チートがん積みで転生したけど、英雄とか興味ないので異世界をゆるっと旅行して楽しみます!~ところで《放浪の勇者》って誰のことですか?~

メルメア

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第一章 転生と『はじまりの都市』アフィリシティ

第3話 食事

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「もったいないと思いませんか!?」

 ひとまず危険な森を抜けたところで、エリスはすごい勢いで俺に詰め寄った。
 俺の服の胸元を掴み、身長差を必死に埋めて顔を近づけてくる。
 ちょっ、近いって。

「その力は本当に桁違いなんです! 今すぐ冒険者協会に登録しましょうよ!」
「だから興味ないって」
「どうしてなんですかっ!」
「えー、だってさ」

 俺は思っていることを正直に話す。
 この世界をあちこちゆるっと旅してまわりたいこととか、そのためにあんま有名にはなりたくないこととか。
 それを聞いたエリスは、俺の服から手を離すと頭を抱えた。

「もったいない……。とんでもない逸材だというのに……」
「ごめんて。でも、そういうわけだから」

 エリスは大きくため息をつくと、自分に気持ちを切り替えさせるかのように言った。

「とりあえず、街まで行きましょうか」
「そうしよう」
「ここから近いのか?」
「はい。もう少しで見えてきますよ」

 森を抜けた先の道は、ちょっとした上り坂になっている。
 2人で並んで歩き、坂の頂点まで来たところで、エリスが前方を指差した。

「あそこです。この大陸の中心都市、アフィリシティです」
「おお~。遠目からでも、かなり大きく見えるな」
「当然ですよ。だってアフィリシティは、ただ大陸のど真ん中にあるだけではなく、交易や政治など全ての中心となる都市ですから」

 エリスは得意気に解説して胸を張った。
 実際、遠くからでも城壁がとんでもなく高いことが分かる。
 近づくにつれて道を歩く人も増え、門のところではさかんに人々が出入りしていた。

「すごい賑やかだな」
「ここはいつもこんな感じです。イベントがある時期になれば、人の数はこんなものじゃないですよ」
「うへぇ……これより増えるのか……」

 現時点ですら、シーズン最中の有名観光地くらいの賑わいを見せている。
 これを超えてくる時期があるなんて、すごいもんだな。
 でもこの賑わいを知らない地で感じると、すでにちょっと旅行に来た感じがして楽しい。
 様々な服装の多様な人たちがいるのもまた、異国情緒を盛り上げる。

「とりあえずご飯でもいかがですか? 食事をしながら、この大陸のことを教えて差し上げますけど」
「それは本当にありがたい。でも俺、お金は一切持ってないぞ?」
「仕方ありませんね。奢ってあげます」
「うお~。神様仏様エリス様ぁ~」
「何ですかそれ」

 怪訝そうな表情を浮かべるエリス。
 いまいち伝わらなかったか。
 でも彼女、本当に優しい。
 俺を起こしてくれただけでなく、街に連れてきてご飯まで食べさせてくれるとはな。

「助け合いは大事ですよ~」

 そう言ってはにかむエリスに連れられ、俺たちはレストランにやってきた。
 端の方の席に、エリスと向かい合って座る。
 メニューを開いてみると、『鶏肉のパイ包み焼き』とか『牛肉のスパイシーソテー』とか『本日の彩りサラダ』とか分かりやすい料理名が書かれている。
 わけの分からないメニューが並んでたらどうしようかと思ったけど、これならイメージもつきやすいし食べたいものが食べられるな。
 安心安心。まあ、横に書かれてる金額が高いのか安いのかは、奢られる側の俺には分からないんだけど。

「私は『たっぷりチーズのポテトグラタン』にします。ドリンクは……ぶどうジュースにしておきますかね~。お昼からワインは罪悪感が……」
「昼酒の罪悪感は分からないでもないな。俺は『鶏肉と玉ねぎのレモンパスタ』にしようっと。ドリンクは同じので」
「分かりました。店員さ~ん!」

 エリスは制服姿の店員さんを呼ぶと、てきぱき注文を済ませる。
 あとは料理が来るのを待つだけだ。

「それではそれでは、私がこの大陸について教えてあげましょう」
「お願いします、エリス先生」

 どうやらこの待ち時間を利用して、この世界のことを教えてくれるみたいだ。
 これから暮らす場所のことだから、ちゃんと聞いておかないとな。

「この大陸――名前はメード大陸といいます。一般的には、メードは省いて“大陸”とだけ言われることが多いんですけどね。その中心にあるのが、ここアフィリシティです。この都市を取り囲むように、大陸にはいくつもの国が形成されています」
「具体的にはどんな国があるんだ?」
「そうですね……この都市から一番近くにあるのは、エメラという国です。通称は《宝石の国》」
「《宝石の国》……。なんかすごそうな名前だな」
「エメラではたくさんの鉱石が取れるんです。この大陸で産出される鉱石のうち、8割がエメラで取れるものなんですよ。それに伴って、エメラには工夫や加工する職人、宝石商などがたくさん住んでいます。例えばほら」

 エリスが髪をかき上げて、左耳をアピールしてくる。
 そこには青い宝石のついたピアスが光っていた。
 小さな宝石ではあるが、とてもきれいな光を放っている。

「これもエメラで産出され、エメラで加工されたものです。以前に行った時に買ったんですよ。ちょっと高かったんですけど、自分へのご褒美です」
「ああ、すごくきれいだな」
「そうでしょそうでしょ~」

 エリスは嬉しそうに笑うと、軽く自分の耳たぶを触った。
 え、何このかわいい生き物。

「エメラが《宝石の国》であるように、この大陸の国々はどこも独自の特色を持っています。それが全て集まってくるのが、ここアフィリシティというわけです」
「だからこんなに、人の服装とか売ってるものとかも多種多様なんだな」
「その通りです。そういう意味で言うと、この大陸はあちこち旅行するには楽しい場所だと思います」

 いや、絶対に楽しいに決まってる。
 各地のきれいな景色や美味しいグルメを味わって、それを写真に収めて……って、さすがにこの世界にカメラはないか。

「ん?」

 俺はふと、今まで気づかなかった違和感を覚えた。
 ポケットに何か入っている。
 取り出してみると……え!? スマホ!?

「なななな何で!?」

 驚きのあまり、大きい声が出てしまう。
 スマホがある!
 てっきり異世界だから、こういった類のものは持ち込めないとばかり思っていた。
 服装も社畜の制服であるスーツから変わってたし。
 もしかしてこれも、一種のチートってやつか?

「それ、何ですか?」
「これはスマホって言うんだけど……」

 ホームボタンを押してみると……おおっ、起動する。
 でも電波がない。
 SNSもゲームも、軒並み圏外で使用不可だ。
 まあ、そう上手くはいかないよな。
 でもこのスマホがあれば……

「エリス、ちょっとこっち見て」

 俺はカメラを起動して、レンズをエリスに向けた。
 そしてきょとんとしている彼女をパシャリ。
 取れた写真を、エリスに見せてあげる。

「スマホっていうのは、その時の瞬間をこうやって写真ってのに残しておけるんだ」
「えっ!? すごい! すごいです! これ、さっきの私ですよね!?」
「そうだよ」

 エリスもテンションが上がり、思わず声が大きくなる。
 スマホとしての大半の機能は使えないけど、でもカメラは使えるみたいだ。
 おかげさまで景色や料理を写真に取れる。
 思い出を残しておけるってわけだ。

「お待たせしました~」

 そうこうしているうちに、料理がやってきた。
 異世界に来て初めての食事。
 記念すべき一食を、早速カメラで撮影しておく。
 そしてフォークとスプーンを握った。

「美味しそうだな~」
「ええ。ここの料理はどれも本当に美味しいですよ」

 レモンの爽やかな香りと、きれいに焼き目がついた鶏肉と玉ねぎに食欲を刺激される。
 お腹ペコペコの俺は、たまらずパスタを巻いて口に運んだ。

「うまっ……」

 鶏肉の脂をレモンが程よく中和して、そこに玉ねぎの甘味がのっかってくる。
 まろやかでありながら、さっぱりも兼ね備えたパスタだ。
 麺の茹で加減も、ちょっと固めで俺好み。
 ああ、こんなに美味しいご飯を食べたのはいつぶりだろう。
 いっつも仕事から帰ったら作る気力なんてなくて、出来合いの決まりきったコンビニ飯だったからなぁ。
 こんなに温かくて美味しい料理、涙が出てきそうだ。

「ちょ、ちょっと、何で泣いてるんですか」

 エリスに言われて気付く。
 涙が出そうどころか、俺は泣いていた。
 辛い境遇があったからこそとはいえ、これは幸せの涙だ。

「美味すぎて感動したのかも」
「変な人ですね。確かに美味しいですけど」

 くすっと笑ったエリスと一緒に、俺は異世界の食事を堪能したのだった。
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