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71.上着

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「うぅんふ? お兄様、袋の一番奥に『黒い布』があります」
「ん、黒い……?」

 見た事のない新しいものを見つけたクォーツの表情、美しいガラスのようなくりくりの瞳はキラキラと輝きを増す。そのクォーツが身体中から放つレヴシャルメ特有の波動と声に気付いたジャニスティはおもむろに、ソファから立ち上がる。

「ほら! お兄様……ンぁふ?!」

 ふわぁっ――……シュン。

「これは、まさか!」

 キャッキャと楽しそうに布袋からその『黒い布』を取り出したクォーツは思いっきり広げ、中に入り込む。すると目の前で――不思議な事が起きた。

(クォーツの気配を、全く感じない?!)

 もぞもぞ、モゾッ!
「うはぁッ! 急に何も見えなくなって、びっくりしたぁ!! でもこの黒い布、つるつるしていて気持ち良かったの」

 覆い被さった黒い布を怖がる様子もなくむしろ、興味津々ですりすりしているクォーツを抱き上げ、肩に乗せる。

「これはシルクという生地で出来ている、上着マントだ。しかも隠伏魔法が施されている」
「いんぷく?」
「あぁ、そうだな。この中に入れば誰にも見つからない、“かくれんぼ”みたいなものだよ」
「なふぁ~!! 楽しい」
 多くは語らずしかし、能力の高いクォーツが納得のいく理解しやすい言葉で説明をするジャニスティの内心は、この黒のシルクを見た瞬間から身の引き締まるような、思いだった。

――純真無垢なこの命を、これからも護っていくために。

(君を明日の朝、皆に見つからぬように隠し、一番初めに旦那様オニキスに会わせなくてはならない)

「さて、どう話すか……だな」
 ジャニスティの頭は様々な思考を巡らせている。オニキスへの説明に心を整えるのであった。



 次の日、朝七時過ぎ。
 身支度を整えたジャニスティは入り口へ向かう。扉の前で待つクォーツを左腕に座らせ抱きかかえると、オニキスの部屋へ行くまでの間、誰にも見られぬようにするため、注意を促した。

「良いかいクォーツ。私が合図をするまでは大人しく動かずにいる事。決して話してはいけない」

 君なら出来るだろう? と微笑む。

『はい、もちろんですわ。ご心配なさらず、お兄様』
 エデの届けてくれた服を着て嬉しそうに頬を染める可愛い妹クォーツは小さな声でそう、答える。

「ははっ、言葉を覚えたてだとは思えないな」
(本当に、クォーツには驚かされてばかりだ)

 屈託のない笑顔に和んだ後、ジャニスティは上着マントをかけクォーツを腕の中に隠すと、静かに部屋を出た。

 キィー……カチャ、ン。
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