幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ

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第29話 獣人親子の驚異的な体力

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 「最近あまり娘とも過ごせていなかったからな」と腕の中の私に語り掛けてくるシグマ。
 親子の団欒風景のようなものを見せられた私は「家族旅行じゃなくて任務なのは理解してるわよね?」と問いかける。
 もちろん理解しているぞと言うシグマではあったが、私を持つ手とは反対の手でニャルラの頭をくしゃくしゃと撫でている様は旅行前のパパのそれであった。

「シグマ殿、廃城の位置はわかりますよね?」

 アリシアと一緒に見送りに来ていたアドルがシグマに尋ねる。
 「廃城」とは、かつての大戦時に邪神教の主「フェイリス」が封印された場所であった。
 当時の封印の時にその場に立ち会ったというシグマは「忘れるはずもなかろう」と私を持ってないほうの拳を固く握る。
 おそらく、大戦を知る彼らにしか分からない過去もあるのだろう。

「それじゃあ、行ってくるかのう」

 私を抱えたシグマが見送りに来ていた面々に手を振って背を向ける。
 ニャルラとガウェインもそれぞれ荷物を持ってそれに続く。
 というか、ニャルラの背負ってる荷物が巨大過ぎて山のように見えるのですが……。

「シグマ、無茶するんじゃないわよ」

 グレイナル山脈に向かって歩き出そうとした私たちに声をかける魔物がいた。
 吸血姫のヴァネッサである。
 会議の時の高飛車な様子を感じさせない彼女からも、シグマと同様に大戦時の記憶が深く刻まれているのかもしれない。
 彼女の声かけに振りかえらずに「留守の間、第一部隊の連中をまかせる」と答えるシグマ。

「いや、私も調査活動で留守にするからいないわよ?」

 その場の雰囲気で格好つけたシグマは、ヴァネッサも邪神教について調べなければならないことを忘れていた。
 そんなシグマに対して「パパ、格好悪いにゃ」と横で呟くニャルラ。
 なんだか締まらないスタートではあるが、一応「精鋭隊」の初陣が始まったのだった。


----


 私を抱えるシグマと巨大な荷物を背負うニャルラは軽快な足取りで森の中を駆ける。
 それにワンテンポ遅れて、ガウェインが必死に後を追っていた。

「ガウェインちゃんとついてきてるかしら……」

 シグマの腕の中の私も、頬をかすめる空気に恐怖すら覚えるスピード感を感じていた。
 時々飛んでくる小石や葉っぱなんかは、シグマの腕によって粉砕されている。
 余裕綽々な虎と猫の親子は、異常な動体視力と反射神経で飛来物を対処しつつ呑気に世間話を楽しんでいた。
 一方、少し後ろを必死についてくるガウェインは額に汗を浮かべて会話に混ざる余裕などなさそうである。
 その様子を見て私は、魔王軍第一部隊隊長とその娘の実力を肌で感じ取るのであった。

 魔王城を離れてから1時間程度森の中を駆けたころ、不意にシグマが「そろそろ休憩するか」と足を止める。
 シグマの隣を並走していたニャルラが「ニャ?もう休むのかニャ?」と不思議そうな顔で呟いた。
 少し遅れて力強く地面を踏んで止まるガウェインは、肩を上下させて滝のような汗を流している。
 その様子を見たニャルラは「あ、そういうことかニャ」と手のひらの上に拳をポンとのせた。

「あなたたちって本当に規格外なのね……」

 魔王軍のエリート戦闘員たちの化け物じみた体力に呆れる私であった。
 少し呼吸が整ってきたガウェインも申し訳なさそうに「すみません、もう走れます」とシグマ達親子に頭を下げる。
 しかし、その様子を見たシグマがすぐに移動を再開する様子はなかった。

「ガウェイン、お主は重心も魔力も乱れておる」

 厳しい表情でガウェインに近づくシグマは、一瞬足先が動いたと思ったら急に視界から消える。
 私はその様子を見て、コンマ1秒の間に何が起こったのか分からなかった。
 そして次の瞬間にはガウェインが地面に尻餅をついていることに私は気づく。
 シグマに転ばされたガウェイン本人も何が起こったのかわかっていない様子であった。

「今のは、ガウェインの重心を崩しただけだ」

 転んだガウェインの手を取って、彼を起き上がらせるシグマ。
 シグマは特に力もいれていなく、指で軽くつんと押しただけであるらしい。
 ただ、視界の外から「魔力の強度が弱い部分」を狙って触ったということであった。
 これが「重心」と「魔力」が乱れているといった理由であるという。

 戦闘や武術に関しては門外漢な私は「いったい何の話よ?」と思いながら近くの石に腰かけるのであった。
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