幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ

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第73話 魔王妃ブーム?

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「……ふぅ、結構ナマってるなやっぱり」

 武器を振り終えたオーキンスが肩にハルバードを載せて一息つく。
 あまりにも見事で拍手も出ずに沈黙する一同だった。
 
「それじゃあ次は『歩行術』全開でいくぜ?」

 オーキンスがそう言うと、彼の身体から「オーラ」のようなものが迸りモヤモヤと青白く光り始めた。
 力があふれ出すオーキンスの周辺にはゴウゴウと上昇気流のような土ぼこりが湧き上がる。
 先日の山越えで簡易的とはいえ「魔力感知」を教わっていた私は、彼から感じる恐ろしい程の「力」に驚くのであった。
 私の机の上に大人しく陣取っていたワタアメも、耐えきれずプルプルと震えながら私の膝の上に転がり込んでくる。
 

「俺は……この光を一回だけ見たことがありますねえ……」

 オーキンスの全開オーラを肌で感じ、鳥肌の様に全身の毛を逆立てながら喋るロキ。
 眉をひそめて何かを思い出している彼は「あれは隊長とグレイナルの奥地に行った時だったな……」と震えている。
 他の人狼たちも先ほどの組手の時よりも遥かに激しいパワーに、開いた口がふさがらない様子であった。
 そして私は、光り輝く料理長と震える人狼たちを見ながら「歩行術って全然『歩行』関係ないじゃない!」と心の中でツッコミを入れて平静を保とうと努力するのだった。


----


 メルヴィナ達が訓練場で震えている同刻、一仕事終えた魔物達は城に帰還していた。

「そういやあ知ってるか?」
「何がだよ」
「いやな、魔王妃様が第2訓練場で人狼のロキに戦闘指南を受けているって話」

 背の高いトカゲの魔物が、横を歩く相方の猫獣人に話を投げかける。
 訓練場で魔王妃が訓練をしているとあちこちで話題になっているようであり、そこかしこで魔物達は噂話をしていた。
 御多分に漏れず、このトカゲたちも現在ホットなネタについて話している。

「しかしなあ、噂だと料理長とお医者さんも参加してるっていうんだよなあ……」

 うーんと唸りながら解せぬ表情で言葉を続けるトカゲ。
 彼の言い分では「本当に戦闘訓練なのか?」という疑問が残るらしい。
 歩きながらそれを聞いていた猫獣人も「たしかにな……」と納得するのだった。
 仕事も終わって食堂で一息つくかと思っていた二人であったが、妙なもどかしさが胸に残りなんだかスッキリとしない。

「そもそも、魔王妃様って戦闘以前に『虚弱』だって聞いたことがあるけどなあ……」

 意外にも情報通のトカゲが魔王妃についての情報を次々と公開していく。
 それに対して猫獣人は「お前も魔王妃様について詳しいのかよ!」とツッコむのだった。
 最近の魔王軍では一部で空前の「魔王妃様」ブームが巻き起こっているらしく?妙に詳しい連中が増えているらしい。
 そんなわけで魔王妃についての噂話を近頃よく聞く二人もだんだんと彼女に興味を持つようになったのだった。

「おい、あの人だかりはもしかして……」

 廊下を歩く二人は、件の第2訓練場へと続く道に魔物達が集まっているのを見つけた。
 恐らくは「魔王妃の訓練」の見学だろうと二人とも察する。

「俺達も見に行くか……って」

 猫獣人が声をあげた時には既にトカゲが走り出していた。
 それに続いてもう一人も短い手足をバタバタと動かして後を追う。
 少し日が陰り始めた夕方の魔王城の廊下には、放課後の喧騒のような微笑ましい光景であふれているのだった。


----


「あとさあ、なんか見学者が増えてないかしら……?」

 歩行術全開で演武を披露するオーキンスを見るために集まった観客達が増えていることに気づく私。
 スカスカだった訓練場も既に普段の様相を呈し始めていた。
 オーキンスのオーラに気を当てられながらも「実は姫さんの訓練に興味を持っている魔物が多くてですねえ……」とロキが答える。
 彼の話では「魔王妃を見に来たが、料理長がなにやらすごいことになってる」といった感じで人が集まっているのではないかということだった。

「たしかに、基本的に魔王軍の兵士達は『武術』に関心があるからね」

 私が周囲を見渡すと、オーキンスの槍捌きに熱狂する屈強な魔物達の姿が多数見受けられた。
 彼らは口々に「すげえ!」だとか「なんだあれ!」とか興奮した様子で叫んでいる。
 それとは対照的に、実際にそのオーラの餌食となった人狼たちは恐怖の表情で見ていた。
 どちらかというと私も人狼たちと同じような心持である。

 盛り上がる会場はオーキンスの演武が終わると同時に最高潮を迎える。
 あちこちから歓喜の声が上がり、当事者の料理長もまんざらでもない様子であった。
 そんな雰囲気の中、熱狂する人々の山を切り分けるように何者かが私たちの方へと近づいてくる。
 パワー系の騒がしい魔物達が大人しく道を開けているあたり、おそらくは隊長格もしくはそれに準ずる者であろうか。

「腕はナマってないようだなオーキンス」

 人垣の中から現れたのは、全身が硬い鱗に覆われている竜人であった。
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