幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ

文字の大きさ
81 / 91

第75話 ラティスの実験

しおりを挟む


 魔王妃である私の戦闘訓練の補佐を務めるオーキンスと、その見学にやってきたドレイク隊長が模擬戦をやるという空気が現場には流れていた。
 しかし、あくまでも私の訓練であるため、その話はお流れになりかけていた。

「いや、魔王妃様の訓練にも役立つ『技』を試しておきたくてね……」

 だが、そこにラティスによるカットインが入ったのであった。
 どうやら、ラティスが新しく開発した技とやらは「私の訓練」に役立つらしい。
 しかし、その矢面に立たされているロキの渋い表情を見るに、あまり幸せな未来は見えない。
 というか、確実に苦しい未来が待っているはずだわ。
 そうに違いないわ。

「おいおい、また新しい技を開発してたのか……」

 純粋に疑問を感じているオーキンスがラティスに問いかける。
 医者と料理人と立場は違うとはいえ「軍人ではない」という立ち位置に関しては似たようなものである二人。
 自分と同じようなポジションのラティスが、常日頃から大戦を意識して「技を開発」していることに感心はしているオーキンス。
 オーキンス自身も魔王妃に教えを請うたり、厨房で試行錯誤することで「新しい世界」に突入していることは実感している。
 しかし、料理とは違い命のやり取りで使う「技」を、当時とは違う今の温い環境で「本当に開発できるのか?」とこの料理人は感じているのだ。
 彼だけではなく、大戦期からラティスの事をよく知っているドレイク隊長も目を見開いてラティスの方を見ていた。
 周囲で様子を見学していた野次馬の魔王軍兵士たちも「新技だってよ?」「この人はまだ進化するのか……」と半ば呆れ混じりに驚愕していた。
 
「新しい技って、治療術がまた増えたのかラティス?」

 かつてのラティスをよく知るオーキンスが言う。
 現在でも二人は仲が良いらしいが、それでもオーキンスは「新技」の存在など知らなかったらしい。
 なので、彼は当然ラティスが「医療術」を開発しているものだと思っている。
 ドレイクも「何でも治す軍医は健在だな」とラティスの熱心な研究に感心していた。
 
「いや、今回は戦闘用の技だよ」

 飄々とした様子のラティスから出た言葉は意外なものであった。
 それを聞いていた周囲の魔物達も「戦闘用だと!?」とざわつき始める。
 ラティスの言葉に興味がわいたのか、生粋の武人であるドレイクは楽しそうに体を伸ばし始めた。
 それを横目で見ていたロキは「ああ、これはもう逃れられない……」と自らの辿る運命に観念したようである。

「戦闘技って、お前まだ魔法開発を続けていたのか……」

 当時の大戦期におけるラティスの活躍ぶりをよく知るオーキンスは、彼が未だに戦闘用の魔法を開発していたことに驚きを隠せない。
 動揺しつつも手に持っていたハルバードを強く握り、ブンブンと振り回しながら構えを取ったオーキンス。
 彼の隣に立つドレイクも「俺もオーキンスも丈夫だ。全力で試してみろ」と嬉しそうに笑みを浮かべていた。
 彼らの熱気に当てられてか、会場の空気も暖まっていき、すぐにでも組手が始まりそうな雰囲気となっている。
 
「魔王妃様、ごめんね。もうちょっと待っててね」

 こちらを振り返り、ニコリと笑って少し頭を下げたラティスから申し訳なさは感じなかった。
 というより、彼からは「漸く実戦で試せるぞ」というワクワクした様子しか伝わってこない。
 目を閉じて「よしっ!」と無理やり気合を入れているロキを見るに、あまり碌な技ではないのだろう。
 一応どんな技なのか気になった私はこっそりと隣にいるロキに聞いてみるのだった。

「ねえ、ラティスの言ってる新技ってどんな魔法なのかしら?」

 私の素朴な疑問に対し、顔色が悪いロキから「代償が大きい技でしてね……」と答えが返ってくる。
 しかし、それでも実践では役に立つ強力な魔法ならば心強いのではと私は思った。
 だが、そんな私のお気楽な考えを消し飛ばす台風のような強い言葉が耳に入ってくる。

「お二人さん、本気で戦って大丈夫だからね」

 ラティスから相対するオーキンス達に贈られた言葉であった。
 私は彼の声を聞いて大事なことを忘れていたことに気づく。
 そう、ロキの組手の相手が「化け物2名」であるということである。
 さらに、ロキから得た「代償が大きい」という新作魔法の情報を鑑みるに、おそらく「ロキの負担」がヤバイのだろう。

「初めての実戦が化け物2人相手なわけでしてね、いやぁ、まいりましたよ……」

 青い顔で猫背のまま戦場へと赴くロキは去り際に「骨拾いは頼みましたよ……」と残していった。
 そんなくたびれた様子の彼を見て、私は他人事のように心の中で合掌するのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男として育てられた公爵家の令嬢は聖女の侍女として第2の人生を歩み始めましたー友人経由で何故か帝国の王子にアプローチされておりますー

高井繭来
恋愛
ルーシュ・サウザント・ドラゴニアは公爵家の第8子だった。 武で名をはせたドラゴニア家には上に7人の姉。 待望の男児が生まれなかったドラゴニア公爵はルーシュを男児として育てる。 男として育てられたルーシュは剣と魔法の才能を発揮し12歳にして国家聖騎士団の一員となり功績を積むが、父より届いた手紙で全てを失う。 『待望の男児が生まれたから明日から女として生きろ』 こうしてルーシュは神殿仕えの身となって聖女の侍女となった。 ウザい聖女に絡まれながらもルーシュは今日も侍女としても務めを果たす。 侍女として働く一方で魔獣の王都侵入を防いだり、曲者の親友が家出してきたせいで何故か大帝国の王子に見初められたりと第2の人生は波乱万丈だった。 ※聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~とリンクしています。 ※ちょっぴり題名変えました。  カテゴリ【恋愛】に変えました。  ファンタジーだけど恋愛が中心になってきてしまったので(;^ω^)

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

処理中です...