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番外編4 魔王軍第3部隊の演習に参加するガウェイン
しおりを挟む俺はガウェイン。
ウィリアムス伯爵家の次男であり、今はエルメリア王国公爵家の長女であるメルヴィナ様にお仕えしている。
色々と話せることはあるが、お嬢様の騎士という立場には凄く満足しているので、俺の身の上話はここでは割愛しておこう。
「あんなに激しく訓練してるけど、近々戦争でもあるわけ?」
魔王城の廊下を歩くお嬢様が、窓の外で激闘を繰り広げる魔王軍の魔物たちを見て声をあげる。
お嬢様やアリシアさんは、激しくぶつかり合う魔物たちの様子に驚いているようだった。
アドラメレク宰相殿によると、アレで「第2部隊」であるらしい。
「訓練……」
武人として生きてきた俺にはわかる。
彼らはただ「強い魔物」なんて代物ではない。
恐ろしく練度の高い「兵隊」である。
練兵所の端のほうで戦っている狼のような獣人の鋭い踏み込み一つとっても、今の俺どころか王国の近衛騎士団にも受けきれる奴はいないだろう。
「あれを受け流せるのは団長だけかもしれない……」と俺は戦慄するのだった。
「ねえ、あの訓練ってガウェインも参加できるの?」
俺が魔王軍の実力を目の当たりにして弱気になっていた時、前方でお嬢様が宰相殿に提案していた。
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ひとまず俺は「第3部隊」の演習に参加してみることになった。
昨日廊下ですれ違った「白い犬」の魔物もそこに所属しているらしい。
ただ、彼の場合は第3部隊の中でも「斥候部隊」として活動しているので、純粋な戦闘員ではないということだった。
「ここが第3練兵所でございます!それではお気をつけて!」
人間から見ても美人な狸のメイドさんに案内され、俺は訓練の現場へと到着した。
去り際にメイドさんは「頑張ってくださいね!」と俺にほほ笑えむ。
こうして接すると魔物も人間とあまり変わらないなと思う俺であった。
「間近に見ると更に迫力があるな……」
大きな扉の向こうの光景に俺は圧倒される。
扉の近くでうろうろしていた白い犬が「あれ?魔王妃様と一緒にいた騎士様だよね?」と俺に近づいてきた。
確か「ビッケ」という名前だったはずである。
俺はビッケに訓練に参加させてほしいと伝えると、彼は「わかったよ!隊長に聞いてくるね!」とドタドタ走っていった。
「第2部隊ほどではないが、第3部隊も精鋭ばかりじゃないか……」
そこかしこで響く金属がぶつかり合う音や、砂ぼこりが舞う訓練場の雰囲気は穏やかではなかった。
兵隊の総数は人間達よりも遥かに少ないが、こんな連中が攻め込んできたら王国はひとたまりも無いな。
それから少しすると、先ほど上司に確認を取りに行ったビッケが俺のもとへと帰ってきた。
「おまたせ!とりあえず手の空いてる僕と組手をしててって言われたよ!」
彼はオーソドックスな騎士の装備である「剣」と「盾」を持って現れた。
俺はビッケから装備を受け取ると、その場で武器を握った感触を確かめる。
王国で扱っていたものよりも少し重たいが、魔物たちの筋力を考えれば納得のいく重量であった。
お互いに準備が完了すると、早速訓練を始めることになった。
少し距離を取った後に、剣と盾を構えて開始の合図をする。
「それじゃあ、始めようか」
戦闘開始の合図の後、先ほどまでのフワフワした雰囲気がビッケから消える。
その時、俺はこの白い犬を侮っていたことに気づく。。
次の瞬間、俺の懐に潜り込んできたビッケは剣を突き出し、最短距離で心臓を狙ってきた。
彼の容赦のない一撃をギリギリのところで躱した俺は、相手の剣の横っ腹を剣で叩いて弾く。
すると、剣が弾かれることを読んでいたビッケは盾を構えて俺に体当たりしてきた。
「くっ、危ねえ!!」
汗臭い訓練場に、鉄と鉄がぶつかり合う鈍い金属音が鳴る。
咄嗟に盾を構えて防御する俺は、ビッケに力負けして後方に弾き飛ばされた。
騎士団での訓練では見られない「本気の一撃」を垣間見た俺は、少しでも油断したら「殺される」と認識を改める。
しかし一方で、打ち合いを制したビッケは「僕は第3部隊で一番弱いから手加減ができないんだ!」と楽しそうに笑っていた。
これが魔王軍の「兵士」か……。
こうして、ガウェインは一撃ごとに確かに自分が成長していく手ごたえを感じていくのであった。
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