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第1話 アルテミシアとして生まれた公爵令嬢
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「殿下、この子は「アルテミシア」です……」
生まれて間もない私を抱きかかえながら頭を抱えるという器用な真似をやってのけるのは、王家のお抱え医師であった。
この度エルメリア王国の公爵令嬢として生まれることになった私の初お披露目は、このお医者様である。
長年王家に仕える実力者のお爺ちゃん先生が、悩ましく声を出すにも理由があるのだ。
「アルテミシア……だと……?」
「アルテミシア」というワードに、我が父であるリルシュタイン公爵は立場など忘れて狼狽する。
公爵と医師の二人が「絶望」した様子で言葉を失っている状況に、頭はてなマーク状態なのは生まれて間もない私だけではなかった。
というか、生後すぐに理性と言語知覚能力を有していることがそもそも驚きではあるのだけれども。
「父上、アルテミシアとは何ですか?」
この場に流れる重苦しい雰囲気を打破して、皆の疑問に思っている「アルテミシア」について質問する少年。
彼は生まれてくる私の兄、つまりはリルシュタイン公爵家の長男であった。
妹を見に来た可愛いお兄ちゃんも、私や家の従者と同様に何が何だか分からないのである。
期待の女の子が生まれてきてお祝いムードとなるべき場が、葬儀の会場のような空気感をまとっていることに疑問があるのであった。
「ランスロット……、一度席を外してくれ」
沈痛な面持ちで息子に告げる公爵。
そして、他の侍従たちにも同様に退出を願う。
産後で疲れて眠っている母親は産婆やメイドたちに運び出され、この部屋には私と公爵、医師の3人のみが残った。
「ゲンジ殿、アルテミシアということは……この子はもう間もなく……」
今にも涙をこぼしてしまいそうな表情で、小さく震えながら話すリルシュタイン公爵。
ゲンジ殿と呼ばれた医師が「ええ、死んでしまいます……」と目を閉じて静かに言う。
悲しみから怒りを孕んだ表情へと変わる公爵は「それでも王国一の医者なのか!なんとか救うことはできないのか!」と怒声をあげた。
自らの実力不足を恨むゲンジは無言で佇む。
決して「できません」とは答えないが、おそらく助からない命なのであろう。
(いや、ちょっと待ってってば!生まれた瞬間に死が確定とかどんなハードモード転生なのよ!!)
何故か彼らの会話を理解できてる私は、「死ぬ」などと理不尽なことを言われて驚く。
ゲンジの腕の中でバスタオルのようなものに包まれて抱かれている私は、抗議の意を込めてゲンジの胸をバンバン叩いた。
その様子にゲンジはたいそう驚いた様子で「殿下!!」と言って目を大きく開ける。
「この子は、生きようとしています!!」
力強く報告するゲンジの様子に、殿下と呼ばれた男も私を見つめる。
腕の中の小さな私から大きな生命力を感じると言うゲンジが、父である公爵に私を預けた。
父の腕の中にすっぽり収まる私。
「殿下!この子をお持ちください!!すぐに戻ってまいります!!」
公爵に短く告げたゲンジは部屋の入口へと走り、勢いよく扉を開けて出ていった。
何が何だか分からずに硬直する父と私。
思わず見つめあう二人だったが、お互い首をかしげるだけであった。
その様子が何だか面白かったのか、公爵は少し笑みを零し「そうか、お前は生きたいのだな!」と私に語りかける。
「戻ってまいりました!!今から施術を開始します!!」
ゲンジが医療道具の入った箱を抱えて、弟子数人と一緒に部屋へと戻ってきた。
驚く私を赤ちゃんベッドに寝かせたゲンジは、なにやら大きな本のようなものを横に並べて作業を進める。
公爵が「それは、制御魔法陣……」と難しい表情でその様子を見つめた。
「はい、この子にはこの魔方陣に耐えるだけの生命力があるかもしれません」
リルシュタイン公爵のほうを見ず、赤ちゃんである私と魔法書に向き合ったまま答えるゲンジ。
彼の説明によると、暴走した魔術師を鎮圧するための「制御魔法」を私の体内に埋め込むということであった。
赤子にそんな強烈な魔法をかけると、命そのものを封じ込めることになるというのが一般的理解である。
なので、「アルテミシア」として生まれた子供は生後間もなく死んでしまうのだ。
「アルテミシア」とは、簡単に説明すると「魔力過多症」であった。
常人に比べて数千倍の魔力を有したという、古の魔女アルテミシアを由来とする病である。
この病を背負って生まれてきた者が生き延びた例は過去にない。
私はそんな絶望的な状況で生まれたのであった。
生まれて間もない私を抱きかかえながら頭を抱えるという器用な真似をやってのけるのは、王家のお抱え医師であった。
この度エルメリア王国の公爵令嬢として生まれることになった私の初お披露目は、このお医者様である。
長年王家に仕える実力者のお爺ちゃん先生が、悩ましく声を出すにも理由があるのだ。
「アルテミシア……だと……?」
「アルテミシア」というワードに、我が父であるリルシュタイン公爵は立場など忘れて狼狽する。
公爵と医師の二人が「絶望」した様子で言葉を失っている状況に、頭はてなマーク状態なのは生まれて間もない私だけではなかった。
というか、生後すぐに理性と言語知覚能力を有していることがそもそも驚きではあるのだけれども。
「父上、アルテミシアとは何ですか?」
この場に流れる重苦しい雰囲気を打破して、皆の疑問に思っている「アルテミシア」について質問する少年。
彼は生まれてくる私の兄、つまりはリルシュタイン公爵家の長男であった。
妹を見に来た可愛いお兄ちゃんも、私や家の従者と同様に何が何だか分からないのである。
期待の女の子が生まれてきてお祝いムードとなるべき場が、葬儀の会場のような空気感をまとっていることに疑問があるのであった。
「ランスロット……、一度席を外してくれ」
沈痛な面持ちで息子に告げる公爵。
そして、他の侍従たちにも同様に退出を願う。
産後で疲れて眠っている母親は産婆やメイドたちに運び出され、この部屋には私と公爵、医師の3人のみが残った。
「ゲンジ殿、アルテミシアということは……この子はもう間もなく……」
今にも涙をこぼしてしまいそうな表情で、小さく震えながら話すリルシュタイン公爵。
ゲンジ殿と呼ばれた医師が「ええ、死んでしまいます……」と目を閉じて静かに言う。
悲しみから怒りを孕んだ表情へと変わる公爵は「それでも王国一の医者なのか!なんとか救うことはできないのか!」と怒声をあげた。
自らの実力不足を恨むゲンジは無言で佇む。
決して「できません」とは答えないが、おそらく助からない命なのであろう。
(いや、ちょっと待ってってば!生まれた瞬間に死が確定とかどんなハードモード転生なのよ!!)
何故か彼らの会話を理解できてる私は、「死ぬ」などと理不尽なことを言われて驚く。
ゲンジの腕の中でバスタオルのようなものに包まれて抱かれている私は、抗議の意を込めてゲンジの胸をバンバン叩いた。
その様子にゲンジはたいそう驚いた様子で「殿下!!」と言って目を大きく開ける。
「この子は、生きようとしています!!」
力強く報告するゲンジの様子に、殿下と呼ばれた男も私を見つめる。
腕の中の小さな私から大きな生命力を感じると言うゲンジが、父である公爵に私を預けた。
父の腕の中にすっぽり収まる私。
「殿下!この子をお持ちください!!すぐに戻ってまいります!!」
公爵に短く告げたゲンジは部屋の入口へと走り、勢いよく扉を開けて出ていった。
何が何だか分からずに硬直する父と私。
思わず見つめあう二人だったが、お互い首をかしげるだけであった。
その様子が何だか面白かったのか、公爵は少し笑みを零し「そうか、お前は生きたいのだな!」と私に語りかける。
「戻ってまいりました!!今から施術を開始します!!」
ゲンジが医療道具の入った箱を抱えて、弟子数人と一緒に部屋へと戻ってきた。
驚く私を赤ちゃんベッドに寝かせたゲンジは、なにやら大きな本のようなものを横に並べて作業を進める。
公爵が「それは、制御魔法陣……」と難しい表情でその様子を見つめた。
「はい、この子にはこの魔方陣に耐えるだけの生命力があるかもしれません」
リルシュタイン公爵のほうを見ず、赤ちゃんである私と魔法書に向き合ったまま答えるゲンジ。
彼の説明によると、暴走した魔術師を鎮圧するための「制御魔法」を私の体内に埋め込むということであった。
赤子にそんな強烈な魔法をかけると、命そのものを封じ込めることになるというのが一般的理解である。
なので、「アルテミシア」として生まれた子供は生後間もなく死んでしまうのだ。
「アルテミシア」とは、簡単に説明すると「魔力過多症」であった。
常人に比べて数千倍の魔力を有したという、古の魔女アルテミシアを由来とする病である。
この病を背負って生まれてきた者が生き延びた例は過去にない。
私はそんな絶望的な状況で生まれたのであった。
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