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5章 東の地

第196話 使用人の家は

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「平和そのもののようだな。」

「そうですね。」

酒場で情報収集をした後街を回ってみたのだが一部を除き不穏なものは見られなかった。
店員さんに聞いた話によるとセンザの街は内乱には関わっておらず、領主が討たれた後もそこまで大きな動きはなかったそうだ。
唯一変わったことは貴族区への立ち入りだそうと言う。
残念ながら貴族と一緒でなければ一般の人は貴族区への出入りが出来ないそうだ。
現状ではカザン君のお母さんの実家であるセラン家の様子を窺うことは出来なさそうだ。
恐らくセラン家が問題なんだろうし、今近づくのはいい考えとは言いづらい。
だが逆に考えるとセラン家を警戒しないといけないということは......カザン君達の家族がまだ無事だと言うことじゃないだろうか?
楽観的過ぎるだろうか?
まぁセラン家の警戒のために封鎖しているというのもこちらの勝手な予想だしな。
カザン君には封鎖されていて貴族区事態に入ることが出来なかったと伝えておけばいいだろう。
勿論ネズミ君達に頼めば問題なく調べることは出来るから様子はうかがってもらうつもりではあるけど......。

「カザン君のお母さんの侍女の方......えっとネネアさんでしたっけ。家はこの辺と聞きましたが......。」

「きっとこの家だと思うが......想像していたよりデカい家だな。」

「......そうですね。」

俺とレギさんの目の前には広い庭に大きな屋敷と呼べる代物が鎮座している。
侍女って儲かるのかな......いや、家族全部が使用人って言ってたっけ。
もしかしたら結構地位のある使用人なのかもしれないね。

「どうやって手紙を渡しますか?正直僕はもっと小さな家を想像していたのでこそっとドアの隙間に入れればいいか、とか考えていたのですが。」

「あぁ、俺もそんな風に考えていた。カザン達との育ちの差ってことか?」

家の大きさとか特に言ってなかったもんな......。
まぁこっちもどんな家なのか確認しなかったからな......先入観で動くのは良くないってことだね。

「どうします?」

「どうしたもんかな。」

家の前で若干途方に暮れる俺達。
普通に正面から渡すしかないかな?
でもなるべく接触はしたくなかったのだけど......。
敷地内にこっそり入るのは......まぁ不可能ではないけど。

「シャルかマナスに頼んでドアに差し込んで来てもらいます?」

「そうするか。」

どちらに頼もうかなと考える暇もなくマナスが肩から飛び降りてアピールしてくる。
俺がマナスに手紙を渡すとすぐに庭を横断してドアまでたどり着く。
俺達は少し離れた位置に移動して様子を見ていたのだが......マナスは扉の隙間に手紙を差し込もうとして......差し込む隙間が無いようだ......。
うん、気密性ばっちりなようだね。
流石のマナスも考え込むように動きが止まってしまっている。
しかしすぐに動き出したマナスが扉に張り付きドアノッカーを叩き、ドアの邪魔にならない位置に手紙を置く。
暫くしてドアから出てきた女性が手紙に気づき手に取り家の中に戻る。
その様子を離れた位置から見守っていた俺達は一先ず胸をなでおろす。

「シャル、家の中の様子はネズミ君が監視しているかな?」

『はい、問題ありません。』

「家の中の監視はばっちりだそうです。手紙を受け取ってどうするかはすぐに分かると思います。

「よし、なら引き上げるとするか。そろそろ日が暮れる、街門が閉じられる前に出ないと面倒だ。」

「お土産も買わないといけないですしね。」

そんなことを話しながら踵を返した俺達の進行方向に千鳥足のご機嫌な雰囲気のおじさんが姿を現す。
まだ日暮れ前だというのに相当出来上がっている様子である

「ん?ありゃぁ酒場で絡んできたおっさんだな。」

「あぁ、道理で......こんな時間から歩くのも覚束ない様子の人が沢山いるのかと思いましたよ。」

あっちにフラフラこっちにフラフラしているおじさんは、不思議とどこにもぶつからずにこっちに向かってくる。
俺達は関わらない様に道の反対側に移動するのだが、おじさんの無軌道な歩行術の前に成す術なく捕まってしまう。

「お?おお?その綺麗な真ん丸頭は知っているぞ?知っていますよ?」

くねくねと変な踊りをしながら......本人的にはそんなつもりはないのかもしれないけれど、奇妙な動きで俺達に近づいて......偶に離れていくおじさん。

「お酒、お酒ね!おいしかったよ!おじさん、優しくしてもらったの久しぶりだからね!嬉しくておいしかったのよ!」

足早に立ち去りたかったのだが、大声で話しかけられて......捕まってしまった。
レギさんと軽く顔を見合わせるが......レギさんも困ったと言った表情だ。

「......すまねぇな。俺達これから行かないといけない所があるから失礼するぜ。」

レギさんがおじさんにそう言って強引に立ち去ろうとする。

「あれー?そうなのー?じゃぁ、今度!今度一緒にお酒呑もう!」

「おう、今度な。」

適当に相槌を打っておじさんから離れる俺達。

「じゃぁおじさんおうちここだから!また今度なー!」

そう言ったおじさんはカザン君のお母さんの実家で働く使用人さんの家に入っていく。

「......レギさん。」

「あぁ、あのおっさんが使用人だったのか......?しかし昼間から呑んだくれているってのもな。偶々休みとかならいいんだが。」

「一応カザン君には伝えておきましょう。でもあのおじさんが使用人さんだとしたら、手紙と僕達の関係は怪しむかもしれませんね。」

「......あれだけ泥酔しているから覚えているかどうか分らんが......いや、結構時間が立っているのに俺達の事を覚えていたからな、意外と意識ははっきりしていると考えた方がいいか。」

「あぁいう風に酔ったことがないから分からないのですが......そういうことってあるのですか?」

「酔うってのは人それぞれだからな。普段と変わらない状態に見えるのに翌日記憶が残っていないやつもいるし、べろんべろんに酔っぱらっているようで意識はしっかりしている奴とかな。ケイも一度限界まで呑んでみておくといいぜ、自分の限界を知っておくのは酒に限らず悪いことじゃない。」

「......なるほど。今度付き合ってもらえますか?」

「おう、介抱はしてやるから任せておけ。」

レギさんが男臭い笑みでにやっと笑う。
本当にこういう笑い方が似合う人だ。

「ちなみにレギさんはどんな感じになるのですか?」

「あー俺は一定量を超えると寝ちまうな。聞いた話によると倒れたみたいにばったりと寝るらしいな。偶に起きた時に血が固まったりしていることがあるぜ?」

「......それ本当に寝ているんですか?気絶してるんじゃ?」

「否定は出来ねぇが......暫くするといびきをかきだすらしいからな。揺すっても水をかけても絶対起きないらしい。」

......それ遭遇したらかなり怖い奴ですね。
日本だったら救急車呼ぶレベルだと思います。

「あらかじめその話を聞いていたとしても現場に遭遇したら怖いですね。」

「まぁその場合、周りもかなり酔っぱらっているからな。あまり気にしねぇんじゃねぇか?」

「いや、突然倒れられたらこっちの酔いが醒めるんじゃないですか?」

「......そうだな。流石に水を差すのもどうかと思うから、そこまで呑まないようにはしているけどな。」

「......なるほど。」

限界を知っているからこそ制御出来るってことか。
お酒に限らず自分の限界を知ること......魔法でやれることもじわじわと限界を伸ばしているとは言え、その限界を知らなかったらいざって時に大変なことになるからな......。
今まで何度も......特に魔法に慣れていなかった頃は大変な目にあったからなぁ。

「限界を知るのは大事だろ?」

俺が何を考えているのか分かったのかレギさんが笑いながら言ってくる。

「本当にそうですね。」

「どんなことでも大事なことは同じってことだ。失敗を失敗で終わらせない、とかな。」

「無駄な経験はないってことですね。」

そんな話をしながら俺達は街の外で待つリィリさん達へのお土産を購入して街から一度外に出ることにした。

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