ビビリが催眠アプリを手に入れた

クレイン

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催眠の検証

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催眠の検証

 現状で催眠アプリについて分かったことをまとめよう。まずアプリ画面を見た相手は催眠状態になり、命令をきくようになる。命令は口頭でも文字で伝えてもどちらも有効。催眠中の記憶は忘れさせることが可能。常時画面を見せておく必要はない。時間を指定して命令を出し一旦催眠を解除しても時間になれば命令を実行する。

 ノートの端に情報を書きながら整理する。さっきは勢いで憧れの彼女に催眠したい欲が出たが、下手に使うと取り返しのつかないことになりかねない。まだまだ検証が必要だ。
 今日は休日ということで父は朝ご飯を食べた後、日課である洗車をしている。母は洗い物を片付けてから洗濯機を回して今はテレビを見ながら休憩していた。母には悪いが実験に付き合ってもらおう。
「母さん」
「ん?」
 振り向いた母にスマホ画面を見せて催眠状態にする。頬杖を突いたまま目の光がなくなり動かなくなった。スマホを下ろして母から画面を見えなくしてそのまま放置する。テレビの音だけが響く中時間が過ぎていき、ちょうど10分経ったところで母の目に光が戻った。
「……あら?涼今呼ばなかった?」
「えっいや?テレビじゃない?」
 母は何か違和感を覚えているようだがそのままテレビを見始めた。
 どうやら催眠の時間制限は10分のようだ。

 昨夜父に催眠をかけて「明日の起床後に100円玉を高屋涼の部屋のドア前に落とす」と書いたメモを見せて命令に従うように言った。結果その通りになったが制限時間10分ならそれはおかしい。考えられるとすれば10分は制限時間ではなく命令を出すまでの猶予時間だろう。
 いや、父に催眠をかけてメモで命令を出し催眠解除するまでの時間と翌朝財布から100円玉を取り出してドア前に落とすまでの合計時間が10分以下だったから実行できた可能性もある。

「母さん」
「ん?」
 再度母に催眠状態になってもらいそのまま時間が過ぎるのを待つ。ぎりぎり10分経たないくらいで命令を出す。
「コップ2つとカフェオレ持ってきてくれる?」
「分かったわ」
 言い終わったくらいで催眠開始から10分が経過した。母は返事をしてから台所に行き言われた通りコップ2つとカフェオレを持ってきた。テーブルに置くとさっきと同じ場所に母は座った。まだ目は光を失ったままで催眠状態が続いているみたいだ。
「催眠解除」
 母は目に光を戻しそのまま何事もなかったようにテレビを眺めている。
「あら、さっきの試合結局どうなってたっけ?」
「日本が2-1で勝ってたよ」
「本当?見逃してたかしら」
 催眠中も母はテレビを向いていたが記憶は残っていないようだ。
「母さんもカフェオレ飲む?」
「あ、じゃあもらうわ」
 母が持ってきてくれたカフェオレをコップに注ぎ一緒に飲んだ。喉を潤しながら頭を整理する。催眠開始から10分以上経過しても命令されていれば催眠状態は続く。命令を実行した後でも催眠状態は継続される。おそらく命令に従った後に命令を出されずに10分経ったら自動的に催眠が解けるのだろう。

「母さん」
「んー?」
 三度催眠状態になった母に申し訳ないという思いはある。だがよりよい計画をするためには検証と情報が必要だから仕方ない。
「洗濯が終わったら一枚ずつ裏返してまた戻してから籠に入れて」
「分かったわ」
 命令を出してから10分経つとまた母さんはテレビを見始めた。スポーツニュースが終わり芸能ニュースが始まったところで洗濯機から音が鳴った。音を聞いた母は立ち上がり洗面所の方へ向かった。
 母が洗面所へ向かってから10分経ってから後を追いかけて様子を窺うと、洗濯物をわざわざ一枚一枚裏返してから籠に入れていた。10分以上かかる命令を出してもそのまま従うようだ。これは予想通り。
「母さん」
「ん?」
 声を掛けても母は洗濯物を洗濯機から取り出し裏返してから籠に入れ続ける。
「なん一枚ずつ洗濯物出してるの?」
「え?何か変かしら?」
 普通に会話が成立している。目も虚ろじゃないしいつもの母だ。命令に従っている間でも普通に対応するようだ。
「母さん、今日の夜ご飯しょうが焼きにしてよ」
「昨日も言ったでしょ。今日はカレーよ。しょうが焼きは明日にしましょう?」
「分かった、ありがとう」
 時間差での命令に従っている間に何か言っても命令と捉えられずに普通の会話として対応される。ということは今の母は催眠状態ではないようだ。それに変な命令に対して違和感を覚えない。少し複雑になってきた。
 コップとカフェオレを持ってきてくれた後は催眠状態が継続していた。今の母が催眠状態ではないのは命令を実行しない空白の10分間で催眠が解けたからだろう。でも命令自体は覚えていてその通りに行動する、と。 けっこう仕様が分かってきた。これくらい情報があればとりあえずはいいだろう。
「母さん、たまには俺が洗濯物干すよ」
「え、そう?じゃあお願いしようかしら。でも今日はカレーよ」
「別にめちゃくちゃしょうが焼き食べたいわけじゃないよ」
「そう?ふふふ」
 命令を中断することも可能。催眠中じゃないから俺だからというわけでもないだろう。洗濯物を塊のまま取り出して籠に入れて物干し場へ向かった。

 洗濯物を干しながらどうすれば安全に催眠を使えるか考える。まぁ焦らずやっていこう。
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