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催眠してみる
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催眠してみる
「催眠アプリ?」
インストールした覚えはない。ウイルスに感染してスマホが遠隔操作されたのだろうか。それで詐欺アプリが入れられたとか、と急に焦ってきた。
とりあえず危険そうだったからアプリを削除しようとするがアンインストールしてもアプリが消えない。どういうことだ。
ネットで調べてみても情報は得られなかった。詐欺アプリなら被害者とかがいるかと思ったがそうじゃないのだろうか。再びアプリを起動する。最初に見た画面と同じ渦のような模様の上に催眠アプリの文字。渦を見ていると吸い込まれそうな不気味さがある。
「催眠……か。本物だったら夢が広がるけど」
隠れて見ている18禁の漫画などでは定番のシチュエーションだ。意識が朦朧とした相手に好き放題するやつだ。ときどきエグいものもあるが割とお世話になるジャンルだった。
「だいたいこういうのだと画面を見せると催眠状態になるよな……」
試すだけならタダという考えの下、俺は起き上がり自室を出た。向かうは母がいるであろうリビングである。
「母さん」
「んー?」
ソファに寝転がりバラエティ番組を見ている母は振り返りもせずに返事をする。
「……明日、の晩ご飯なに?」
「え明日の夜?気が早いわね。……まあでもたぶんカレーかな」
「カレー確定?」
「豚肉残ってるのよ」
「そっか……ところでちょっとこれ見てくれない?」
「んー?…………」
「……………………」
「……………………」
「母さん?」
「なに?」
振り向いた母と普通に会話しているが母の目が虚ろに見える。俺は自分の鼓動が早くなるのを感じた。スマホの画面を母に向けたまま会話を続ける。
「母さん、明日のカレーは牛肉にしてくれる?」
「分かったわ」
抑揚のない声で答える母を見て俺は興奮と恐怖を感じていた。このアプリは本物かもしれない。
「やっぱり牛肉はいいや。今ある豚肉を使って。」
「分かったわ」
「……あと催眠中のことは忘れてね」
「分かったわ」
どこまで効くか分からないが保険を掛けておいて損にはならないだろう。一旦検証を終えようとスマホ画面を見ると催眠中:高屋晶子と表示されていた。母を見るとまだ目は虚ろで無表情だった。スマホ画面を常に見せておく必要はなさそうだ。
「えーと……じゃあ、催眠解除」
「…………ん?あら、涼何か言った?」
「いや晩ご飯が気になっただけだよ」
「そう。あら、肝心なところ見逃しちゃったじゃない」
「えっ、ああごめん」
直前の記憶は普通に残っているようだ。なら催眠中の記憶はどうだろうか。
「ねえ母さん」
「ん?」
「明日のカレー、牛肉になったりしない?」
「なに贅沢言ってんのよ。いつも豚でしょ?ていうか明日までの豚肉あるって言ったでしょうが」
「そっか、ならいいや。カレー楽しみにしとくね」
「はいはい」
会話を切り上げて自室に急ぎ足で戻る。俺は高揚していた。
自室のカギを掛け、ベッドに座ると段々と落ち着いてきた。思考が正常になると自分の軽率さに驚く。催眠が効いてたとして、もし解除できなかったら母はあのままだったかもしれない。というか記憶に干渉できないなら俺はもう終わってた。危ない橋を渡った自覚が芽生えて頭を抱える。
「まぁ……結果オーライか」
自分に似つかわしくない大胆な行動により催眠アプリの性能を知ることができた。これはもうやりたい放題できるのではと心が躍ったが、少し考えるとまだまだ不確定要素が多いことに気付く。
「……試せることは試してからにしよう」
自室を出て両親の寝室に向かう。ドアをノックすると低い声で「うん」と返事があった。
「父さん」
「涼か。どうした?」
「ちょっと見て欲しいものがあって……」
父は読んでいた文庫本に栞を挟むとサイドテーブルに置いた。俺は緊張しながら父に近付き催眠アプリを開いた画面を父に見せた。
父の元から無表情な顔は完全に無になり、目の光も消えたように見える。画面を見ると催眠:高屋優と表示されていた。顔の前で手を振っても父は反応せずに定期的に瞬きをするだけだ。俺はメモ書きを父さんに見せた。
「この通りに行動してね」
「分かった」
「じゃあ俺がこの部屋に来たところから催眠中のことは忘れてね。それから俺が部屋を出てドアを閉めたらその瞬間から催眠解除ね」
「分かった」
俺はメモ書きをクシャっと丸めてポケットに突っ込み部屋を出た。スマホを見ると催眠中の表示が消えていた。
「結果は明日の朝だな」
俺は催眠アプリを落とし自室に戻った。
翌朝、俺はアラームで起きるとカーテンを開ける前にドアに近付いた。眠い目を擦りながら床を見ると100円玉が落ちていた。もちろん俺の100円玉じゃない。
「けっこう融通が利くみたいだ」
100円玉を拾ってポケットに入れてからカーテンを開けてダイニングに向かった。
「廊下に100円落ちてたけどどっちかのじゃない?」
「100円?お父さん?」
「いや、分からん」
「分かんないから、100円くらいもらっときなさい」
「本当?やった」
父母ともに心当たりがないようで俺がもらっていいことになった。まあ昨日の夜に俺が父さんに命令したから元は父さんの100円なんだけど。
言葉ではなく文字での命令、時間差での命令、催眠を一度解除した後の命令、これらが可能ということが分かった。けっこう汎用性が高い。これならちゃんと考えればすごく有意義に使える。今日は土曜日だ。今日と明日で計画を立てて週明けに実行だ。
朝ご飯を前にした俺の脳裏には彼女が浮かんでいた。
「催眠アプリ?」
インストールした覚えはない。ウイルスに感染してスマホが遠隔操作されたのだろうか。それで詐欺アプリが入れられたとか、と急に焦ってきた。
とりあえず危険そうだったからアプリを削除しようとするがアンインストールしてもアプリが消えない。どういうことだ。
ネットで調べてみても情報は得られなかった。詐欺アプリなら被害者とかがいるかと思ったがそうじゃないのだろうか。再びアプリを起動する。最初に見た画面と同じ渦のような模様の上に催眠アプリの文字。渦を見ていると吸い込まれそうな不気味さがある。
「催眠……か。本物だったら夢が広がるけど」
隠れて見ている18禁の漫画などでは定番のシチュエーションだ。意識が朦朧とした相手に好き放題するやつだ。ときどきエグいものもあるが割とお世話になるジャンルだった。
「だいたいこういうのだと画面を見せると催眠状態になるよな……」
試すだけならタダという考えの下、俺は起き上がり自室を出た。向かうは母がいるであろうリビングである。
「母さん」
「んー?」
ソファに寝転がりバラエティ番組を見ている母は振り返りもせずに返事をする。
「……明日、の晩ご飯なに?」
「え明日の夜?気が早いわね。……まあでもたぶんカレーかな」
「カレー確定?」
「豚肉残ってるのよ」
「そっか……ところでちょっとこれ見てくれない?」
「んー?…………」
「……………………」
「……………………」
「母さん?」
「なに?」
振り向いた母と普通に会話しているが母の目が虚ろに見える。俺は自分の鼓動が早くなるのを感じた。スマホの画面を母に向けたまま会話を続ける。
「母さん、明日のカレーは牛肉にしてくれる?」
「分かったわ」
抑揚のない声で答える母を見て俺は興奮と恐怖を感じていた。このアプリは本物かもしれない。
「やっぱり牛肉はいいや。今ある豚肉を使って。」
「分かったわ」
「……あと催眠中のことは忘れてね」
「分かったわ」
どこまで効くか分からないが保険を掛けておいて損にはならないだろう。一旦検証を終えようとスマホ画面を見ると催眠中:高屋晶子と表示されていた。母を見るとまだ目は虚ろで無表情だった。スマホ画面を常に見せておく必要はなさそうだ。
「えーと……じゃあ、催眠解除」
「…………ん?あら、涼何か言った?」
「いや晩ご飯が気になっただけだよ」
「そう。あら、肝心なところ見逃しちゃったじゃない」
「えっ、ああごめん」
直前の記憶は普通に残っているようだ。なら催眠中の記憶はどうだろうか。
「ねえ母さん」
「ん?」
「明日のカレー、牛肉になったりしない?」
「なに贅沢言ってんのよ。いつも豚でしょ?ていうか明日までの豚肉あるって言ったでしょうが」
「そっか、ならいいや。カレー楽しみにしとくね」
「はいはい」
会話を切り上げて自室に急ぎ足で戻る。俺は高揚していた。
自室のカギを掛け、ベッドに座ると段々と落ち着いてきた。思考が正常になると自分の軽率さに驚く。催眠が効いてたとして、もし解除できなかったら母はあのままだったかもしれない。というか記憶に干渉できないなら俺はもう終わってた。危ない橋を渡った自覚が芽生えて頭を抱える。
「まぁ……結果オーライか」
自分に似つかわしくない大胆な行動により催眠アプリの性能を知ることができた。これはもうやりたい放題できるのではと心が躍ったが、少し考えるとまだまだ不確定要素が多いことに気付く。
「……試せることは試してからにしよう」
自室を出て両親の寝室に向かう。ドアをノックすると低い声で「うん」と返事があった。
「父さん」
「涼か。どうした?」
「ちょっと見て欲しいものがあって……」
父は読んでいた文庫本に栞を挟むとサイドテーブルに置いた。俺は緊張しながら父に近付き催眠アプリを開いた画面を父に見せた。
父の元から無表情な顔は完全に無になり、目の光も消えたように見える。画面を見ると催眠:高屋優と表示されていた。顔の前で手を振っても父は反応せずに定期的に瞬きをするだけだ。俺はメモ書きを父さんに見せた。
「この通りに行動してね」
「分かった」
「じゃあ俺がこの部屋に来たところから催眠中のことは忘れてね。それから俺が部屋を出てドアを閉めたらその瞬間から催眠解除ね」
「分かった」
俺はメモ書きをクシャっと丸めてポケットに突っ込み部屋を出た。スマホを見ると催眠中の表示が消えていた。
「結果は明日の朝だな」
俺は催眠アプリを落とし自室に戻った。
翌朝、俺はアラームで起きるとカーテンを開ける前にドアに近付いた。眠い目を擦りながら床を見ると100円玉が落ちていた。もちろん俺の100円玉じゃない。
「けっこう融通が利くみたいだ」
100円玉を拾ってポケットに入れてからカーテンを開けてダイニングに向かった。
「廊下に100円落ちてたけどどっちかのじゃない?」
「100円?お父さん?」
「いや、分からん」
「分かんないから、100円くらいもらっときなさい」
「本当?やった」
父母ともに心当たりがないようで俺がもらっていいことになった。まあ昨日の夜に俺が父さんに命令したから元は父さんの100円なんだけど。
言葉ではなく文字での命令、時間差での命令、催眠を一度解除した後の命令、これらが可能ということが分かった。けっこう汎用性が高い。これならちゃんと考えればすごく有意義に使える。今日は土曜日だ。今日と明日で計画を立てて週明けに実行だ。
朝ご飯を前にした俺の脳裏には彼女が浮かんでいた。
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