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美人な理髪師さん
しおりを挟む遠くでカラスの鳴く声が聞こえる。朱く染まったアスファルトの上を長い影と一緒に進んでいく。
目にかかる髪の毛を手で頻りに払いながら歩いていくと目的地が見え始めた。トリコロールがグルグルと回っているからまだ営業中のようだ。ドアの取っ手に手をかけるとガラス越しに中が見えた。
眼鏡をかけた清楚系美人が足を組んで雑誌を読んでいた。
思わずドアから手を離し後退ってから店名を見上げる。『島田理髪店』場所を間違えた訳じゃないようだ。再び店内を覗いても、変わらず雑誌を読んでいる美人がいる。
落ちる髪をときどき耳に掻き上げペラペラと雑誌をめくっている。ボーッとその姿に見蕩れていると彼女が顔を上げて目が合った。
ガラス越しにメガネの奥のきれいな目が僕を見ている。彼女は雑誌を横に置いてこちらに歩いてくる。歩くたびにニットに包まれた巨乳が僅かに揺れているのが分かった。
カランカラン
「こんにちは、お客さん?」
彼女がドアを開けて少し前屈みになって聞いてくる。目の前の巨乳に目が行ってしまうが何とか振り切って彼女の顔を見る。美しい顔が僕を少し見下ろしている。
「はっはい、こんにちは。まだやってますか?」
緊張して声が少し震えてしまった。
「ええ閉めるまで30分はあるから全然大丈夫ですよ。」
ドアが更に開かれて僕を誘う。僕は何も考えることができずに店内に入った。
中は以前来たときと変わらず、古臭い床屋そのままだ。後ろでドアを閉める音が聞こえたと思ったら肩に手を置かれた。予想してない接触に体を震わせてしまう。
「こちらにどうぞ。」
彼女は僕の両肩を押して椅子まで誘導する。後頭部と肩にときどき柔らかい感触があるのは気のせいだろうか。
椅子の横までくると肩に置かれた手が離れた。僕は遠慮がちに座って少し縮こまる。チラチラと後ろを気にしていると急に頭を触られた。
「今日はカットですか?」
彼女は僕の髪を両手で弄りながら問いかけてくる。急な感触に声を上げそうになったが何とか耐えた。
「…はい。カットをお願いします。」
伏せ目がちになって何とか返答した。
「かしこまりました。どんな感じにしますか?」
髪を掻き上げるときに彼女の手が僕のうなじや首をかすめてくすぐったい。彼女の手が触れるたびに気持ちよさと気恥ずかしさが段々と増えていく。
「あっ……えっと、その…」
答えを用意していなくてテンパって吃ってしまう。
「あっ少々お待ちくださいね。」
彼女は僕の髪から手を離して前に回ってくる。そのまま中腰になって足元にある本棚を漁りだす。腰を曲げることでジーンズに包まれた大きな尻が強調されてしまっている。
手が届く位置にパツパツにジーンズが張った尻。失礼かも知れないが目を離せない。しかしすぐに彼女は上体を起こし振り返ってくる。
ペラペラとヘアカタログをめくって僕の前に差し出してくる。
「この中からいいなって思う髪型を探してみてください。」
雑誌を手渡すと彼女は再び後ろに回って僕の髪を弄りはじめる。僕はカタログに目を通すが頭と後ろが気になって集中できない。前を向くと僕の髪を弄っている彼女が鏡越しに見える。
「お姉さん、はどれがいいと思いますか?」
決められないので思い切って聞いてみた。彼女は僕の頭から目を離すと「んー」と声を漏らしてから横にずれてカタログを覗き込んでくる。
彼女は左手で僕の頭を触りながら右手でカタログをペラペラとめくっていく。すぐ横に見える彼女の顔。カタログを見ているのをいいことに間近から見つめる。すごくきれいだ、と思っていると彼女と目が合う。至近距離で目が合って固まってしまうが彼女はまたカタログに目を移す。
「私はこれが好きかな。」
とんとん 指された写真を見てからまた彼女の横顔を見る。彼女もこちらを見ていてまた目が合った。
「…じゃあこれで、お願いします。」
「かしこまりました。」
カタログを彼女に手渡し、また尻を凝視した。
彼女は前の引き出しからカットクロスを取り出してバサッと広げる。
「失礼します。」
広げられたクロスを見ていると彼女の胸が顔に迫ってきた。彼女は腕を僕の首の後ろに回してクロスで体を包んでいく。
硬直しているとそのまま柔らかい感触を顔で感じた。うなじのあたりでクロスを留めるために顔を巨乳に埋める形になったようだ。突然の幸せに戸惑っているとすぐ彼女は離れていった。まだ顔に柔らかい感触が残っている。
「じゃあはじめますね。」
「……はい。お願いします。」
体を包むクロスで気付かれていないようだが、僕の陰茎は半ばまで勃起していた。
霧吹きを頭にかけられて髪が湿っていくのを感じる。クシャクシャと指で髪を解されていく。頭を撫でられているようで心地いい。
「学生さん?」
「あっはい。高二です。」
「そうなの。明日の学校憂鬱ね。」
「そうなんですよね。…ははは。」
せっかく話しかけてくれているのに上手く返せない。こんなきれいな人と話す機会なんて滅多にないのに。
「あの……いつものお爺さんとお婆さんはどうしたんですか?」
話題が見つからなかったので気になったことを聞いてみた。老夫婦が営んでいたはずの床屋に若い美人がいて衝撃を受けたのだ。
「ああ、老人会の旅行に行ってて今日だけ孫の私が店番してるんです。」
「あっ、お孫さんなんですね。」
「はい。今はちょうど帰省中で帰ってきてて、明日学校のある方に戻るんです。」
「あっ、そうなんですね。」
どうやら明日ここを発つらしい。こんな美人がいるならここから先もずっと通おうかと思ったがそう上手くはいかないらしい。
会話をしながら髪を解されている内にリラックスしていって緊張も解けていく。体の一部の強張りも落ち着いていた。
その後も当たり障りのない会話を続けている内に髪はしっとりと濡れて、鏡に映る彼女は霧吹きからハサミに持ち替えていた。
「じゃあ切っていきますね。」
「はい。」
彼女は櫛を使いながらハサミで僕の髪を切っていく。 サクサク とハサミが立てる音が心地よくて目を閉じてしまう。
ハサミの音が店内に響き、切られた髪がパラパラとクロスと床に落ちていく。薄目で鏡を見ると彼女の真剣な表情が見えた。そのまま鏡の中の彼女を見つめてしまう。
ハサミを止めて髪のバランスを見るために彼女も鏡を見る。自分が見られていることに気付いた彼女が微笑んできて、余計見蕩れてしまう。
ときどき移動して僕の正面から髪を切るので、至近距離に顔や胸がくる。いい匂いがして緊張するのに空気感は落ち着く。
その後も髪を切る音が続いていく。
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