アイテムボックスを極めた廃ゲーマー、異世界に転生して無双する。

メルメア

文字の大きさ
25 / 37
第2章 金の成る魚編

メニュー試食会

しおりを挟む
 開店に向けてあれこれ準備が進んでいくなかで、私はある日、村のみんなを集めた。
 オープンする店で提供する予定の料理を、実際に試食してもらうのだ。
 みんな、刺身がよっぽど気に入ったのか、他のメニューも楽しみにしてくれている。
 転移装置で行ける場所をあちこち飛び回って、必要な材料を集めてきたからね。
 料理人の私にも気合が入る。
 自分でいうのも何だけど、私って料理のセンスがあるみたいで、たいていのものはイメージ通りに作れてしまった。
 すっごい自画自賛になっちゃってるけど。

「はーい。まずは1品目」

 私は村のみんなへ料理を乗せた皿を運ぶ。
 1人では手が回らないので、ニナも手伝ってくれていた。
 実際に店がオープンしたら、ニナはウェイトレスとして手伝ってくれることになっている。
 面白そうだから、店で働いてみたいんだそうだ。
 本当に働くのが好きなんだよねぇ。

 1品目は、マグロに近い赤身の魚のステーキだ。
 表面は火が通っているけど、中はレアになっている。
 このレア加減は、新鮮な魚でなければ表現できない。
 刺身と同じように、王都という海から離れた場所で売りに出来るメニューだ。

「ステーキだよ。さあ召し上がれ」

 丁寧に切り分けたり、かぶりついたり、みんなそれぞれの方法でステーキを試食する。
 そして一様に言った。

「「「「「美味しい!」」」」」

「良かったぁ~」

 赤身のステーキは採用っと。
 ミョン爺が感心しながら、ばくばく食べている。

「美味いのう……。中は生に見えるが、ちゃんと火はとおっておるから温かい。旨味がぐっと増しておるが、刺身の良さも残っておる。これは売れること間違いなしじゃ」

「ありがとう。そう言ってもらえると自信がつくよ」

 さてさて、どんどん行こう。
 続いての料理を運ぶと、ミョン爺や隣に座るティガスは不思議そうな顔をした。

「これは……刺身じゃないのか?」

 ティガスの質問に、私は引っかかってくれたねと笑う。
 私が運んだのは、確かに見た目には白身魚の刺身。
 日本人なら、結構な数の人が「なるほどな」となるだろうけど、異世界人になじみがないのは当然だ。

「まずは食べてみてよ」

 不思議そうな顔のまま、みんなが料理を口に運ぶ。
 すると表情が驚きに変わった。

「これは……ただの刺身じゃない!?」

 まんまと騙されてくれたので、私はニヤリと笑った。
 ミョン爺が、これまたバクバク食べながら食レポをしてくれる。

「火は通っていない。生の状態じゃ。でも刺身よりねっとりした食感で、風味も違う。魚の旨味はもちろんじゃが、また別の旨味があるのう。これは……海藻じゃな?」

「ご名答。さすがミョン爺だね」

 いわゆる昆布締めってやつだ。
 タイやヒラメなんかの白身魚を、酒で湿らせた昆布に包んで置いておく。
 日本酒はさすがに手に入らなかったので、仕方なく水で代用したけど、これもなかなかの美味しさだ。
 前日に仕込んでおけば、注文されてすぐに出せるというのも店側からしたらありがたい。

「これも合格かな?」

「もちろんじゃ」

「よしっ」

 私は軽くガッツポーズを決める。
 順調順調。
 この調子で3品目もいってみよう。
 ニナに手伝ってもらって、新たな料理をみんなに運ぶ。
 今度は一転して、きっちり火を通した料理だ。
 最初に刺身で食べた味がアジに近い魚。
 これをカラッと揚げてフライにした。
 今日はもうみんな仕事終わりということで、大人たちにはビールも出す。

「揚げ物じゃな」

「うん。ミョン爺、油とかきつい?」

「何を言うか。肉や揚げ物は大好物じゃ」

 さすがの健啖家だ。
 運ばれてきたビールを一気に飲み干すと、ニナにお代わりを頼んでいる。
 料理と一緒に楽しめよ……。料理と一緒に。

「これは何ですか?」

 フェンリアが、フライと一緒に運ばれた茶色っぽい粘度の高い液体を指さす。
 これもまた、異世界では見慣れないものだろう。

「中濃ソースって言うんだよ。フライにかけて食べてみて。味が濃いから、あんまりかけ過ぎないように」

 何でかは知らないけど、私は中濃ソースの作り方を知っていた。
 野菜やスパイスはこの世界でも手に入る。
 ワインやお酢も手に入る。
 配合を試行錯誤して作り上げたのが、この自慢の中濃ソースだ。

「美味い! 美味いぞ!」

 ソースをかけてかぶりついたミョン爺が、ビールを飲んで大きな声を上げた。
 元気なお爺さんだよ、本当に。

「これは素晴らしい取り合わせじゃな! フライ、ソース、そしてビール。どれも最高にマッチする。これは大人気になるぞ」

「それは良かった。じゃあこれも合格だね」

「当然じゃな」

「ちょっと提案なんだが」

 3品目の合格を勝ち取ったところで、ネロが手を挙げた。
 ……何か某バラエティ番組みたいなになってるな。
 私は大手飲食チェーンの開発担当じゃないし、村のみんなも一流料理人じゃないんだけど。

「このソース、めちゃくちゃ美味しい。単体でも売れると思うんだ。お持ち帰りとかで売ってみるのはどうだ?」

「なるほど……。それは考えたことなかった。でもありかもね。検討してみるよ」

 新しく商売の幅が広がったところで、いきましょう4品目。
 ちょっとヘビーだけど、次も揚げ物だ。
 それも日本人なら泣いて喜ぶ揚げ物。
 天ぷらだ。
 魚や貝、そして野菜も天ぷらにした天盛り。
 醤油がないので天つゆは作れなかったけど、お塩や魚から取ったお出汁で食べてもらう。
 小麦粉と卵、それに揚げる材料と油があれば和を再現できるんだから、これまた偉大な料理だ。

「おほっ……これはっ……」

 ミョン爺が恍惚の表情を浮かべる。
 これも気に入ってもらえたみたいだ。

「見事じゃの。サクッとした衣と、中の魚のふわふわほくほくとした食感……。だがどこか、親しみを感じる部分もある……」

「それは衣にビールが入ってるからじゃないかな?」

「何と! なるほどこのわずかに感じる風味はビールじゃったか!」

 ビールを入れることで衣がふわっとする効果がある。
 それにミョン爺が「親しみを感じる」といった通り、異世界人の味覚により寄せることもできる。
 ビール作戦、大成功みたいだ。

 みんなに食べてもらって美味しいと言ってもらえると、嬉しいし自信もつく。
 この調子で開店まで頑張るぞー。

「じゃあ次のメニュー行くよー!」

 私は元気よく叫ぶと、ニナと一緒に5品目を運ぶのだった。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...