているのだ。
「……黙れ……黙れぇっ!」
ついにガイウスの理性が切れた。
彼は技も何もなくただやけくそにその魔剣を振り回す。
僕の待ち望んでいた隙だった。
彼が渾身の力で剣を振り下ろしたその瞬間、僕は彼の懐へと深く踏み込んだ。
そして僕の木剣に『振動剣』の力を一瞬だけ宿らせる。
その振動する木剣で彼の魔剣の平らな部分を軽く叩いた。
キィンという甲高い音。
超高速の振動が魔剣を伝い彼の腕を痺れさせる。
そして同時に僕のもう一方の手が彼の右手首を正確に打ち据えた。
カラン、という虚しい音を立てて、アークライト家に伝わる伝説の魔剣が地面に転がった。
兄ガイウスは武器を失い呆然と立ち尽くしている。
僕はそんな彼の喉元に、僕のただの木剣の切っ先を突きつけた。
「……そこまで!」
審判の声が響き渡る。
僕の完全な勝利だった。
アリーナは水を打ったように静まり返っていた。
誰もが目の前の光景を信じられずにいた。
僕は兄から木剣を離すと深く、そして敬意を込めて一礼した。
その僕の姿を玉座の上から見ていた老王アルフォンス三世が、ゆっくりと立ち上がった。
そしてその口元に深い満足の笑みを浮かべると、高らかに宣言した。
「——見事であった北の辺境伯! 貴様の『盾』の価値、しかと見届けた! アークライト侯爵との契約、このアルフォンス三世が王の名において承認する!」
その言葉と共に僕の運命は完全に決定した。
僕はもはや誰にも縛られることのない、ノーランドの真の支配者となったのだ。
父のその苦虫を噛み潰したような顔、そしてセバスの僅かに誇らしげな表情を目に焼き付けながら、僕はアリーナを後にした。
その僕を、一人の人物が待ち構えていた。
ソフィア・フォン・ヴァレリウスだった。
彼女は、もはや僕を探るような視線では見ていない。
その紫色の瞳には、純粋な畏怖とそして、知的な興奮が浮かんでいた。
「……アルクライト君。……いいえ、辺境伯閣下。素晴らしい、戦いでしたわ」
「ただの、兄弟喧嘩だよ」
「ご謙遜を。あれは戦いですらない。一方的な、ショーでしたわ。あなたは、アークライト流剣術の全てを知り尽くしている。まるで、あなたがその剣術を作り出したかのように。……わたくしの、あなたに対する仮説は、全て間違っておりました。あなたは幸運でも、異端児でもない。あなたは……」
彼女はそこで言葉を切った。
「あなたは、何なの?」
その純粋な問いに、僕は静かに微笑んだ。
「さあね。ただの、北の、田舎領主だよ」
僕は、それだけを言い残し彼女の横を通り過ぎた。
僕の王都での戦いは終わった。
父を屈服させ兄を超越した。
そして、王に僕の価値を認めさせた。
僕は望む全てを手に入れた。
後は僕の王国へと戻り、僕の本当の物語を始めるだけだ。
170
あなたにおすすめの小説
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。
絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。
辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。
一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」
これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!
《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。
無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。
やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる