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133.習慣
しおりを挟むラルミはアメジストの部屋に向き直り「失礼いたします」と声をかける。その言葉の奥には『いつもお護り下さりありがとうございます』という思いが、隠されていた。
――優しい波動、とても心に伝わってきて。
アメジストの胸は熱くなり同時にギュッと、切なくなる。
「あ! 申し訳ありません、お嬢様!! お待ち下さっていたのですね」
アメジストの見惚れるような視線にハッと気付いたラルミは慌てて部屋の鍵をかけると彼女の元へ、駆け寄る。
「いいえ、違うのよ。ラルミ、そんなに急がなくても大丈夫」
(そう、まだ見つめていたかった。私はあなたが持つ愛心の力を感じたから)
「恐れ入ります。では参りましょう」
「えぇ、そうね。ありがとう」
たとえ物であろうと、自分とは違う種族の者であろうと。そして今のように誰もいない部屋や場所であろうとも。全てに感謝の気持ちを込めた温かな心を伝えるのは、ラルミ自身が無意識に習慣化してやっていること――日々、当たり前に行う動作なのである。
(私は、大きな勘違いをしていたみたい)
母ベリルの愛した此処、ベルメルシア家の屋敷を隅から隅まで美しく保ち管理してきたのは執事でもあり父オニキスの秘書でもある、フォル一人なのだと思っていたのだ。
が、しかし。ラルミの言葉を聞いた瞬間にふと、気付く。そしてアメジストは写真でしか見たことのない母ベリルへ心の中で、話しかける。
(お母様……此処にいる皆様は、本当に素晴らしい方たちばかりですわ)
皆がベルメルシア家を愛する気持ちを忘れず持ち続けているからこそ、こうして綺麗なままの屋敷があるのだとそうアメジストは心の中で思い確信したのである。
「ラルミ、ありがとう」
「え? はい……えっと」
「うふふ、いいの。気にしないでね」
それから二人は心地良い空気の流れる沈静の中で馬車の待つ屋敷の出入口へと足早に、向かった。
◇
「ん~……分かったよ」
「えっへへ~♪ やったぁ」
その頃、迎えの馬車が待つ入り口でアメジストを待っていたジャニスティとクォーツは仲良さそうに何かを話していた。そこへ手綱を持ったままのエデが御者席から降りてくると笑いながら兄妹となった二人へ、喜びの声をかける。
「ジャニスティ様。すっかり心を許し合い、良き兄妹となれたのですね」
「あぁ! すまない、エデ。さぁクォーツ、自己紹介を」
少しだけ頬を染め恥ずかしそうに答えたジャニスティの姿を見たエデは一瞬だけ瞳を輝かせ、にっこりと微笑んだ。
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