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70.兄妹
しおりを挟む「自分が指導したとはいえ“兄”、と呼ばれるのは……」
少しだけ恥ずかしそうにそう言うジャニスティは部屋のソファにゆっくりと、座る。その顔をクォーツは覗き込むと満面の笑みで、言葉をかけた。
「いいえ、お兄様。正真正銘、貴方の血を受け継ぐ――ジャニスティの妹です」
すっかり言葉を覚えたクォーツの頭脳には驚きである。元々、単語の意味が分からない訳ではなかった事が幸いし、あとは人族の話し言葉に変換するといった方法で教えていった。それでも短時間でここまでの成長を見せたクォーツには頭が下がるとジャニスティは話を聞きながら、思う。
――そしてますます、レヴシャルメ種族の力は底知れぬものだと。
そんな悩みにも似たジャニスティの心の中などつゆ知らず、ルンルンと舞うように歩きながら陽気に話すクォーツはやはり、子供である。とてもご機嫌でにこにこと笑うその無邪気な姿に「自分の考えなど浅はかで、ちっぽけだな」と思いフッと、微笑んだ。
(クォーツはよく頑張ってくれている)
心の中でそう呟くと感謝の気持ちを、表情にする。
「せっかくだ。エデの準備してくれた服に、袖を通してみるか?」
「え、えー!! お兄様、私にお洋服?!」
そのままの格好で皆の前に出る訳にはいかないだろうと伝え受け取った布袋から衣類を取り出す。
そこでハッと何かに気付く。
(これは、マリーだな)
「……ありがたい。依頼した物以上を届けてくれる」
なんと袋の中には洋服だけでなく可愛らしい靴や髪飾り、文具品まで入っていたのである。
「着るの? 着ていいの?? うきゃっは~……アッ」
しまった! と慌てるクォーツは口を両手で隠した。ほんの数時間前まで話していた自分の言葉はふとした瞬間、やはりまだ出てしまう。
「クォーツ、そんなに焦らなくていいんだ。とりあえずは明日の朝、旦那様と皆への挨拶が無事に済めば良いのだから。この部屋では言葉を崩しても大丈夫」
優しい声で安心させるジャニスティ。今まで“家族”などいなかった自分にとって大切な宝物が出来たような、本当の妹だという錯覚すら感じていた。
「うふ。ありがとうございます! お兄様」
「あぁ、良かったな」
(しかし、この二日間。自分でも驚くような事ばかりだった)
ジャニスティの大きめ青空色シャツを着ていたクォーツは「わぁ~お洋服だぁ」と飛び跳ね、喜ぶ。その明るさに癒され、落ち着いていくジャニスティの心身は温かい何かに、満たされていくようであった。
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