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第53話 嵌められた者たち
しおりを挟む「なに!?すると、邪神教と手を組んでいる人間達がいるということか!?」
人間が邪神教の四天王と会っていたと聞いたシグマは、鍛え抜かれた両腕で机を叩き立ち上がる。
その様子を横で見ていたヴァネッサは「落ち着きなさいって!」と軽くジャンプしてシグマの頬を思いっきり引っぱたく。
はたく威力が凄まじすぎて周囲の空気が痺れるように揺れる。
魔力に加え、身体能力も化け物級の吸血姫の張りては非戦闘員である文官や私には目視できない速度であった。
ヴァネッサにビンタされて冷静になったシグマは「大戦時に共に手を取り合ったことを忘れたのか……」と人間に文句を垂れている。
人間である私の感覚的には「そんなこと覚えているどころか、そもそも知らんわ」と心の中で突っ込みを入れるのだった。
スターチアの話にはまだ続きがあった。
その様子を見た彼女たち3人は、このまま尾行するか今の内にバハムートと女を仕留めるか迷ったらしい。
大戦当時からの強者である3人が全力を出せば、不意打ちで四天王を仕留められるという考えに至ったわけだ。
しかし、なかなか決断できないでいると女とバハムートの短い密談は終わりを告げたという。
「そこで女の方は私が、バハムートの方はドレイクとヴァネッサが尾行することになったわけです」
比較的戦闘の危険が少ないだろう人間の方はスターチアが単独で後をつけることになったらしい。
そこで、その女に近づいて素性を調べ上げようと考えたスターチアは、得意の変装術で一般成人女性に成りすまして尾行を続けたという。
身体を自由に整形して姿かたちをある程度変化させられる能力こそ彼女が「土塊」と呼ばれる所以でもある。
「彼女を追いかけていくと、教国の宮殿へとたどり着いたのです」
森から抜けた女は教国に入り、そのまま宮殿へと向かっていったという。
そして、宮殿の前の広場を通るころに問題は起こったらしい。
突然辺りが暗くなり、民衆が空に向かって何やら叫び声をあげたという。
そして、何事かと思って上を見上げたスターチアはすぐに状況を理解したらしい。
「破壊竜バハムートが街の上空を飛んでいたのです」
昼間なのに周囲が突然暗くなったのは、広場がバハムートの影になっていたからだったわけである。
そして宮殿の入り口にたどり着いた女は、なにやら豪奢な法衣のようなものを着た男に倒れこんで大袈裟に怯えた芝居を打ったという。
それを受けて法衣の男が「エレナ!大丈夫か!?」と彼女を抱きかかえて心配していたらしい。
そこまで聞いた私は聞き覚えのある名前が出てきたことに驚くが、とりあえずスターチアの話を聞き続けた。
「そのあと、バハムートは私や女のいる広場に降りてきたのです……」
そして、その時に間違った選択を取ってしまったと彼女は自らを責めるように言葉を掃き出す。
巨大な竜であるバハムートが降りてきた広場にいた民衆は、皆一様に驚き錯乱したという。
そして、人間達が踏みつぶされないように逃げ惑う混乱に乗じてスターチアもその場を離れるべきだった。
しかし、彼女が動き出そうとしたときにあるものが目に留まったという。
「逃げ遅れた人間の子供が竜に踏みつぶされそうになっていたのです……」
魔王軍の第3部隊の隊長でありながらも、心優しく真面目な性格のスターチアはその子供を見捨てることはできなかったという。
魔物特有の身体能力で子供を抱え込んで、間一髪でバハムートの下敷きになるのを防いだのだった。
しかし、それによってバハムートにスターチアの存在を気づかれてしまったという。
姿形は変装していたため分からないだろうとスターチアは思っていたのだが、大戦時に嫌というほど戦った宿敵の魔力をバハムートはしっかりと覚えていたらしい。
彼女の方に首をクルッと向けたバハムートは「おお!やはり土塊のスターチアか!久しぶりだなあ!」と朗らかに笑った後に宮殿の入り口の方に足を動かしたという。
「そして、エレナと呼ばれた女が何やら一芝居打った後にバハムートが彼女を攫って行ったのですが……」
そのあとが問題だったというスターチア。
あろうことか、バハムートは自らを「魔王軍の誇る破壊竜バハムートとは俺の事だ!!そして、ここにいる魔王軍の土塊のスターチアは俺を宮殿まで案内してくれた!!」と高らかに叫んだのだった。
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