4 / 5
催眠の検証2
しおりを挟む
催眠の検証2
土曜日の午後になり父はコーヒーを飲みながら読書をしていた。母は買い物らしく家にはいない。
俺は父にも催眠をかけてそのまま放置し、10分で催眠状態が解けることを確認した。10分は個人差ではなく一律で決まっている猶予時間のようだ。
夜になり豚肉を使ったカレーを夕飯に食べて眠りについた。
日曜日の朝を迎えて朝ご飯を食べた後、俺は家を出て駅に向かった。休日ということもありそこそこ人が多い。
両親に催眠が効いたのは元々俺に対する警戒心が低いから、という可能性を潰すため他人に催眠アプリを試そうと考えていた。だが俺は催眠アプリがおそらく他人にも有効だと考えていた。両親の2人に試しただけだが、画面を見せたら催眠にかかり放置後10分で催眠が解ける。催眠状態になるかならないかに個人差があるなら催眠が解けるまでの時間にも差があるはずだと思う。2人どちらにも特に差は無かったということは誰にでも効くということだろう。
そう思ってはいてもやはり緊張する。誰と待ち合わせしている訳でもないのに柱に背中を合わせてスマホを見る。通り過ぎる人たちを横目に見ながらちょうど実験に良さそうな相手がいないか探す。1人行動で、この後予定が空いてそうで、いざとなったら逃げ切れそうな相手。
しばらく目だけ動かして周りの人を観察していると1人の女性が目に入った。全然知らない人だ。壁に背中を向けてスマホを弄っている。気が強そうでなんなら顔は不機嫌そうに見える。下を見ると靴は少し高めのピンヒール。よく立っていられるなという印象で歩きにくそうだ。すごくちょうど良い。
呼吸を整えてから目当ての人に向かって一直線に歩いていく。目の前で立ち止まると不思議に思ったのか彼女は顔を上げてこちらを見た。その視線の先には催眠アプリを開いた俺のスマホがあった。
彼女の目からは光が消えてスマホを持っている手もダランと下ろされて直立不動になる。俺はスマホをしまってから彼女の横に並んだ。
「そのまま質問に答えて。今は誰か待ってるの?」
「はい。友達を待ってます」
「あとどれくらいで着く?」
「あと15分くらいらしいです」
15分か。モタモタしてたらすぐだけど実験には十分な時間だ。
「このカードに1000円チャージしてきてください」
「はい」
俺はポケットからICカードと千円札を取り出し彼女に渡した。
「チャージしたらここに戻ってきてカードを返して」
「はい」
彼女は俺の言葉を聞き終えると少し列になっているチャージ機に並んだ。そのまま滞りなく命令を終えると帰ってきた。差し出されたカードを受け取りポケットにしまう。
まだ彼女は催眠状態のままだ。
「さやー!」
少し考えごとをしていると彼女の待ち合わせ相手がやってきたようだ。まだ10分も経っていないはずなのに。少し焦るが距離を取って我関せずと横目で様子を窺う。
高身長な女性で申し訳なさそうな表情で謝っている。
「お待たせ。ごめん遅れちゃって」
「遅いよもう。でも思ったより早かったね」
「うん。少し急いできた」
催眠状態のはずだが普通に会話をしている。催眠状態ではなくなったのか。分からない。
「今度から気を付けてよ」
「ごめんごめん。じゃあ行こうか」
「うん」
2人は並んで歩き出し駅構内から出て行った。俺も後を追う。
少し歩いたところにあった雑貨屋に入っていった2人を追って店に入る。彼女たちは2人で品物を眺めている。俺も雑貨を眺める振りをして遠くから様子を窺う。
少しの間その状態が続いたが高身長女性の方がトイレに行ったようなので催眠をかけた女性の方に近付いていく。
「すみません、そこの商品取ってもいいですか」
「あ、はい。すみません」
「すみません。ありがとうございます。」
商品棚の前にいた彼女に後ろから声をかけてどいてもらう。欲しくもない商品を手に取ってからその場を離れると棚の角を曲がるときに彼女をチラ見する。またさっきと同じように棚の商品を見ていた。今彼女は催眠状態ではなかった。ICカードにチャージしてもらってから10分以上は経っている。その間に催眠が解けたのだろう。だが彼女が催眠状態のときに待ち合わせ相手が来た。それに普通に対応していた。「行こうか」という相手の言葉にも命令に従う感じではなく自然に振る舞っていた。
彼女の待ち合わせ相手が現れてそのまま10分が経過して催眠が解けたのだろう。いやまだ確実じゃない。催眠が解けたきっかけが不明確だ。命令を終えてから10分経ったから解けたのか、待ち合わせ相手に話しかけられたのがきっかけで解けたのか。
「すみません」
「はい?」
スマホ画面を見せて彼女を再び催眠状態にした。
「ここに一緒に来た人って友達ですか?」
「はい」
「じゃあその友達が帰ってきたら両手を上げて伸びをしてくでさい」
「はい」
言い終わると俺はその場から離れて棚越しに様子を窺う。5分も経たない内に高身長女性が戻ってきた。
「お待たせ」
「うん」
彼女はグッと両手を上に伸ばしてから手を下ろした。
「どうした肩凝った?」
「いや、なんかなんとなく」
「なにそれ」
2人が歩いていく後ろ姿を見送り、俺は手に取った雑貨を棚に戻した。
俺以外の第三者の対応をしていても命令は実行する。それに見た限りでは話しかけられた瞬間に催眠が解けたように思える。これならより安全に催眠を使える気がした。
検証が終わり家に帰ると母が洗濯をしていた。
「ただいま」
「おかえりー。今日はしょうが焼きよ」
「分かった」
母は洗濯物を塊のまま取り出して籠に入れていた。一度命令したことは継続されないようだ。籠を持っていく母を見送ってから手を洗った。
土曜日の午後になり父はコーヒーを飲みながら読書をしていた。母は買い物らしく家にはいない。
俺は父にも催眠をかけてそのまま放置し、10分で催眠状態が解けることを確認した。10分は個人差ではなく一律で決まっている猶予時間のようだ。
夜になり豚肉を使ったカレーを夕飯に食べて眠りについた。
日曜日の朝を迎えて朝ご飯を食べた後、俺は家を出て駅に向かった。休日ということもありそこそこ人が多い。
両親に催眠が効いたのは元々俺に対する警戒心が低いから、という可能性を潰すため他人に催眠アプリを試そうと考えていた。だが俺は催眠アプリがおそらく他人にも有効だと考えていた。両親の2人に試しただけだが、画面を見せたら催眠にかかり放置後10分で催眠が解ける。催眠状態になるかならないかに個人差があるなら催眠が解けるまでの時間にも差があるはずだと思う。2人どちらにも特に差は無かったということは誰にでも効くということだろう。
そう思ってはいてもやはり緊張する。誰と待ち合わせしている訳でもないのに柱に背中を合わせてスマホを見る。通り過ぎる人たちを横目に見ながらちょうど実験に良さそうな相手がいないか探す。1人行動で、この後予定が空いてそうで、いざとなったら逃げ切れそうな相手。
しばらく目だけ動かして周りの人を観察していると1人の女性が目に入った。全然知らない人だ。壁に背中を向けてスマホを弄っている。気が強そうでなんなら顔は不機嫌そうに見える。下を見ると靴は少し高めのピンヒール。よく立っていられるなという印象で歩きにくそうだ。すごくちょうど良い。
呼吸を整えてから目当ての人に向かって一直線に歩いていく。目の前で立ち止まると不思議に思ったのか彼女は顔を上げてこちらを見た。その視線の先には催眠アプリを開いた俺のスマホがあった。
彼女の目からは光が消えてスマホを持っている手もダランと下ろされて直立不動になる。俺はスマホをしまってから彼女の横に並んだ。
「そのまま質問に答えて。今は誰か待ってるの?」
「はい。友達を待ってます」
「あとどれくらいで着く?」
「あと15分くらいらしいです」
15分か。モタモタしてたらすぐだけど実験には十分な時間だ。
「このカードに1000円チャージしてきてください」
「はい」
俺はポケットからICカードと千円札を取り出し彼女に渡した。
「チャージしたらここに戻ってきてカードを返して」
「はい」
彼女は俺の言葉を聞き終えると少し列になっているチャージ機に並んだ。そのまま滞りなく命令を終えると帰ってきた。差し出されたカードを受け取りポケットにしまう。
まだ彼女は催眠状態のままだ。
「さやー!」
少し考えごとをしていると彼女の待ち合わせ相手がやってきたようだ。まだ10分も経っていないはずなのに。少し焦るが距離を取って我関せずと横目で様子を窺う。
高身長な女性で申し訳なさそうな表情で謝っている。
「お待たせ。ごめん遅れちゃって」
「遅いよもう。でも思ったより早かったね」
「うん。少し急いできた」
催眠状態のはずだが普通に会話をしている。催眠状態ではなくなったのか。分からない。
「今度から気を付けてよ」
「ごめんごめん。じゃあ行こうか」
「うん」
2人は並んで歩き出し駅構内から出て行った。俺も後を追う。
少し歩いたところにあった雑貨屋に入っていった2人を追って店に入る。彼女たちは2人で品物を眺めている。俺も雑貨を眺める振りをして遠くから様子を窺う。
少しの間その状態が続いたが高身長女性の方がトイレに行ったようなので催眠をかけた女性の方に近付いていく。
「すみません、そこの商品取ってもいいですか」
「あ、はい。すみません」
「すみません。ありがとうございます。」
商品棚の前にいた彼女に後ろから声をかけてどいてもらう。欲しくもない商品を手に取ってからその場を離れると棚の角を曲がるときに彼女をチラ見する。またさっきと同じように棚の商品を見ていた。今彼女は催眠状態ではなかった。ICカードにチャージしてもらってから10分以上は経っている。その間に催眠が解けたのだろう。だが彼女が催眠状態のときに待ち合わせ相手が来た。それに普通に対応していた。「行こうか」という相手の言葉にも命令に従う感じではなく自然に振る舞っていた。
彼女の待ち合わせ相手が現れてそのまま10分が経過して催眠が解けたのだろう。いやまだ確実じゃない。催眠が解けたきっかけが不明確だ。命令を終えてから10分経ったから解けたのか、待ち合わせ相手に話しかけられたのがきっかけで解けたのか。
「すみません」
「はい?」
スマホ画面を見せて彼女を再び催眠状態にした。
「ここに一緒に来た人って友達ですか?」
「はい」
「じゃあその友達が帰ってきたら両手を上げて伸びをしてくでさい」
「はい」
言い終わると俺はその場から離れて棚越しに様子を窺う。5分も経たない内に高身長女性が戻ってきた。
「お待たせ」
「うん」
彼女はグッと両手を上に伸ばしてから手を下ろした。
「どうした肩凝った?」
「いや、なんかなんとなく」
「なにそれ」
2人が歩いていく後ろ姿を見送り、俺は手に取った雑貨を棚に戻した。
俺以外の第三者の対応をしていても命令は実行する。それに見た限りでは話しかけられた瞬間に催眠が解けたように思える。これならより安全に催眠を使える気がした。
検証が終わり家に帰ると母が洗濯をしていた。
「ただいま」
「おかえりー。今日はしょうが焼きよ」
「分かった」
母は洗濯物を塊のまま取り出して籠に入れていた。一度命令したことは継続されないようだ。籠を持っていく母を見送ってから手を洗った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる