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第百三十二話:北への凱旋
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僕と兄ガイウスとの決闘は、僕の完全な勝利で幕を閉じた。
その事実はアークライト家という絶対的と思われた力の序列を根底から覆し、そして僕という存在を王都の全ての貴族たちの脳裏に深く刻み付けた。
出来損ないの三男坊は死んだ。そして代わりに北の地から一人の「怪物」が現れたのだと。
王宮からの帰り道、父は僕に一言も口を利かなかった。
屋敷に戻ってからも彼は自らの書斎に閉じこもり、誰とも顔を合わせようとはしなかったという。彼が今何を考えているのか。
失墜した自らの権威か、それとも怪物へと変貌した息子への恐怖か、あるいはその両方か。
母イザベラは僕の元を訪れた。
その瞳にはもはや僕を駒として見る色はなく、対等なプレイヤーに対する警戒とそして利用価値を探る計算の色が浮かんでいた。
僕は彼女のその誘いを丁重に、しかしきっぱりと断った。
兄ガイウスはあの日以来自室から一歩も出てきていない。
天才としての彼のプライドは公衆の面前で木剣を持った弟に完膚なきまでに打ち砕かれたのだ。
彼の心の傷が癒えるには長い時間が必要だろう。
僕の王都での役割は終わった。僕は僕の王国へと帰る準備を始めた。
旅立ちの朝、荷物の準備を監督するセバスに僕は静かに告げた。
「セバス。君はここに残れ」
「……と申しますと?」
彼の完璧な執事の仮面が僅かに揺らぐ。
「父上は今荒れている。兄さんもそうだ。この荒れたアークライト家を立て直せるのは君しかいない。君の本当の忠誠は僕個人ではなく、この『家』そのものにあるのだろう?」
僕のその言葉にセバスは全てを理解したようだった。僕は彼を父の「目」として不要だと切り捨てたのではない。
この家の未来を託す最も信頼できる人間として王都に残すのだと。それは僕からの彼に対する最大限の信頼の証だった。
彼は深く深く頭を下げた。
「……御意に。ルキウス様。この命に代えましても本家をお守りいたします。そして……あなた様の北でのご武運を心よりお祈りしております」
僕は誰にも見送られることなく一人屋敷を後にした。
そして向かったのは王都の門ではない。
王都の外れにある寂れた狩人の小屋。
そこで僕を待っていたのは、忠実なる僕の最初の臣下——ニールだった。
彼の足元には僕が彼に研究させていたあの古代の叡智が、完成された姿で横たわっていた。
直径三メートルほどの円形の石の台座。
その表面には複雑なルーン文字がびっしりと刻み込まれている。『転移魔法陣』。
その動力源となる中心のルーンには、僕が精錬した『星屑鉄』のインゴットが埋め込まれ、静かな青白い光を放っていた。
「準備はできているか、ニール」
「はい、ルキウス様。ノーランドの館の地下にある、対となる魔法陣との接続は、完璧です」
僕は頷くと、躊躇うことなく、その魔法陣の中央へと足を踏み入れた。
ニールが最後の起動ルーンに、触れる。
次の瞬間、僕の体は眩い光の奔流に包まれた。
ほんの一瞬の浮遊感。
そして、僕が次に目を開けた時。
そこに王都の生暖かい空気はなかった。
僕の肌を撫でるのは懐かしいノーランドの冷たく、そして澄み切った風。
僕は館の地下にある、秘密の研究室に立っていた。
目の前では、リリアとボリンが信じられないという顔で僕を見つめている。
僕は彼らに、静かに微笑みかけた。
「——ただいま。……さて、始めようか。本当の建国を」
僕の王国は、今この瞬間、物理的な距離という概念を超越した。
その事実はアークライト家という絶対的と思われた力の序列を根底から覆し、そして僕という存在を王都の全ての貴族たちの脳裏に深く刻み付けた。
出来損ないの三男坊は死んだ。そして代わりに北の地から一人の「怪物」が現れたのだと。
王宮からの帰り道、父は僕に一言も口を利かなかった。
屋敷に戻ってからも彼は自らの書斎に閉じこもり、誰とも顔を合わせようとはしなかったという。彼が今何を考えているのか。
失墜した自らの権威か、それとも怪物へと変貌した息子への恐怖か、あるいはその両方か。
母イザベラは僕の元を訪れた。
その瞳にはもはや僕を駒として見る色はなく、対等なプレイヤーに対する警戒とそして利用価値を探る計算の色が浮かんでいた。
僕は彼女のその誘いを丁重に、しかしきっぱりと断った。
兄ガイウスはあの日以来自室から一歩も出てきていない。
天才としての彼のプライドは公衆の面前で木剣を持った弟に完膚なきまでに打ち砕かれたのだ。
彼の心の傷が癒えるには長い時間が必要だろう。
僕の王都での役割は終わった。僕は僕の王国へと帰る準備を始めた。
旅立ちの朝、荷物の準備を監督するセバスに僕は静かに告げた。
「セバス。君はここに残れ」
「……と申しますと?」
彼の完璧な執事の仮面が僅かに揺らぐ。
「父上は今荒れている。兄さんもそうだ。この荒れたアークライト家を立て直せるのは君しかいない。君の本当の忠誠は僕個人ではなく、この『家』そのものにあるのだろう?」
僕のその言葉にセバスは全てを理解したようだった。僕は彼を父の「目」として不要だと切り捨てたのではない。
この家の未来を託す最も信頼できる人間として王都に残すのだと。それは僕からの彼に対する最大限の信頼の証だった。
彼は深く深く頭を下げた。
「……御意に。ルキウス様。この命に代えましても本家をお守りいたします。そして……あなた様の北でのご武運を心よりお祈りしております」
僕は誰にも見送られることなく一人屋敷を後にした。
そして向かったのは王都の門ではない。
王都の外れにある寂れた狩人の小屋。
そこで僕を待っていたのは、忠実なる僕の最初の臣下——ニールだった。
彼の足元には僕が彼に研究させていたあの古代の叡智が、完成された姿で横たわっていた。
直径三メートルほどの円形の石の台座。
その表面には複雑なルーン文字がびっしりと刻み込まれている。『転移魔法陣』。
その動力源となる中心のルーンには、僕が精錬した『星屑鉄』のインゴットが埋め込まれ、静かな青白い光を放っていた。
「準備はできているか、ニール」
「はい、ルキウス様。ノーランドの館の地下にある、対となる魔法陣との接続は、完璧です」
僕は頷くと、躊躇うことなく、その魔法陣の中央へと足を踏み入れた。
ニールが最後の起動ルーンに、触れる。
次の瞬間、僕の体は眩い光の奔流に包まれた。
ほんの一瞬の浮遊感。
そして、僕が次に目を開けた時。
そこに王都の生暖かい空気はなかった。
僕の肌を撫でるのは懐かしいノーランドの冷たく、そして澄み切った風。
僕は館の地下にある、秘密の研究室に立っていた。
目の前では、リリアとボリンが信じられないという顔で僕を見つめている。
僕は彼らに、静かに微笑みかけた。
「——ただいま。……さて、始めようか。本当の建国を」
僕の王国は、今この瞬間、物理的な距離という概念を超越した。
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