幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ

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第72話 料理長の演武

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「これが魔王妃様の身体ね、そんでこの粒々が魔力粒とするよ」

 私とロキが世間話をしているうちに、ラティスは黒板に説明用の図を描き上げていた。
 妙にリアルで上手な人体の絵と、身体のあちこちに散らばってついている「魔力粒」の様子が黒板上にある。
 私が彼の精巧な絵に「ほぅ」と感心していると、横にいるロキが「お医者さんだからですかねえ」と先読みの相槌を打つ。
 一瞬彼の理論に納得しかけた私であるが「魔物達ってみんな体のつくりが微妙に違うよな……?」と小さな疑問を抱えるのだった。

「まず、歩行術を使うためにはどうすればいいと思うオーキンス?」

 教師役のラティスは、小さな机と椅子に収まりきっていないオーキンスに質問する。
 それに対してオークの料理長は「そりゃあ、疲れないように動きたいんだからなあ……」と呟いて少し考えていた。
 厨房で悩んでいる時の様に腕を組んで「ううむ」と唸るオーキンスの姿は、ここ最近で既に見慣れたものである。
 ただ、一緒に授業を受けている人狼隊の部下たちは物珍しそうにその様子を見ていた。

「動かしたい部位に魔力を溜めることだな」

 唸りをあげて考えた割には意外とあっさりとした回答が返ってきたことに私は驚く。
 オーキンスの答えに他の人狼たちは「うんうん」と頷いているあたり、おそらく間違っているわけではないのだろう。
 微妙に納得がいかない様子の私を見たロキは「料理長や他の隊長達、あとこいつら部下たちも結構『感覚』で使ってるんすよ……」と小声で私に耳打ちするのだった。
 つまり、歩行術の使用や戦闘スキルに関しては持って生まれた武人としての『センス』みたいなものに頼っている側面が強いのだという。
 何となくとはいえ、原理っぽいものを一応理解できているオーキンスや部下の人狼たちはまだ「賢い」部類に入るのだろう。

「まあ、正解かな」

 とりあえず及第点といった様子でオーキンスの回答を評価するラティス。
 それに対して小さくガッツポーズをするオーキンスはなんだか少年のようで微笑ましかった。
 喜んでいるオーキンスに黒板の前に出てくるように言ったラティスは、実際に「歩行術」を見せてみなさいという。
 そして、褒められて気を良くしているオーキンスは「おう!」と喜び勇んで前へと出ていった。

 まずは歩行術「なし」での演武を見せてくれと指示するラティス。
 どうやら、歩行術の有る無しでどんな変化が現れるのかということを実際に見せてくれるらしい。
 私としては、学校の授業のようなスタイルで技の紹介をしてくれるラティスの教え方はありがたい。
 グレイナル山脈を越える途中でガウェインにシグマが教えていたやり方では困る。
 典型的な文科系人間の私には、運動神経に訴えかけるスパルタ教育は向いていないのだ。

「それじゃあいくぜ」

 そう言うと先ほどの組手で振り回していたハルバードのような武器をブンブンと振り出すオーキンス。
 そして私や人狼たちは、彼の武術レベルが著しく優れていることを理解することとなる。
 歩行術の凄さを確認するための演武であるはずなのに、歩行術なしの演武に見とれてしまっているのだ。
 魔物的なサイズ感をもってしてもデカいオーキンスよりもさらに大きい武器を振り回す姿に一切の隙が無いのである。
 
「お前ら、よく見とけよ。軍の隊長格達とはまた違ったタイプだからな」

 オーキンスの見本動作を見ている人狼たちにロキが注意する。
 ロキが言うには、オーキンスは武器の扱いが恐ろしくうまいのだという。
 純粋に戦闘センスが天才的な獣人シグマや、種としての能力が異常に高い竜人ドレイクとは違い、理論と実践が程よくミックスされたオーキンスの武術は魔王軍には珍しいタイプらしい。
 というか、魔王軍は「脳筋」が多すぎるのよね。

「こんな人が一介の料理人だった時代ってどんな時代だよ……」

 授業に参加している人狼の一人がボソッと声を漏らす。
 それを聞いたロキも「俺も話には聞いてたが、これほどとは……」とオーキンスの腕前に息を飲んでいた。
 先ほどの対部下組手は「一撃」で終わってしまったため、私たちは彼からあまり情報は得られなかったのである。
 戦闘素人である私ですら「大戦期」に生きた魔物のすさまじさを感じざるを得なかった。
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