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しおりを挟む俺、天宮暁人は転生者だ。でもって、転生先はどうやら乙女ゲームの世界らしい。それに気づいたのがついさっき。目の前の少女の名前を聞いた時だ。まぁ、確かに前世と比べ明らかに整った顔と良すぎるほどの家柄ではあったが。
……あ、言っておくが俺が乙女ゲームをプレイしていたわけじゃないからな。妹がプレイしていたから知っていただけだ。だからゲーム名も内容も知らん。知っているのは攻略対象者や悪役令嬢、ヒロインの名前と容姿だけだ。そのせいで気付くのが遅れたわけだが。
話がズレた。目の前の少女はつり目で機嫌が悪そうに見える。その辺りは流石、悪役令嬢ともいえるだろう。名は、樹里院楓。フワッとした黒髪とラベンダー色の瞳が特徴的な可愛らしい悪役令嬢だ。
「一人で何してるんだ?皆のところ行かねぇの?」
「……嫌です。だって、瞳の色私だけ違います。また、おかしいっていわれるに決まってます……」
俺が誘うと、彼女は涙目で断ってきた。ラベンダーのような紫の瞳は綺麗だと思うが。多分、紫の瞳の色は珍しいから色々といわれたのだろう。
「別に気にしなくていいと思うが。俺は綺麗だと思うし」
「えっ……?」
不思議そうに俺を見上げてきたかと思えば、顔を赤く染め、しばらくしてから嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
「別に、本当のこと言っただけだから。それに、俺も赤い瞳で周りとは違うしな!」
今世の俺は日本人離れした容姿をしていた。真っ赤な髪に金の瞳という、流石乙女ゲームの攻略対象者だ……。とでも言いたくなるような容姿を。
「でも、綺麗だと思います……」
微かに聞き取れたその言葉に、思わず手で顔を覆った。
可 愛 す ぎ か。
いや、本当に。この子が将来、悪役令嬢になるとか信じられない。というか、信じたくない。
「樹里院楓です。その、楓と呼んでください」
今更だが、そういえば自己紹介をしていなかったと思い出す。一方的に名前を知っていたから忘れていた。まぁ、その名前も周りの大人たちの話を聞いていて知ったのだが。
「天宮暁人。暁人で良いから。よろしくな、楓」
「は、はい!」
嬉しそうに笑って見せた楓に、俺も釣られて笑顔になる。
そして、少しだけ考える。俺は、出来る限りゲームには関わりたくはないと思っている。とはいえ、それは多分難しいだろう。なにせ、俺は攻略対象者で、ストーリーは全く知らないのだから。どこへ行けばヒロインと会うことになるのか、どんな行動をすればヒロインとのフラグが立つことになるのかを全く知らないのだ。そんな俺がシナリオに関わらないというのは無理だろう。ならばどうするか。先に婚約者を作れば良い。そう、それこそ楓のような……。
……正直に言おう。楓が可愛い。可愛すぎる。惚れた。多分、一目惚れというやつだと思う。前世、恋愛経験なしの俺がまさか今世ではこんなことになるとは……。別に、俺と楓の家ならば釣り合いも取れるし婚約者になるには問題はないはずだ。あるとすれば、楓の気持ちと年齢だろう。今、6歳だし。
「暁人、さん?あの、どうかしましたか?」
俺がしばらく考え込んでいると、楓が心配そうに声をかけてきた。
「あ、悪い!ちょっと考えごとしてた。楓はさ、小学校どこ?」
「七扇学園の初等部です。暁人さんはどこですか?」
「俺も七扇。同じクラスになると良いな!」
七扇学園は金持ちや政治家といった影響力の強い家の子どもが通う学園で、それ故にレベルはかなり高い。勉強、部活は勿論のこと、設備といったものも国内トップクラスを誇っている。だからこそ、この学校を卒業するだけでかなりのステータスになる。
「ですが、やっぱり怖いです。この瞳の色でまた何か言われるんじゃないかって……」
「大丈夫だって。俺もいるし。それに、言ったろ?楓の瞳の色、ラベンダーみたいで綺麗だって」
「ラベンダー……。ありがとうございます。暁人さんのおかげで、この瞳の色が少しだけ好きになれた気がします」
楓は遠慮気味に笑顔を見せた。
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