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第75話 ラティスの実験
しおりを挟む魔王妃である私の戦闘訓練の補佐を務めるオーキンスと、その見学にやってきたドレイク隊長が模擬戦をやるという空気が現場には流れていた。
しかし、あくまでも私の訓練であるため、その話はお流れになりかけていた。
「いや、魔王妃様の訓練にも役立つ『技』を試しておきたくてね……」
だが、そこにラティスによるカットインが入ったのであった。
どうやら、ラティスが新しく開発した技とやらは「私の訓練」に役立つらしい。
しかし、その矢面に立たされているロキの渋い表情を見るに、あまり幸せな未来は見えない。
というか、確実に苦しい未来が待っているはずだわ。
そうに違いないわ。
「おいおい、また新しい技を開発してたのか……」
純粋に疑問を感じているオーキンスがラティスに問いかける。
医者と料理人と立場は違うとはいえ「軍人ではない」という立ち位置に関しては似たようなものである二人。
自分と同じようなポジションのラティスが、常日頃から大戦を意識して「技を開発」していることに感心はしているオーキンス。
オーキンス自身も魔王妃に教えを請うたり、厨房で試行錯誤することで「新しい世界」に突入していることは実感している。
しかし、料理とは違い命のやり取りで使う「技」を、当時とは違う今の温い環境で「本当に開発できるのか?」とこの料理人は感じているのだ。
彼だけではなく、大戦期からラティスの事をよく知っているドレイク隊長も目を見開いてラティスの方を見ていた。
周囲で様子を見学していた野次馬の魔王軍兵士たちも「新技だってよ?」「この人はまだ進化するのか……」と半ば呆れ混じりに驚愕していた。
「新しい技って、治療術がまた増えたのかラティス?」
かつてのラティスをよく知るオーキンスが言う。
現在でも二人は仲が良いらしいが、それでもオーキンスは「新技」の存在など知らなかったらしい。
なので、彼は当然ラティスが「医療術」を開発しているものだと思っている。
ドレイクも「何でも治す軍医は健在だな」とラティスの熱心な研究に感心していた。
「いや、今回は戦闘用の技だよ」
飄々とした様子のラティスから出た言葉は意外なものであった。
それを聞いていた周囲の魔物達も「戦闘用だと!?」とざわつき始める。
ラティスの言葉に興味がわいたのか、生粋の武人であるドレイクは楽しそうに体を伸ばし始めた。
それを横目で見ていたロキは「ああ、これはもう逃れられない……」と自らの辿る運命に観念したようである。
「戦闘技って、お前まだ魔法開発を続けていたのか……」
当時の大戦期におけるラティスの活躍ぶりをよく知るオーキンスは、彼が未だに戦闘用の魔法を開発していたことに驚きを隠せない。
動揺しつつも手に持っていたハルバードを強く握り、ブンブンと振り回しながら構えを取ったオーキンス。
彼の隣に立つドレイクも「俺もオーキンスも丈夫だ。全力で試してみろ」と嬉しそうに笑みを浮かべていた。
彼らの熱気に当てられてか、会場の空気も暖まっていき、すぐにでも組手が始まりそうな雰囲気となっている。
「魔王妃様、ごめんね。もうちょっと待っててね」
こちらを振り返り、ニコリと笑って少し頭を下げたラティスから申し訳なさは感じなかった。
というより、彼からは「漸く実戦で試せるぞ」というワクワクした様子しか伝わってこない。
目を閉じて「よしっ!」と無理やり気合を入れているロキを見るに、あまり碌な技ではないのだろう。
一応どんな技なのか気になった私はこっそりと隣にいるロキに聞いてみるのだった。
「ねえ、ラティスの言ってる新技ってどんな魔法なのかしら?」
私の素朴な疑問に対し、顔色が悪いロキから「代償が大きい技でしてね……」と答えが返ってくる。
しかし、それでも実践では役に立つ強力な魔法ならば心強いのではと私は思った。
だが、そんな私のお気楽な考えを消し飛ばす台風のような強い言葉が耳に入ってくる。
「お二人さん、本気で戦って大丈夫だからね」
ラティスから相対するオーキンス達に贈られた言葉であった。
私は彼の声を聞いて大事なことを忘れていたことに気づく。
そう、ロキの組手の相手が「化け物2名」であるということである。
さらに、ロキから得た「代償が大きい」という新作魔法の情報を鑑みるに、おそらく「ロキの負担」がヤバイのだろう。
「初めての実戦が化け物2人相手なわけでしてね、いやぁ、まいりましたよ……」
青い顔で猫背のまま戦場へと赴くロキは去り際に「骨拾いは頼みましたよ……」と残していった。
そんなくたびれた様子の彼を見て、私は他人事のように心の中で合掌するのであった。
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