ビビリが催眠アプリを手に入れた

クレイン

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催眠の検証2

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催眠の検証2

 土曜日の午後になり父はコーヒーを飲みながら読書をしていた。母は買い物らしく家にはいない。
 俺は父にも催眠をかけてそのまま放置し、10分で催眠状態が解けることを確認した。10分は個人差ではなく一律で決まっている猶予時間のようだ。

 夜になり豚肉を使ったカレーを夕飯に食べて眠りについた。
 日曜日の朝を迎えて朝ご飯を食べた後、俺は家を出て駅に向かった。休日ということもありそこそこ人が多い。
 両親に催眠が効いたのは元々俺に対する警戒心が低いから、という可能性を潰すため他人に催眠アプリを試そうと考えていた。だが俺は催眠アプリがおそらく他人にも有効だと考えていた。両親の2人に試しただけだが、画面を見せたら催眠にかかり放置後10分で催眠が解ける。催眠状態になるかならないかに個人差があるなら催眠が解けるまでの時間にも差があるはずだと思う。2人どちらにも特に差は無かったということは誰にでも効くということだろう。
 そう思ってはいてもやはり緊張する。誰と待ち合わせしている訳でもないのに柱に背中を合わせてスマホを見る。通り過ぎる人たちを横目に見ながらちょうど実験に良さそうな相手がいないか探す。1人行動で、この後予定が空いてそうで、いざとなったら逃げ切れそうな相手。
 しばらく目だけ動かして周りの人を観察していると1人の女性が目に入った。全然知らない人だ。壁に背中を向けてスマホを弄っている。気が強そうでなんなら顔は不機嫌そうに見える。下を見ると靴は少し高めのピンヒール。よく立っていられるなという印象で歩きにくそうだ。すごくちょうど良い。
 呼吸を整えてから目当ての人に向かって一直線に歩いていく。目の前で立ち止まると不思議に思ったのか彼女は顔を上げてこちらを見た。その視線の先には催眠アプリを開いた俺のスマホがあった。
 彼女の目からは光が消えてスマホを持っている手もダランと下ろされて直立不動になる。俺はスマホをしまってから彼女の横に並んだ。
「そのまま質問に答えて。今は誰か待ってるの?」
「はい。友達を待ってます」
「あとどれくらいで着く?」
「あと15分くらいらしいです」
 15分か。モタモタしてたらすぐだけど実験には十分な時間だ。
「このカードに1000円チャージしてきてください」
「はい」
 俺はポケットからICカードと千円札を取り出し彼女に渡した。
「チャージしたらここに戻ってきてカードを返して」
「はい」
 彼女は俺の言葉を聞き終えると少し列になっているチャージ機に並んだ。そのまま滞りなく命令を終えると帰ってきた。差し出されたカードを受け取りポケットにしまう。
まだ彼女は催眠状態のままだ。
「さやー!」
 少し考えごとをしていると彼女の待ち合わせ相手がやってきたようだ。まだ10分も経っていないはずなのに。少し焦るが距離を取って我関せずと横目で様子を窺う。
 高身長な女性で申し訳なさそうな表情で謝っている。
「お待たせ。ごめん遅れちゃって」
「遅いよもう。でも思ったより早かったね」
「うん。少し急いできた」
 催眠状態のはずだが普通に会話をしている。催眠状態ではなくなったのか。分からない。
「今度から気を付けてよ」
「ごめんごめん。じゃあ行こうか」
「うん」
 2人は並んで歩き出し駅構内から出て行った。俺も後を追う。
 少し歩いたところにあった雑貨屋に入っていった2人を追って店に入る。彼女たちは2人で品物を眺めている。俺も雑貨を眺める振りをして遠くから様子を窺う。
 少しの間その状態が続いたが高身長女性の方がトイレに行ったようなので催眠をかけた女性の方に近付いていく。
「すみません、そこの商品取ってもいいですか」
「あ、はい。すみません」
「すみません。ありがとうございます。」
 商品棚の前にいた彼女に後ろから声をかけてどいてもらう。欲しくもない商品を手に取ってからその場を離れると棚の角を曲がるときに彼女をチラ見する。またさっきと同じように棚の商品を見ていた。今彼女は催眠状態ではなかった。ICカードにチャージしてもらってから10分以上は経っている。その間に催眠が解けたのだろう。だが彼女が催眠状態のときに待ち合わせ相手が来た。それに普通に対応していた。「行こうか」という相手の言葉にも命令に従う感じではなく自然に振る舞っていた。
 彼女の待ち合わせ相手が現れてそのまま10分が経過して催眠が解けたのだろう。いやまだ確実じゃない。催眠が解けたきっかけが不明確だ。命令を終えてから10分経ったから解けたのか、待ち合わせ相手に話しかけられたのがきっかけで解けたのか。
「すみません」
「はい?」
 スマホ画面を見せて彼女を再び催眠状態にした。
「ここに一緒に来た人って友達ですか?」
「はい」
「じゃあその友達が帰ってきたら両手を上げて伸びをしてくでさい」
「はい」
 言い終わると俺はその場から離れて棚越しに様子を窺う。5分も経たない内に高身長女性が戻ってきた。
「お待たせ」
「うん」
 彼女はグッと両手を上に伸ばしてから手を下ろした。
「どうした肩凝った?」
「いや、なんかなんとなく」
「なにそれ」
 2人が歩いていく後ろ姿を見送り、俺は手に取った雑貨を棚に戻した。
 俺以外の第三者の対応をしていても命令は実行する。それに見た限りでは話しかけられた瞬間に催眠が解けたように思える。これならより安全に催眠を使える気がした。

 検証が終わり家に帰ると母が洗濯をしていた。
「ただいま」
「おかえりー。今日はしょうが焼きよ」
「分かった」
 母は洗濯物を塊のまま取り出して籠に入れていた。一度命令したことは継続されないようだ。籠を持っていく母を見送ってから手を洗った。
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