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長編版
16 殿下視点
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「先日は本当にありがとうございました」
そう言ったのは見知らぬ女生徒だった。
先日とはなんのことだろうか。分からないが、それを尋ねる必要も、まして恩に着せる必要もないだろうと判断して「気にしなくとも良い」と答えた。
それで終わりと思ったが、前に進むことはできなかった。
なぜか。
それはこの女生徒が俺の眼前に立ったまま動かないからだとわかったのは数秒のちのことだ。
王太子の行く手を阻み、そのまま居座るものなど生まれて初めて会ったからだろう。
『どうして前に歩き出せないのか』が俺には分からなかった。
妙な娘だと思った。
あのリシュフィ嬢ですら俺が先に立ち去る時は横に避けてスカートを摘み、膝を折って淑女の礼を執るというのに。
婚約者の優雅な姿を思い出して頬が緩むのを堪えた。
破天荒なところばかりが目に付くが、あれでリシュフィ嬢も公爵家の令嬢として振る舞えるのだ。人前では当たり前の令嬢の皮をかぶったあれと話すのも実のところ楽しい。
話す内容は他の令嬢方とそう変わりはしないのに、話すときに上がる口角やお茶のカップを手に取る指の淑やかな動きの一つ一つに魅せられ、夜の星空のように輝く目と目が合えばまるで吸い込まれるような心持ちになる。
ああ。考えれば考えるほどリシュフィ嬢に会いたくなってきた。本日はサロンにいるだろうか。さすがに部屋を訪れるのは……ま、まだ止そうか。体調を崩したのならともかく、婚約者とはいえ私室に訪問するなど失礼かもしれぬし……。
「殿下。……殿下!」
なんだ?
唐突に腕を引かれて、思考が現実に戻ってきた。と同時に、友人の一人が声を荒げた。
「殿下の腕を取るなど何事か!」
気が付けば友人らが俺と女生徒との間に入って口々に女生徒を怒鳴りつけている。
ああ、そうか。いま俺は、この女生徒に腕を引かれたのか。いかんな。もしもこの娘が暗殺を生業にする者ならグサリとやられていたかもしれない。気を引き締めなければ。
「も、申し訳ございません……っ! 殿下とまたお話できたことがとても嬉しくって……」
三人もの年上の男子に怒鳴りつけられた女生徒は涙を浮かべた目を俺へと向けた。
友人らは自分達には王太子を守る義務があると自負しているから過剰になってしまったのだろうが、王太子と話せたことが嬉しくてという者を泣かせるのは少々可哀想だ。
「お前達、やめないか。女性を泣かせるほど強く言うものではない」
注意すれば友人達は俺へと頭を下げて謝罪してくれたが、本当に彼らを叱りつけたつもりはない。肩を叩いて礼を伝えると、分かっていますとばかりの笑みが返された。
さて、それではリシュフィ嬢のサロンに出向こうか。そう思ったが、俺の足はまだ前へと進めなかった。
女生徒がいまだ目の前を陣取っている。
「何かまだ用があるのか?」
尋ねれば、女生徒の目が輝いた。
そういえば先日リシュフィ嬢にアシュレイと下町に遊びに行ったことを話したらキラキラと目を輝かせて聞いてくれたな。もしや一緒に行きたいと思ったのではないか? ……ああいや、女性を連れて行けるような場所ではないことは分かっている。分かってはいるが、しかしお忍びで、その……デ、デ──。
「殿下!」
今度はなんだ!
今日は思考をよく遮られる。遮ったのはやはり目の前の女生徒だ。
ほんの少しの苛立ちを隠して「なにかな」と答える。早くしないとリシュフィ嬢が私室に戻ってしまうではないか。
「あの、いつもいつも助けていただいて本当に嬉しいです。それでこんなことをお願いするのは恥ずかしいのですけど、実は勉強で分からないところがあって……教えていただけないでしょうか」
──勉強?
「女生徒の授業ならば俺よりも年長のご令嬢方に尋ねた方が良いだろう。特にエレシア嬢は女生徒の中での成績も常にトップの才女だ。勉強についていけぬというなら、エレシア嬢に教えを乞うてはどうだ?」
この王立学園に通うのは国内の貴族子女ばかりだ。剣術や体術が主な男子と室内で行われる授業が多い女子では内容も異なる。
ああいや、勉強というからには恐らくは座学か。
この女生徒の制服のリボンは赤、ということは一年生だ。俺やエレシア嬢は三年になるから勉強を教えることは難しいことではないだろう。そうだ。アシュレイとエレシア嬢と三人での勉強会を提案してはどうだろうか。それならばエレシア嬢とアシュレイが共に過ごす時間も増えるだろうし。
「エ、エレシア様は、その……お忙しいかなと思って……」
しかし女生徒はエレシア嬢に頼むのは気が引ける様子だった。
無理もないか。俺の前では淑やかに微笑むばかりのエレシア嬢は実のところなかなか厳しい人らしく、勉強を教えてもらっていたリシュフィ嬢はいつもエレシア様はスパルタなのです! と嘆いていた。
だから殿下がおしえてくださいと来た時にはエレシア嬢に海よりも深い感謝を伝えた。
「それでは殿下がまるでお暇な方のようではないか!」
「殿下もエドワーズ公爵令嬢同様とてもお忙しい方だ。勉強ならばここは学園なのだから教師に頼みなさい」
またしても友人らは声を荒げ、困った様子の女生徒は縋るような目をこちらに向けてくる。
さっさと用を済ませてリシュフィ嬢のサロンに出向きたいところだが、女性を泣かせたまま放置して立ち去るのは王太子としていかがなものかとも思う。
……仕方ない。本日のリシュフィ嬢は昼食を共に出来ただけで良しとするか……残念だ。
「わか──」
「殿下。こちらにおられましたか」
分かったから泣くのはやめよとでも言おうとしたとき、背後から声をかけられた。
「アシュレイか。何か用か?」
アシュレイはいつもの柔和な笑みを俺に向け、そして。
「リシュフィ嬢がお呼びですよ。火急のご用があるとか」
「なに!?」
リシュフィ嬢が俺に用事だと!?
「リシュフィ嬢からの呼び出しなど初めてではないか!?」
「うっわぁ……ええ、そうです。お呼びだそうなので、お越しいただけますか。殿下の私室にご案内しております」
「私室に!!」
なんということだ。婚約者とはいえ私室に出向くのは失礼ではと躊躇していたが、なんと向こうから俺の私室に来てくれるとは。
「ならば早く向かってやらねばな! すぐに参るぞ!!」
ほとんど駆け足で廊下を駆け抜けた。
扉を開ける寸前、深呼吸して息を整えた。
急ぎ足で出向いたと思われるのは気恥ずかしい。
「殿下。扉を開ける前にお話が」
ガチャリと扉を開けて、中に声をかけた。
「すまない。待たせたか」
しかしすぐに立ち上がり礼を執るはずの婚約者の姿はどこにもない。
目を瞬き、首を左右に振る。
まさか、かくれんぼをしているわけではない……とも言い切れないのがリシュフィ嬢の可愛らし、いや恐ろしいところだ。
キャビネットを開き、中を覗き込む。おらんな。
「殿下。お話が……ってそんな小さなところにリシュフィ嬢がいるわけがありませんでしょう」
言われて改めて見たキャビネットは俺の腰よりも低く、奥行きは俺の足も入らないほど狭い。
誤魔化して咳払いをし、改めて部屋を見渡す。その俺の眼前にアシュレイが滑り込み、腰を直角に曲げて頭を下げた。
「殿下。申し訳ございません。嘘を申しました」
──嘘?
「そうか。お前は意味のない嘘は付かんからな。許そう。しかしリシュフィ嬢はどこに行ったかな」
もしも待ちくたびれて帰ってしまったのなら部屋に出向く口実にも……。
「…………殿下。『リシュフィ嬢がお待ちです』と申しましたのが、嘘でございます」
「…………………………」
俺の足は自然と部屋にある一人掛けのソファへと向かった。
深く腰を下ろせば柔らかな座面が沈む。
「アシュレイ。お前は決して意味のない嘘は付かないと俺はわかっている」
「……大変光栄に存じます」
だが、と俺は最も信頼のおける友人に続けた。
「次からは他の友人の名を使ってくれ……」
「それに関しましては己の失態を深く痛感しております」
再びアシュレイは深く頭を下げた。
そう言ったのは見知らぬ女生徒だった。
先日とはなんのことだろうか。分からないが、それを尋ねる必要も、まして恩に着せる必要もないだろうと判断して「気にしなくとも良い」と答えた。
それで終わりと思ったが、前に進むことはできなかった。
なぜか。
それはこの女生徒が俺の眼前に立ったまま動かないからだとわかったのは数秒のちのことだ。
王太子の行く手を阻み、そのまま居座るものなど生まれて初めて会ったからだろう。
『どうして前に歩き出せないのか』が俺には分からなかった。
妙な娘だと思った。
あのリシュフィ嬢ですら俺が先に立ち去る時は横に避けてスカートを摘み、膝を折って淑女の礼を執るというのに。
婚約者の優雅な姿を思い出して頬が緩むのを堪えた。
破天荒なところばかりが目に付くが、あれでリシュフィ嬢も公爵家の令嬢として振る舞えるのだ。人前では当たり前の令嬢の皮をかぶったあれと話すのも実のところ楽しい。
話す内容は他の令嬢方とそう変わりはしないのに、話すときに上がる口角やお茶のカップを手に取る指の淑やかな動きの一つ一つに魅せられ、夜の星空のように輝く目と目が合えばまるで吸い込まれるような心持ちになる。
ああ。考えれば考えるほどリシュフィ嬢に会いたくなってきた。本日はサロンにいるだろうか。さすがに部屋を訪れるのは……ま、まだ止そうか。体調を崩したのならともかく、婚約者とはいえ私室に訪問するなど失礼かもしれぬし……。
「殿下。……殿下!」
なんだ?
唐突に腕を引かれて、思考が現実に戻ってきた。と同時に、友人の一人が声を荒げた。
「殿下の腕を取るなど何事か!」
気が付けば友人らが俺と女生徒との間に入って口々に女生徒を怒鳴りつけている。
ああ、そうか。いま俺は、この女生徒に腕を引かれたのか。いかんな。もしもこの娘が暗殺を生業にする者ならグサリとやられていたかもしれない。気を引き締めなければ。
「も、申し訳ございません……っ! 殿下とまたお話できたことがとても嬉しくって……」
三人もの年上の男子に怒鳴りつけられた女生徒は涙を浮かべた目を俺へと向けた。
友人らは自分達には王太子を守る義務があると自負しているから過剰になってしまったのだろうが、王太子と話せたことが嬉しくてという者を泣かせるのは少々可哀想だ。
「お前達、やめないか。女性を泣かせるほど強く言うものではない」
注意すれば友人達は俺へと頭を下げて謝罪してくれたが、本当に彼らを叱りつけたつもりはない。肩を叩いて礼を伝えると、分かっていますとばかりの笑みが返された。
さて、それではリシュフィ嬢のサロンに出向こうか。そう思ったが、俺の足はまだ前へと進めなかった。
女生徒がいまだ目の前を陣取っている。
「何かまだ用があるのか?」
尋ねれば、女生徒の目が輝いた。
そういえば先日リシュフィ嬢にアシュレイと下町に遊びに行ったことを話したらキラキラと目を輝かせて聞いてくれたな。もしや一緒に行きたいと思ったのではないか? ……ああいや、女性を連れて行けるような場所ではないことは分かっている。分かってはいるが、しかしお忍びで、その……デ、デ──。
「殿下!」
今度はなんだ!
今日は思考をよく遮られる。遮ったのはやはり目の前の女生徒だ。
ほんの少しの苛立ちを隠して「なにかな」と答える。早くしないとリシュフィ嬢が私室に戻ってしまうではないか。
「あの、いつもいつも助けていただいて本当に嬉しいです。それでこんなことをお願いするのは恥ずかしいのですけど、実は勉強で分からないところがあって……教えていただけないでしょうか」
──勉強?
「女生徒の授業ならば俺よりも年長のご令嬢方に尋ねた方が良いだろう。特にエレシア嬢は女生徒の中での成績も常にトップの才女だ。勉強についていけぬというなら、エレシア嬢に教えを乞うてはどうだ?」
この王立学園に通うのは国内の貴族子女ばかりだ。剣術や体術が主な男子と室内で行われる授業が多い女子では内容も異なる。
ああいや、勉強というからには恐らくは座学か。
この女生徒の制服のリボンは赤、ということは一年生だ。俺やエレシア嬢は三年になるから勉強を教えることは難しいことではないだろう。そうだ。アシュレイとエレシア嬢と三人での勉強会を提案してはどうだろうか。それならばエレシア嬢とアシュレイが共に過ごす時間も増えるだろうし。
「エ、エレシア様は、その……お忙しいかなと思って……」
しかし女生徒はエレシア嬢に頼むのは気が引ける様子だった。
無理もないか。俺の前では淑やかに微笑むばかりのエレシア嬢は実のところなかなか厳しい人らしく、勉強を教えてもらっていたリシュフィ嬢はいつもエレシア様はスパルタなのです! と嘆いていた。
だから殿下がおしえてくださいと来た時にはエレシア嬢に海よりも深い感謝を伝えた。
「それでは殿下がまるでお暇な方のようではないか!」
「殿下もエドワーズ公爵令嬢同様とてもお忙しい方だ。勉強ならばここは学園なのだから教師に頼みなさい」
またしても友人らは声を荒げ、困った様子の女生徒は縋るような目をこちらに向けてくる。
さっさと用を済ませてリシュフィ嬢のサロンに出向きたいところだが、女性を泣かせたまま放置して立ち去るのは王太子としていかがなものかとも思う。
……仕方ない。本日のリシュフィ嬢は昼食を共に出来ただけで良しとするか……残念だ。
「わか──」
「殿下。こちらにおられましたか」
分かったから泣くのはやめよとでも言おうとしたとき、背後から声をかけられた。
「アシュレイか。何か用か?」
アシュレイはいつもの柔和な笑みを俺に向け、そして。
「リシュフィ嬢がお呼びですよ。火急のご用があるとか」
「なに!?」
リシュフィ嬢が俺に用事だと!?
「リシュフィ嬢からの呼び出しなど初めてではないか!?」
「うっわぁ……ええ、そうです。お呼びだそうなので、お越しいただけますか。殿下の私室にご案内しております」
「私室に!!」
なんということだ。婚約者とはいえ私室に出向くのは失礼ではと躊躇していたが、なんと向こうから俺の私室に来てくれるとは。
「ならば早く向かってやらねばな! すぐに参るぞ!!」
ほとんど駆け足で廊下を駆け抜けた。
扉を開ける寸前、深呼吸して息を整えた。
急ぎ足で出向いたと思われるのは気恥ずかしい。
「殿下。扉を開ける前にお話が」
ガチャリと扉を開けて、中に声をかけた。
「すまない。待たせたか」
しかしすぐに立ち上がり礼を執るはずの婚約者の姿はどこにもない。
目を瞬き、首を左右に振る。
まさか、かくれんぼをしているわけではない……とも言い切れないのがリシュフィ嬢の可愛らし、いや恐ろしいところだ。
キャビネットを開き、中を覗き込む。おらんな。
「殿下。お話が……ってそんな小さなところにリシュフィ嬢がいるわけがありませんでしょう」
言われて改めて見たキャビネットは俺の腰よりも低く、奥行きは俺の足も入らないほど狭い。
誤魔化して咳払いをし、改めて部屋を見渡す。その俺の眼前にアシュレイが滑り込み、腰を直角に曲げて頭を下げた。
「殿下。申し訳ございません。嘘を申しました」
──嘘?
「そうか。お前は意味のない嘘は付かんからな。許そう。しかしリシュフィ嬢はどこに行ったかな」
もしも待ちくたびれて帰ってしまったのなら部屋に出向く口実にも……。
「…………殿下。『リシュフィ嬢がお待ちです』と申しましたのが、嘘でございます」
「…………………………」
俺の足は自然と部屋にある一人掛けのソファへと向かった。
深く腰を下ろせば柔らかな座面が沈む。
「アシュレイ。お前は決して意味のない嘘は付かないと俺はわかっている」
「……大変光栄に存じます」
だが、と俺は最も信頼のおける友人に続けた。
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