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イルフェルト視点
しおりを挟む俺が、森に入ったのは偶然だった。強いていえば、騎士団の仕事が休みになり暇だったということだろう。とはいえ、まさか少女が一人でいるとも思わなかったが。
俺が気付いたのは、滅多にない人の足跡を見つけたからだ。それも、一人分の。何かあったとしか思えない足跡を辿ってみれば、その少女はコボルトに囲まれていた。咄嗟に助けに入り、コボルトを斬ると、恐る恐るといったように、彼女は目を開いた。
「おい、大丈夫か!」
小さな子どもが森に一人でいるなんて普通ではない。大丈夫なはずはないのだが、そんな声を掛けていた。
「はい、お陰様で。助けていただいて、ありがとうございます」
魔物に襲われたばかりだ。怖いだろうに、その少女は何事もなかったかのように落ち着いて返答を返してくる。
「……一人でここまで来たのか。家は?どこから来た?両親はどこにいる?」
まくし立てるように質問をすると、少女は少しだけ首を傾げ、答えた。
「一人ですよ。両親はいませんし、アクアポート王国は、国外追放って言われちゃいましたから」
その表情は、とても国外追放されたそれではなかった。それだけ、この少女にとってその国は……。
「それは……。済まなかった」
「別に気にしていませんから。それにしても、騎士様は何故ここに?」
少女はやはり、笑顔を作りながら問いかけてくる。……よくよく見ると、手入れされている金色の髪に、澄んだ青の瞳。そして、服装も外套は身にまとっているが、その下の服はとても良いものであるように見える。
「……魔物が増えすぎないよう、間引きをしている。行くぞ」
「え?」
「……歩けないのか?ならば」
「い、いえ!歩けます!でも、その。行くってどこにです?私、多分今日は役に立ちませんよ?」
今日は、という言葉に引っかかりを覚える。まるで、明日になれば別とでもいうような言い方だ。
「ラーストリアだ。帰る場所がないのだろう」
「ありがとうございます、騎士様!」
騎士様、という呼び方に、今更ながら名前を教えていなかったことに気付く。
「イルフェルト・ユーリアスだ」
「イルフェルトさんですね!」
どうやら、彼女は名乗る気がないらしい。それとも、名乗れない理由があるのか。どちらかは分からないが、無理に聞く必要もないだろう。
ただ、言えるのは。かなりおかしな奴だということだ。目に見えるもの全てに興味を持ち、フラっと消えてしまう。そんな少女に危うさを説いてはみたものの、全く聞いている様子はなかった。
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