不遇幼女テイマーに召喚された古竜、未開の秘境で幼女のパパになる。

メルメア

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第6話 覇竜眼

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「そろそろいいかな、と」

 ごうごうと燃える火の前で、俺たちは夜の時間を楽しんでいた。
 焚き火を囲むように突き立てた串に刺した魚を、引っこ抜いてエリンの前に置く。
 エリンは飲んでいたフルーツジュースを置くと、自分の二の腕くらいはある大きな魚をキラキラした目で見つめた。

「美味しそう~」
「今日はよく動いたからな。しっかり食べるんだぞ」
「うん! いっただっきま……じゃなくて、パパとモフリンもいっしょにいただきますしよ!」
「分かった。モフリンも魚食べるのか?」
「きゅう」

 モフリンは首を横に振って、フルーツを2、3個抱えた。
 捕りはするけど、あくまでも草食みたいだ。
 俺は自分の分の魚を手に取ると、エリンの横に腰を下ろした。

「それじゃあせーので行くよ! せーのっ!」
「いただきます」
「いっただっきま~す!」
「きゅう~!」

 声をそろえて食事が始まる。
 白身の焼き魚はほっこりとしていて、何の味付けもできていないがすごく美味しい。
 欲を言えば塩気が欲しいところだが、淡水魚だし仕方がないな。

「美味しいか?」
「美味しい!」
「骨に気を付けてな」
「はーい」

 エリンははぐはぐと魚を食べ進め、あっという間に一匹を食べきってしまった。
 頭と骨と尻尾だけが残る。
 すごい食欲だ。

「もうひとつ!」

 ……すごい食欲だ。
 エリンは自分で残っていた魚をひっこ抜くと、またもやアツアツはふはふ食べ始めた。
 見ているこっちが満腹になるような、でも幸せな気持ちになる光景だ。

「ん? 私の顔に何かついてる?」
「いや、よく食べるなと思ってな」
「えへへ。そっか」

 みるみるうちに魚は骨になっていき、結局2匹をきっちり完食してしまった。
 さすがに満腹になったのか、ぽっこり膨らんだお腹をさすってエリンが転がる。
 そして夜空を指差し声を上げた。

「きれ~」

 見上げてみれば、そこには満天の星空が広がっている。
 ずっと見つめていると吸い込まれそうな気がする、そんな夜の美しい空だ。

「パパも一緒に寝っ転がってみようよ」

 エリンの言葉に応じて、俺は彼女の横に仰向けに寝転ぶ。
 するとエリンは、俺の胸に頭を乗せてきた。
 そして空を指差す。

「見て見て! あの星とあの星とあの星とあの星とあの星でモフリン! モフリン座だね!」

 正直、これだけ星があったらどれのことか分からない。
 でもエリンにはちゃんと星が描く形が見えているようで、宙に向かってしきりに指を動かしていた。
 それにしても、こうやって落ち着いた気持ちで星空を見上げるのはいつぶりだろう。
 2000年の眠りにつく前、1回か2回あっただろうか。
 あったような、なかったような。
 記憶がはっきりしない。
 そんなことを考えつつ、胸に重みと温かさを感じて星空を見つめる。
 少し時間が経って気付けば、エリンは静かに寝息を立てていた。
 その隣では、モフリンも丸くなって眠っている。

「疲れたよな」

 俺は静かに、語りかけるように呟いた。
 体力的にも精神的にも、疲労は相当蓄積しているはずだ。
 今日1日だけでも、相当動き回ったわけだし。
 それ以前の生活を考えれば、疲れていない方がおかしい。

「よいしょっと」

 俺は起こさないよう慎重にエリンを抱えると、モフリンと合わせて家の中へと運び込んだ。
 唯一の家具であるベッドに、1人と1匹を横たわらせる。
 それから外で火を消し、再び家の中に戻った。
 エリンの横に転がると、彼女は無意識に俺の服をきゅっと掴む。

「パパ……」
「大丈夫だ。そばにいる」

 か細い寝言に返事をして、優しく抱きしめてやる。
 するとエリンの寝顔が、にっこりと笑った。
 すやすやという寝息を聞きながら、俺も静かに目を閉じる。
 とはいえ、完全に眠るわけにはいかない。
 初めて時間を過ごす夜の森、言ってみれば未知の空間なわけだ。
 何が起こるか分からない。
 それに俺は今日まで2000年も寝てたんだから、今さら数日数か月数年寝なかったところでどうってことない。
 あくまでも精神的な休息と、周りの気配に敏感であるための動作だ。

「むにゃ~。すやぁ……すやぁ……」

 エリンの寝息を聞きながら、じっと転がって夜の時間を過ごす。
 真夜中に差し掛かったころ、俺は目を開いて呟いた。

「囲まれたか……」

 動物の気配は度々していたが、どれも全てたまたま通りがかったに過ぎなかった。
 それでも今回は、明らかに意志を持ってこの家に近づいている。
 というより、もうすでに四方八方を囲まれている。
 どうにも歓迎しようという気配ではない。

「ちょっと待っててくれ」

 俺はそっとエリンにささやくと、ベッドをこっそり抜け出した。
 家の外に出てみれば、予想通りきれいに囲まれている。
 ただの獣もいれば、明らかに異質な存在――モンスターもいる。
 この森の猛者たちが、俺たちに対して集結したようだ。

「ふむ」

 俺は家の屋根に飛び乗って腰掛け、襲撃者たちをぐるりと見まわした。
 どうやらこいつら、ただむやみやたらに集まったわけではないらしい。
 東西南北それぞれに、風格のあるリーダーと思わしき個体がいる。
 東にはワシ、西にはライオン、南には馬、北には大蛇。
 どれにしたってただのワシやライオンではないのだろうが、見た目はそっくりそのものだ。

「何の用かは知らないが……」

 鋭い視線を向けてくる森の猛者たちに、俺も鬼気迫る目つきで応じる。
 こういう怖い顔なら得意なんだがな。笑うのはどうにもできない。
 でもこういう顔だって、役に立つことがある。
 実際、わずかに怯む個体もいた。
 俺は構わずに続ける。

「この家の中で俺の娘が快眠中なんだよ。その邪魔は……させない」

 俺が言葉を切った瞬間、空気がビリビリと振動し、森の住民たちを下から激しく突き上げるような感覚が襲う。
 意志の弱いものはその場に倒れ、4体のリーダーたちでさえもその場に突っ伏した。
 《覇竜眼》。
 竜が持つ圧倒的な生物としての強さを根拠として、視線と気迫で相手を屈服させる。
 しばらくの沈黙の後、リーダー格の4体は恭しく頭を垂れた。

「お待ちしておりました、我らの王よ」

 ふむ。
 俺は今も眠りにつく前も、どこかの王になった覚えなどはないのだがな。
 というかこいつら、言葉が話せるのか。

「ヴィヴァンヴェルド・ギルベッシヴィウス・レヴィエヴァスヴァンテ様」

 馬が口にしたのは、エリンがかみかみで言えなかった俺の真名。
 こいつらに名乗った記憶はない。
 どうやら、この森はただの変な森じゃなさそうだな。
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