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❀すれ違った2人のハッピーエンド❀
しおりを挟む次の日の早くにリアナ嬢に会いに行った。
昨日の出来事が夢であって欲しい⋯。
そう幾ら願っても戻る事はないのだ。
リアナに今までの事を説明し、誠心誠意の謝罪と婚約の継続をお願いしに来たのだ。
「申しわけありません。娘は早々に隣国に留学に向かいました。
大公ご子息との事は娘より聞き及んでおります。」
子爵は、私を真っ直ぐ見つめ。
「6年程前、子爵家に婚約をお願いされましたね。
貴方様は幼いながらに娘との婚約を希望され、私は少しだけなら手助けしようと娘に来る婚約話しを避けてきました。」
「デビュタント前ですので、婚約者はいなくとも田舎貴族としては痛くなかったからです。」
「貴方様は約束通りに大公閣下との約束を果たし、また我が家にも正式に婚約を持ってこられた。
私は貴方様を信じ、娘をお任せしたのです。娘を虐げさせる為では、断じてないのですよっ!!」
穏やかな子爵をここまで激怒させたのは、私の。全て私の落ち度だ。
「申しわけありません。言い訳のしようがないのは承知の上です。
ですが、私の話を聞いていただきたいのです。」
お願いします。
と、私は深く、深く頭を下げた。
子爵は大きな溜め息を吐くと、
「解りました。お話だけは聞きましょう。」と。
婚約を望んだきっかけから、社交会に馴染む様に幼馴染に言われるままに任せた事。
そして、それがリリアーナを苦しめる結果となった事。
全て、浮かれた自分に落ち度がある事を⋯⋯。
深く謝罪をした。
「状況は理解しましたが、リアナを呼び戻す事は致しません。
隣国では魔法を勉強すると、それを希望に発ったのですから。
また、何も解決はしておりません。
解決した後に、リアナの出す結論に私は従いますよ。」
「大公ご子息がどう決着をつけるのか、見届けさせて頂きます。
婚約は一応そのままにしますが、私は誰に聞かれても曖昧にしか返答しませんので。それでも宜しいなら。」
「子爵殿。感謝致します。
リアナ嬢が帰って来る2年後に、綺麗に方をつけます。」
子爵家を後にし、私は策を練った。
あの令嬢達にも協力を仰ごう。
そして⋯⋯。
悲しみに落ちたあの日から、2年が過ぎた。
早いようで待ち遠しかった。
帰国したリアナが王城に来る。父上からの情報で今日1日のリアナの予定を把握している。
再会早々に逃げられたが、夜の夜会には参加をしなければならない。
何故なら、今日の主役は彼女だからだ。
今日、この日に決着をつけるのだ。
綺羅びやかな広間には、沢山の貴族の面々がいる。
今日は、ある人物が隣国の魔塔にて特級魔法師の栄誉を賜ったのだ。
特級魔法師は、世界にまだ4人しかいない。その中の1人が我が国の貴族となれば祝いとなる。
その祝いの夜会に私は早めに馬車乗り場に行く。リアナが来るのを、誰にも見つからない様に待っていた。
子爵家の馬車が到着すると、私は扉に駆け寄りリアナの手を強引に引いた。
「リアナ今日は、大公ご子息のエスコートを受けなさい。」
子爵のその言葉に嫌々だろう雰囲気を纏い頷いてくれた。
「昼間振りだね。リアナ。
今日は薄い紫のそのドレスがとても似合っていますよ。貴方の魔力の色なのですね。」
リアナは驚いていた。
魔法が廃れてしまった我が国では、余り知られていないのだ。
特級魔法師は自分の魔力の色を纏う。
その色はその人以外は着用出来なくなる。
今日は誰かと色が被っても次からは当人以外が使用出来なくなる。
リアナが気にしているのはそれだけでは無い事を。
噂は知っている。
私の瞳が紫の為、アリーシャがいつも紫を使っているのを。
私はアリーシャの気持を知らさせるまで何も考えていなかったのだから。
「大丈夫ですよ。リアナ。
2年前の不甲斐ない私ではないと思っています。
今日は私に全て任せて頂けますか?」
リアナは父である子爵へと向いた。子爵は了承の頷きを返し、リアナも了承した。
夜会の会場にエスコートして向かう。
リアナの緊張が手から伝わる。
優しく握りしめ2人並んで会場に向かった。
(アリーシャ。貴女だけは許さない。リアナにした仕打ちを今日返してあげますから。)
「ところでリアナ。モウちゃんはちゃんと居ますか?」
「はい。ちゃんと側に居てくれてます。」
リアナの口調はやはり距離を感じるが仕方のない事。
会場に私の名前とリアナの名前が呼ばれた。
会場に踏み入れると、一斉に視線が刺さった。1番強い視線を向けたアリーシャは探さずとも居場所が知れた。
リアナの手をキュッと握り会場の中央に向かう。
そこに、あの時の令嬢が近寄ってきた。
「お久しぶりです。リアナ様。
以前は酷い仕打ちをしたと言うのに、私達の領地を助けて頂き感謝します。」
令嬢達はお礼の言葉と謝罪を口にした。
「気にしないで。あの時も言ったでしょ?領民には罪は無いと。」
ニッコリ微笑み彼女達の謝罪を受け入れた。
私はリアナの腰に手を回し、ピタリとくっついた。
悪の元凶のお出ましである。
「ミシェル様。到着遅かった様ですわね。本日は目出度い祝の夜会ですわ。早々に陛下達にご挨拶に伺いましょう。」
と、私以外を全て無視した。
公爵家である以上、そこまでの無礼にはならないが。為人は疑われる行動ではあった。
「アリーシャ嬢。今私は他のご令嬢と話しの途中だ。しかも、婚約者も同伴している。少しばかり気を配られよ。」
アリーシャは嗜められると思っておらず、驚いていた。
リアナも嗜めるとは思わず、驚いていた。
私は苦笑いしながら、リアナに顔を向け腰の手を更に強くしリアナを自信に引き寄せた。
「あら、失礼しましたわ。
隣にいるのはリアナ様でわね。お久しぶりですわ。
また、お茶会を開きますので是非いらして下さいね。」
優雅な笑みを浮かべ下位貴族を誘うその姿は、高位貴族のお手本となる様であった。
周りの貴族達は、こぞってアリーシャ嬢を褒め称えた。
アリーシャは満足気に微笑むと、私に手を伸ばして来た。
お茶会、その言葉でリアナが体を強張らせたのが解った。
思い出したのであろう。忌々しい記憶を⋯⋯。
近付く手を思い切り払い除けた。
パシン⋯⋯。
その音と私の態度に段々会場が静かになって行く。
「アリーシャ嬢。貴女はリアナ嬢を気遣う振りをしながら、茶会や夜会にて散々暴言や暴力を振るっていたな。」
「そのような事を私がする筈ありませんわ!もし、その様なお話があるのならば⋯⋯。
きっと私の為にと側にいた方達が行ったのでは?」と、白を切る。
「貴女達は以前、リアナ様を虐げてましたわよね。私はお止めしたのですよ?それなのに、疑われるなど心外ですわ。」
扇子を取り出し、顔を隠し俯いた。
冤罪をかけられた可哀想な令嬢を演じる。
周りの貴族達は
「公爵令嬢がその様な事をなさるはずがないではないか。」
「あの令嬢達がアリーシャ様に罪を擦り付けようとしてるのでは?」
「婚約者は子爵家出身だな。きっとアリーシャ様に嫉妬して大公ご子息にある事ない事伝えたのであろう。」
「醜い令嬢だな。」 と。
周りがリアナへの悪意に変わった。
その時、モウちゃんが出てしまった。
怒りを纏うモウちゃんは、強い精霊力を放っていた。
アリーシャを褒め称えた者、リアナを悪く言った者はとくに圧が強く息も出来ないでいた。
会場は静寂と恐怖に満ちあふれた。
恐怖に満ち溢れる会場の中、ミシェル様がモウちゃんの前に来た。
「地の大精霊様。どうか精霊力をお納め下さい。」
と、片膝を突き頭を下げた。
金の精霊術師が頭を下げた。
地の大精霊だと言った。
聞こえた者達から次々に膝を突いた。
ミシェルは自信の大精霊から、モウちゃんは地の大精霊と今日教えられた。
モウちゃんは淡い紫の光を纏うと、人型となった。
髪は地に着くほどに長く、美しい新緑の色。瞳はリアナの魔力と同じ淡い紫色であった。
〈アリーシャよ。証拠が無いとでも言うのか?我が証人だ。我はリアナと共にいる。契約者だからな。
2年前は我に茶をかけたな。
そなた自身がな。〉
精霊は嘘を言わない。事実のみを伝える。
会場の者は誰が正しいのかを理解した。
リアナの側に地の大精霊が近づくと、頭を撫でた。
優しく優しく、何度も撫で。
〈リアナ。そなたは我を悪く言う者からいつも庇ってくれた。我をモグラだと馬鹿にせず大切にしてくれた。
そなたの深い愛情を得て、我はこれより精霊王となる。〉
ミシェルと契約している大精霊の2人が姿を現した。
左右に別れ、精霊王の横に一歩下がり侍る。
地の大精霊が精霊王となった。風と水の大精霊が仕えた。
それは即ち、リアナ嬢は精霊王が守護する者となる。
会場の者は誰一人言葉を発せないでいた。
そこに王族の方々が姿を見せた。
前もって王弟である大公より、事の成り行きは聞いていた。
特級魔法師が大公子息の婚約者である事。
その婚約者の契約する精霊獣は大精霊の可能性がある事。のみを。
会場に現れた陛下達に全員が傅いたまま視線を向ける。
会場の中央には、精霊王となった美しい精霊。側に侍る大精霊はミシェルの側にいた大精霊だった。
陛下達も膝を突き頭を下げた。
〈そなたがこの国の王か?〉
〈リアナを虐げた者をどうするのだ?我が罰を下して良いか?〉
リアナは、ハッとした。
モウちゃんに手を汚させるのは嫌だった。
「モウちゃん!じゃなかった。精霊王様。貴方様が手を汚さずとも、他の者が罰を与えますわ。」ニ、ニコリ⋯⋯。
〈リアナよ。もう、モウちゃんと名前を呼んではくれぬのか⋯⋯。〉
ションボリする精霊王に、呼びません!とは言えず、
「モウちゃん。いつもありがとう!これからも宜しくね!」
そう言うと、モウちゃんは微笑み元のモグラの姿で私の胸に飛び込んだ。
アリーシャ様を始め、私を虐げた者とモウちゃんに嫌がらせをした者はモウちゃんが一纏めに括り付け床に縫い付けた。
動けない、話せない。
異様な一団を他所に会場では、リアナ嬢の特級魔法師の取得と精霊王の守護する者との祝いの場となった。
子爵が、「大公ご子息より、精霊王がやり返した形になりましたね。」
と、嫌味半分でミシェルに告げた。
罰の悪そうなミシェルにバルコニーに連れて来られた。
「2年前、私はリアナが何を思い何に苦しんでいたのかさえ知らなかった。
あの令嬢達に窘められ、初めて自分の愚かさを知った。
私が不甲斐ないばかりに、辛い思いをさせてしまった。」
リアナは涙を流し、じっと話を聞いていた。
「私は8年前から貴方に恋焦がれています。今もです。」
リアナは驚いた。
(8年前って!?会った記憶が見つからない)
「私がこの2年間、貴女に書き続けた手紙です。読んで欲しいとは思いますが、無理強いはしません。」
束になった手紙を沢山渡される。
「2ヶ月後はリアナ。貴女の誕生日ですね。その前日にでも婚約をどうするのか。答えを下さい。」
ミシェル様は軽く礼をとり、離れて行った。
私は動けずにいた。
目まぐるしい1日に、思考が追いついていない。
〈とりあえず、お父上と屋敷に戻ろう。それからゆっくり考えれば良いのでは?〉
モウちゃんに促され父と屋敷に戻った。
~❀~
今日はリアナ・ブルーム子爵令嬢の18歳の誕生日である。
誕生日会など行わなかった子爵家だが。
今回は娘の特級魔法師の取得や、精霊王の顕現などやらねばならない理由がてんこ盛りであった。
そして、半年後の秋にはミシェル大公子息との結婚も決まった。
目出度いこの日、ずっと仲良くしてくれた令嬢達。過ちを認め謝罪の後に仲良くなったご令嬢達。
リアナに増えた仲間に祝福されていた。
楽しそうに笑うリアナの横には、リアナ以上に幸せそうなミシェル大公ご子息と美しく人型の精霊王がいた。
リアナはあの夜会の次の日から、ミシェルからの手紙を読み始めた。
ミシェル様の後悔、愚かさ、人の見る目のなさが手紙に綴られていた。
アリーシャ様を信じていた愚かさには、深い後悔が綴られていた。
あの令嬢達が別に証拠となる物を準備していた事。
この2年、リアナが受けた仕打ちを調べ上げた事。
リアナのいる隣国に一度だけ、お忍びで顔を見に行っていた事。
隣国で無邪気に笑い、魔法を楽しむリアナを手放すべきだと一度だけ悩んだ事。
そして、8年前のお話も手紙に書かれていた。
それ程までに自分を想ってくれていた事実を初めて知った。
私も後悔の思考に沈んだ。
身分等を気にしていた事をミシェル様が気にかけていてくれた事実。
それを逆手に取られた為に起きた事。
ミシェル様に相応しくないと、自分に自信が無く上辺でしかミシェル様を見ていなかった事。
一言、ただ一言。
いじめられ辛い。
そう言えたら良かっただけだと。
弱い自分を見せれず、いじめられる自分は身分が低いからと諦めなければ結果は違っただろうか⋯っ。
毎日泣いていると、精霊王が
〈あやつのリアナへの愛情は深い。身分で婚約を続ける様にできたはずをリアナにその権利を渡した。
それだけ、あやつはリアナを好いているのではないか?〉
その言葉で、私は2ヶ月後も待てなくなりそのままミシェル様の邸まで突撃した。
出迎えてくれたミシェル様に抱きつき、沢山謝罪した。
ミシェル様だけが悪いわけではない。
自分を卑下し逃げたのが悪いと。
お互いが謝罪し、お互いが許しあった。
あの夜会から一ケ月過ぎた頃だ。
残り一ヶ月は、お互いの事を沢山話した。
穏やかに好意を温めた。
誕生日会に隣国の特級魔法師が来てくれたが、リアナへ求婚をした為。
特級魔法師 対 金の精霊魔法師
の決闘となる所だった。
精霊王であるモウちゃんが、リアナの祝いの会を台無しにする2人にお仕置きが発生したのだ。
大人しくなった2人に精霊王の正論の説教が始まった。
正座をし、ションボリする2人の姿にリアナが大爆笑した為、会は賑やかなまま終わった。
長くすれ違った婚約者達を、結婚式では精霊王が祝福を授けた。
そして、優しく温かな2人を精霊王のモウちゃんは深く深く愛し、見守って行った。
~✿~
アリーシャ公爵令嬢の処罰は、北の修道院での奉公になった。
北は他部族との衝突が時々起こるため、常に人手が足りなかった。
修道院に幽閉ではなく、修道院に来る怪我人達の救済をする事になる。
✿おしまい✿
先程の話は、優しいリアナの為の嘘だった。
ミシェルが、精霊王が。
そんな甘い処罰を許すはずがない。
魔力を毎日枯渇寸前まで吸い取られ、魔塔での魔力提供者となるのだから。
精霊王が追加で魔力を吸い取られる際、とんでもない痛みが伴う術を掛けた。
アリーシャはリアナだけではなく、気に入らないと、沢山の令嬢達を酷く虐げていたのだから⋯⋯。
精霊王の守護する者を虐げたのだ。
その処罰は当然認められ、アリーシャは魔塔の地下で刑を服すことになる。
ミシェルと精霊王により、リアナが一生知る事はないのだ。
❀おしまい❀
1
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