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3章 龍王国

第66話 神域産の万能感よ

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日が暮れ始めたので運動を終えて宿に戻ると丁度いいタイミングだったらしく、テーブルに着くとすぐに食事が運ばれてきた。
野菜のスープと野菜の入ったパイ?
あ、キッシュってやつかな?
これは中々おいしい。
でも思っていた通り、野菜中心......というか野菜オンリーっぽいな。
でも卵は使っているようだから養鶏はしているのかな......。
肉は狩りで得るのが基本なのかな?
この辺は見晴らしが良すぎるせいか、あまり野生の動物はいない様に思えた。
まぁ村全体に肉を常に供給するほどの狩りは森や獲物の有無にかかわらず無理だろうね。
村の生活について思いを馳せながら食事を進めているとレギさんが今後の予定について切り出してきた。

「ここから北東の道を進んで行くと街があるってのは聞いているよな?」

「えぇ、結構大きい街みたいですね。」

「あぁ、そこも都市国家だからな。俺はこっち方面に仕事で来たことが無かったから詳しくはないんだが......。それなりに賑やからしいぞ?」

「へぇ、楽しみですね。この前の料理大会に出ていたお店があるかもしれないですし。」

祭りの開催中に料理大会の料理を食べることは叶わなかったが料理や店の情報はしっかり収集してある。
街に着けば店があるかどうか確認できるかもしれない。

「それは絶対確認するべきね。」

キッシュを齧りながらリィリさんが次の食事への意欲を見せる。
まぁ最初に言ったのは俺ですけどね......。

「よく食いながら別の食い物の事考えられるな......まぁ、それが目的ってわけじゃないが、少し次の街に情報収集を兼ねて滞在しないか?」

「情報収集ですか......。」

「あぁ、ここより先の情報はあまり大したものを持っていないからな。龍王国までここからだと馬車で十日程度、次の街からなら一週間強って所だろ?この距離なら多少は龍王国の情報が手に入ると思ってな。それでなくても龍王国に入るまでの道は調べられるだろう?」

「そうですね......わかりました。じゃぁ次の街で数日滞在しましょう。」

「とりあえず料理大会に出場していたお店があるかどうかの確認からね。」

「いや、それはどうでもいいだろ......。」

「僕も気になりますし、確認はしましょう。」

「だよねー?レギにぃは旅の楽しみってものが分かってないんじゃないかな?少しは余裕をもって生きた方がいいんじゃない?」

リィリさんが突然加速した。
食にはこだわりがあるのかな......?

「お、おぅ。そうだな?そのくらいの楽しみは必要だな......?」

レギさんがいつものように反論せずにちょっと引き気味になっている。
触れるのは危険な場所のようだ。

「それじゃぁ、街にしばらく滞在して各々情報収集をしましょうか。急ぐ旅じゃありませんから、のんびり行きましょう。」

危ない場所には近寄らない......大まかな動きを決めてから晩御飯は解散となった。
情報か......ファラが色々集めてくれているとは思うけど恐らく合流できるのは龍王国に入ってからだろう。
無事だといいんだけど......。
ファラの事を考えながら宿の人にお湯を貰い部屋へと引き上げた。



さて、体を拭いてさっぱりしたことだし勉強タイムといこうかな。
今の所シャル達の移動速度が半端なく速いので野宿をしなきゃいけない事態にはなっていないが、これから先も毎回宿に泊まれるとは限らない。
机を使える時は極力デリータさんに譲ってもらった魔術式の複製の練習をしよう。
グルフに渡す魔道具は......もう少し待ってね......ちゃんとやるから。
それにしてもデリータさんから教えてもらった初歩の初歩とは違い、これは相当複雑な術式だ。
書き写すだけでもめちゃくちゃ難易度が高そうだ。
書き写して魔晶石に転写してから初めて効果がちゃんと発動できるか確認できるんだけど......発動したら魔晶石の魔力空っぽになっちゃうんだよね......。
え?これどうやって動作確認したらいいの......?
ぶっつけ本番のみ......?
デリータさんがいれば書いた時点で確認してもらえるのだけど......流石に動くかどうか微妙なものをレギさんに切り札ですって渡せるわけがない......。
まいったな......結構数を持ってきているとは言え、神域産の魔晶石で練習するのは流石にやめたほうがいいだろう。
となると練習用に純度の低い魔晶石が必要なんだけど......デリータさんに手持ちのものと交換してもらうべきだったかな?
純度の低い魔晶石とは言え結構高価だしな......次の街でいくつか購入出来るかな?
あれ?そういえば魔晶石ってどこで買えるんだろう?
まいったな......結構この世界に慣れてきたつもりだったけど、周りに助けてもらっていただけか......。

「んー、まいったな。色々と問題が出て来たぞ。」

『どうされたのですか?』

「うん、デリータさんに開発してもらった魔術なんだけど、複製の方法に悩んでいてね。」

『魔術ですか......申し訳ありません。私の知識にはないものでして......。』

「仕方ないよ。魔術は神域が出来る以前にはなかった比較的新しい技術みたいだし。」

『......。』

何となく納得いきませんって雰囲気が......。
うーん......そうだ。

「純度の低い魔晶石ってダンジョンに行かないと手に入らないかな?」

『魔晶石ですか?純度が低いものでよければダンジョンに行かなくても手に入れることは出来ますが。少し難しいかもしれないですね。』

「そうなんだ......あまりお金を掛けずに魔晶石を大量に手に入れられれば魔術式の練習が出来そうなんだけど......。」

『魔晶石が複数必要なんですか?』

「うん、デリータさんに作ってもらった魔術式は起動したら魔晶石内の魔力を全部放出しちゃうからね......練習するにも数がない事には......。」

そこまで言ったところでシャルが考えるそぶりを見せる。

『なるほど......それで魔晶石が必要なのですね......確認なのですが、魔術式というのは魔晶石の魔力が空になったら消えますよね?』

「うん、そうだよ。魔術式の維持に微量な魔力を必要とするみたいだから。」

『であれば、件の魔術式を発動させると魔術式も最終的に消えるということですよね?』

「うん、発動させたことはないけど、そうなると思うよ。」

『であれば、魔力が空になった魔晶石に魔力を込めなおせば再利用できるのではないですか?』

......ん?

「魔力を込めなおす?」

『はい、空になった魔晶石に魔力を込めれば元の魔晶石と同じ状態まで戻せると思います。純度の低い魔晶石では無理だと思いますが、神域から持ってきたものであれば可能です。』

神域産の何たる万能感......まさかの充電可能......いや充魔か?

「つまり一個で何回でも練習可能......と。」

『はい。問題は解決したでしょうか?』

「完璧だよ!ありがとうシャル!」

俺はシャルを抱き上げると軽く抱きしめながらわしゃわしゃと撫でる。

『はぅ!っ~~~~~~!!おや、おやきゅにゅ!』

「やっぱりシャルは頼りになるなー!」

ゆっくりとシャルをベッドに降ろす。
そうだ、そういえば前シャルが言ってたな......。
ベッドに降ろしたシャルの耳の裏をゆっくりと撫でる。

『んぅ、け......ケイさまぁ。』

そのまま優しく撫で続けるとシャルの目が気持ちよさそうに細くなる。
ゆっくりと撫で続けながらシャルの背中、さらにお腹の方に手を動かしていく。

『......ふわぁ......きもちいいですぅ......。』

暫く撫でているとシャルがころんと仰向けになってお腹全体が投げ出される。
撫でやすくなったシャルのお腹をゆっくりと優しく撫でていく。

『......ん......くぅん......。』

左手で胸を撫でながら右手で揉むようにお腹を撫でる。
いつものきりっとしているシャルとは別人のようにふにゃふにゃになっている。
うん、可愛いね。

『......けいさまぁ......もっと......してくださぃ......。』

「ふふ、うん。気持ちよさそうで何よりだよ。」

俺が声をかけた瞬間シャルの耳がぴくんと反応した。
気持ちよさそうに細められていた目が見開かれ俺の顔を凝視する。

「......け......けぃ......ケイさま!」

「ん?どうしたの?シャル。」

呼びかけるとほぼ同時に瞬間移動したかのようにシャルが消えた。

「あ、あれ?」

部屋を見渡すと部屋の隅で黒い塊がぷるぷるしているのを発見出来た。

「シャル?大丈夫?何か不味かったな?」

『だ、だい!』

「だい?」

『だいじょうぶですにゃ!』

にゃ?

『おきゃま!』

「......うん?」

『おかまいにゃく!』

思っていた以上に慌てさせてしまったようだ。
前に撫でて欲しいって言っていたから撫でてみたけど断ってからの方がよかったかな......。
しかし、部屋の角に頭を押し付けるように丸まっているシャルも可愛いな。
こんな感じで旅初日の夜は更けていく。
あ、シャルがじたばたしだした。

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