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第16話 汗臭き者たち

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 街の見学を終えて帰ってきた私たちは、再び長い廊下へと戻ってきた。
 城下町を長時間歩いてきたため、疲労困憊の私は「疲れたなあ」と一つ伸びをしながらあることを思い出す。

「そういえば、ガウェインは無事かしらね?」

 私たちが街に行っている間に、第3部隊の訓練に参加していたはずの男の事を気に掛けると「様子を見に行ってみましょうか」とアドルに言われた。
 第3部隊が使っている練兵所は、第2部隊が使うものとは違って「廊下の窓」からは見えない。
 なので、直接私たちが出向く必要があるというわけだ。

 廊下のメインストリートらしき太い直線から枝分かれして伸びる道をアドルが先導する。
 私たちは彼と一緒に少し歩き、ガウェインがいるはずの練兵所へとたどり着いた。

「あ、ガウェインがビッケと闘ってる……?」

 第3練兵所に着くや否や、私の視界に戦う二人の様子が移った。
 とりあえず、ガウェインが生きていたことにホッとしたのも束の間、彼の首元をビッケの剣が通過する。
 それに対して、ギリギリのところで躱したガウェインが避けるためにつけた勢いを利用して反撃していた。
 ビッケももちろん手に持つ盾でガードする。
 そこで一区切りついたのか、二人は構えを解いて「ふぅ」と一息つく。

「あ!魔王妃様だ!!」

 練兵所の入り口で、アドルやアリシアと並び立つ私に気づいたビッケは声をあげる。
 彼の少し幼い声が練兵所に響くと、他の魔物たちも動きを止めて「魔王妃様、お疲れ様です!」とその場で敬礼した。
 その様子を見て「あら、お邪魔しちゃったわね」と私は彼らに謝る。
 ちょうど区切りよく日も暮れる頃でもあったので、ここで今日の訓練は終わりとなった。

 軽く休憩をとってクールダウンしたガウェインや魔物たちが私たちの方へやってくる。
 「お嬢様!」と私に駆け寄るガウェインの足取りはいつもよりも重い。
 彼は昼休憩を一度挟んだとはいえ、朝から晩まで命がけの訓練をしていたので随分と疲れた様子であった。
 同じく疲労困憊の私も「ガウェイン、お疲れ様」と一歩前に出ようとするも、地面にある微妙な出っ張りに近づき前へと倒れこむ。

「おっと!」

 倒れこむ私をガウェインが両手で捕まえた。
 その様子に「だ、大丈夫ですかお嬢様!?」と心配するアリシア。
 ちょっと躓いただけの私は「ええ、ごめんなさいね」とすぐにガウェインから離れる。
 その時にガウェインから「あぁ……」と残念そうな声が聞こえてきたような気がするが気にしない。

 私たちは複数の魔物たちと共に練兵所を後にし、広い廊下を歩いていた。
 ガウェインや魔物たちは訓練で汗を流しており少し臭う。
 私も街を練り歩いて正直少し汗ばんでいる状態なので、あまり人のことは言えないが。
 魔王の花嫁とその騎士やメイド、魔王軍宰相に第3部隊の隊員達。
 その誰もが必要最低限の礼儀と立場はわきまえながらも、共に談笑しながら廊下を歩く。
 私は部活帰りの青春みたいな雰囲気を感じて、なんだか懐かしい気持ちが込み上げてくるのであった。

 しばらく歩いているとアドルが思いついたように言う。

「魔王妃様方人間も、湯に浸かる文化はありますか?」

 彼の発言と汗臭い空気感から、私はいろいろと察した。
 そして、おそらく「大浴場」のようなものが存在するということを知って思わず頬が緩む。
 アドルの物言いに対してアリシアが「人間は同胞を茹でたりはしませんわ」となにやら残虐なことを言っている。
 違う、そうじゃない。

「私たちの国には浴槽に入る文化はなかったけれど、入れるなら是非入りたいわ!」

 アドルの提案に喜んで答える私。
 公爵家のお荷物であった私が「わがまま」を言うわけにもいかなかったので、お風呂の増築は諦めていたのだ。
 ゆえに、まさかの魔王城で入浴できることになると思っていなかった私は歓喜する。
 そして、上機嫌で「茹でられに行きたがる主人」を困惑の目で見つめながら二人の侍従は歩くのだった。


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 アドルに連れられて大浴場へとやってきた一行は、男女に分かれて脱衣所へと向かう。
 途中で魔族のメイドから貰ったタオルと石鹸を手に持つアリシアは「シャワーのほかにも入浴というものがあるのですね」と不思議そうにしていた。
 というのも、エルメリア王国では誰かと一緒にお風呂に入る文化がないのである。

 つまり、実は私はアリシアの「裸」を見たことが無いのである。
 その可愛らしい布の下には、それはそれは凶悪な「禁断の果実」がたわわに実っているのでしょうな。
 ヒッヒッヒ。

 セクハラに燃えるおじさんの様に、アリシアに見えないように両手をワサワサと動かす私であった。



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